見出し画像

【コラム】宗教文化に対応した食事

今日は大学の授業の日。
私は現在、仙台白百合女子大学のグローバルスタディーズ学科(国際教養)で、2科目の授業を持っています。

それは「トラベル実務」と「観光ホスピタリティ」です。

「トラベル実務」では、海外旅行の添乗員業務についての授業が中心で、
その中には空港業務や機内業務も含まれているので、前職時代の話も織り交ぜながら「実務」に特化した話をしています。

もう一方の「観光ホスピタリティ」では、インバウンド旅行者に向けた観光ホスピタリティを教えていて、これはまさに私の専門分野です。

特に授業では、地方都市特有の課題も鑑みながら、学生の自由な発想で、新たなホスピタリティ・アイディアを考案してもらうことを最終目標に、授業を進めています。

これまでコラムでも書いていたような、「サービスとホスピタリティの違い」などにも触れ、「何度でも訪れたい地方」、「インバウンド消費が活性化されるための付加価値」の2本軸でホスピタリティを深掘りしていきます。

これら2つの授業で共通して扱う内容も複数あり、その一つが「多様性」に対する対応。
もっと具体的に言うと、「多様な宗教文化に対する対応」です。

信仰する宗教によって、祈りを捧げる場所や時間、服装、食事にも気を配る必要があります。

イスラム教
ヒンドゥ教
ユダヤ教

この3つは特に、日本の文化と異なる点が多く、その対応にも特徴があります。
例えば、イスラム教を信仰される女性が身に纏うスカーフのようなものを「ヒジャヴ(ヒジャーヴ)」と言いますが、そのヒジャヴにも意味があって、ただの「オシャレ」ではありません。

人気観光地のマレーシアやインドネシア、モロッコ、エジプト、UAEなどを訪れる際には、注意が必要です。

日本に訪れるインバウンド旅行者で、これらの宗教文化を持つ方にとって一番困ることが、「食事」だそうです。
国際線をフライトしていた時、同じようにこの「宗教食」の提供には、特に注意が必要でした。

イスラム教の方が召し上がる「ムスリムミール」。
つまり、「ハラルミール」を意味します。

ハラールでは、豚やアルコールが単純にNGというだけではなく、ブイヨンやゼラチン、調味料で使われる料理酒もNGなので、事前予約されたお客様も、「コレ本当にハラル対応ミールだよね?」と念押しの確認をされることが多くありました。

食事だけではなく、おつまみで提供していたおかきなども全てハラル仕様のものが提供されます。

ハラル対応おかき

ヒンドゥ教を信仰される方のほとんどが、インドの方です。
ヒンドゥ教徒は全世界で11億人。その中でインド国籍の方が10億人もいらっしゃいます。

ヒンドゥ教自体が「民族宗教」ということもあり、本当に多くの宗派が存在し、それぞれに召し上がる食文化が若干異なるそうです。

「ヒンドゥミール」を召し上がる方、「ベジアリアンミール」を召し上がる方、「エスニックベジタリアン」、「ラクトベジタリアンミール」…と本当に
多岐にわたるリクエストがありました。

もちろん共通するところもあって、「神聖な扱いとする牛はNG」「左手は不浄の手」などの特色があります。
全員がベジタリアンなのかというと、そんなこともなく、鶏肉や魚介類を召し上がる方も中にはいらっしゃいます。

最近日本のスーパーでも見かける「ソイミート(大豆肉)」。
大豆でできていますが、味や食感が鶏肉のように感じるもので、日本人でもそれを好んで召し上がる方も多くいらっしゃいます。

日本のスーパでも売られるソイミート

機内食の「ヒンドゥミール」系でも、ソイミートが使われることが多くありましたが、インド人旅客の多くが召し上がる前に「コレは肉ですか?」と
確認されていたのが印象的でした。

「疑わしいものは食べられない」と、
徹底した行動をとっており、それを機に、私もプロとして食材の確認の重要性を感じ、お客様に安心してお食事を召し上がっていただく工夫を、社内に向けて提案したこともあります。

そして、実は特に注意が必要だったのが、ユダヤ教の方が召し上がる
「コーシャミール」です。
ユダヤ教を信仰される方が多いのが、イスラエルとアメリカです。

仕事でイスラエルに行くことはありませんでしたが、アメリカはもちろん複数都市に行き来していたので、「コーシャミール」を提供する機会も多くありました。

「コーシャミール」は、そもそも食器から「清浄化」の施しが必要。
※綺麗に洗うという意味ではありません。

ユダヤ教徒でもない、専門家でもない我々が封を開けてしまった食品などは、召し上がれないものになってしまいます。

外資系航空会社で提供されているコーシャミール

このように特別なパッケージが施され、ヒーティング(オーブンでの温め)が必要なメインディッシュなども、予めお客様ご自身でミールの封を切ってもらい、それを温める対応が必要でした。

もちろん、召し上がることができない食材も多くあります。
牛はOKだけど、豚はNG。
鳥類も召し上がれるものに限りがありますし、魚介類や野菜に関しても、厳格な規定があります。

このように提示すると…
「うわぁ💦ウチじゃやっぱりダメだ。対応できん!!」
とため息が出てしまいそうですよね。

しかし、どの宗教文化を持つお客様も、お食事をされている時は非常に楽しそうにその時間を過ごしていたのが印象的で、それは「世界共通」の一つなのだとも感じたのです。

食事は美味しくて楽しいもの。

「コーシャミールを提供するレストランを増やした方がいい!」
と極端な発想を持つのではなく、お互いの食文化に興味を持ち、その文化を深く知り合うことが、「多様性社会」つまり「ダイバーシティ」の要ではないでしょうか。

それぞれ出来ることには限りがある。
けれど、理解し合うことには制限はいらないはずです。

軽いテンションで、お互いの文化を「へぇ!それいいね〜!」と言えることが、閉鎖的な島国文化を超える鍵になるはずです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?