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身の回りの誰かは、実は他の惑星から来た異星人かもしれない


母星で戦争が起こり、地球に難民として現れた惑星難民 X。
地球に助けを求めてきた彼らは温厚な性格で、基本的に争いを好まない種族。
地球人たちに危害を加えることは少ないと判断したアメリカの政治家たちは、難民を受け入れることに賛成する。
1度だけ使えるというスキャン能力によって人間へと変身し、あたかも普通の人間として社会に溶け込んでいく。

という結構壮大な設定から物語は始まる。
異星人を難民として受け入れようと決まったとき、社会にはどんなうねりが巻き起こり、どんな問題が出てくるのか、混乱と混沌が描かれていくのか…と思いきやそんなこともなく、物語は普通の日常が展開されていく。
出会う人の中の誰かが、仲のいい人の誰かが、もしかしたら難民 Xかもしれない。
さあ、この登場人物の中で誰が難民 Xでしょう? と推理しながら読み勧めていく要素があるかもしれない。
確かにちょっと怪しい雰囲気を醸し出していたり、コイツがそうなのでは、というくだりがあったりして、それはそれで面白いと思う。
ただ、この日常の流れがどう難民 Xと結びついて、どんな結末を迎えるのか、中盤辺りまではあまり釈然としなかった、というのが正直なところ。
メインの人物の誰かが難民 Xだったら、もうちょっと面白かったかもしれない。

惑星難民 Xは、公に地球人に助けを求める前から人間になりすまして生活していたらしい。
段々と人数が増えていくに従い、彼らのネットワークが広がっていき、世界の隅々にまで行き届くようになる。
優秀な個体はテレパシー能力で意思疎通することができ、次第に裏で力をつけていくようになり、世界を掌握していく。
あの有名な人物も、もしかしたら難民 Xかもしれない。
というか権力を持っている人物はほぼほぼ難民 Xの可能性が高い、という結末であった。
なんとなくこれはユダヤ人が人知れず繁栄してきたルーツと似ているような気がした。
ユダヤ人は歴史上ではいろいろな国や人から迫害され、故郷を追われ、定住せずに各地を転々としていたらしい。
彼らは過酷な運命から生き残る知恵を代々継承し、その結果富を稼ぐようになり、権力も持つようになったようだ。
世界を牛耳っているのはユダヤ人だ、という陰謀論が囁かれているほど、世界に数を増やしていった彼ら。
難民 Xのネットワークが広がっていった経緯を読みながら、なんだかユダヤ人と同じだなと思ったのだ。
地球はいずれ、難民 Xによって実質支配されるかもしれない。
この物語の世界だけの話ではなく、この実社会でも、もしかしたら同じようなことが人知れず起こっているかもしれない。
都市伝説なのか、それとも知る人ぞ知る事実なのか。

難民の問題はヨーロッパでは深刻な問題になっている。
難民や移民が増えていくと、自分たちの仕事が奪われたり、住むところが追いやられたりと、現地に住んでいる既存の人との衝突が激しくなる。
逆に日本では少子高齢化で人口が減るので、移民受け入れに肯定的なようだけど、他国の人が増えれば増えるほど、日本らしさや伝統などが薄らいでしまう、という問題も出てくるのではないか。
移民が難民 Xのように日本人をトレースできるのなら問題だろうが、現実にはそれは難しい。
外国人には優しいお国柄とはいえ、本音と建前を使い分けたり、コミュニティに入るのが難しかったりなど、意外とハードルが高い部分もある。
そんな外国人ならではの苦労もちょっと垣間見えたが、移民に対する問題提起作品というほどではない気がする。
個人的に。

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