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本を読んだら生きやすくなった

よく30歳を超えると生きやすくなる、なんてことが言われる。
逆に言えば、20代は大概の人が生きづらさを感じるときなのだろう。
私も社会人になってからうまくいかず退職したり、しばらく無職としてすごしたりと不器用な20代を送ってきた。

そんな私も今年で30歳を迎え、確かにちょっと生きやすくなってきたな、と感じる。
でもそれは、単に年齢を重ねたからではなく、社会人になってから始めた読書のおかげが大きい。

本という媒体はグレーゾーンを尊重するものだと思う。
白か黒かではなく、グレー。
20代のころはこれがわからず、ひたすら自分の意見を正しいと思い込み、周りと衝突していた。

最近、『水中の哲学者たち』という本を読んだ。
哲学を研究している著者が”哲学対話”という活動を通じて感じたことを綴っている本で、その中にこんな一説がある。

哲学をやるとどんな良いことがありますか、と聞かれる。よくわからない。それなりの、ぼいことを適当に言ってしまう。相手は納得しているようだけど、実際のところはよくわからない。

『水中の哲学者たち』

哲学を研究している人が、哲学のことをよくわからないと言える。
自分の意見を正解と押し通さず、読者に問いを投げかける。
そんな本を読んでいく中で、自分の考えは一つの意見に過ぎず、意見に正解なんてないということがわかってきた。
そのおかげで、他の人の意見を尊重し、グレーゾーンの中で交流することができるようになった。

そして、本を読めば自分と近い価値観を持った人と出会えることがある。
社会人になってからプログラマーとして働きながらも鬱屈とした日々を送っていた私は、3年ぶりに大学の友人たちと会うことになった。
友人たちは自分の仕事に責任感を持って取り組んでおり、自分だけが取り残されたように見えた。
友人が楽しそうに仕事の話をするのが気に食わず、反発するようにして仕事の悪口を言っていたら「お前の話は愚痴ばかりでつまらない」と冷水を浴びせられた。

そんな中で出会ったのが『ニートの歩き方』である。

だるい。めんどくさい。働きたくない。小さな頃からずっとそう思っていた。「働かないと生きていけない」ということにどうしても納得がいかなかった。みんなそれが当たり前だって言うけれど、確かにそうなのかもしれないけど、でもそんなはずはない、というか、それだと嫌だ。

『ニートの歩き方』

私は友人たちとこんな話をしたかったんだ。
たしかに働かなくちゃやっていけないのかもしれない。
でもそんな中でも「働くのってつらいよね」という気持ちをわかりあいたかった。

社会の中で「働きたくない」と無遠慮に言える人はなかなかいない。
でも本の中でなら言ってくれる人がいる。
そして、その言葉は自分たちが社会で生きていく上で心の奥底に閉まっていた本音に響く。

そういうふうに、自分の価値観と似ている本や似ていない本を読むことで、自分の価値観の土台ができてくる。
そうすることでやっと、自分なりの社会との付き合い方がわかってくる。
私はプログラマーをやめて、実家で1年無職をしていた。
これからどうやって生きていけばいいのかがまったくわからず、袋小路でうずくまる日々を過ごしていた。
そんな中で出会ったのが、『古くてあたらしい仕事』という本である。

ぼくの頭のなかには、いつも近所の中華料理屋さんの仕事があった。
その店は実家からあるいて五分の場所にあり、ぼくは子どものころから、その店のラーメンや餃子を食べて育った。彼らは家族四人で店を回し、汗を流しながら厨房で調理をし、岡持ち付きのカブで近所をぐるぐると走りまわっていた。彼らはいつも笑顔で、ぼくと目が合うと必ず「こんにちは」といった。
ぼくは彼らの働きぶりが好きだったし、彼らのように仕事をしてみたかった。つまり、自分の仕事をデスクワークではなく、交渉事でもなく、肉体労働のようなものに近づけてみたかった。

『古くてあたらしい仕事』

当時の自分にとって、仕事とはデスクワークのことだった。
曲がりなりにも大学を出たからには、というどうしようもない自意識が”仕事”というものをひどく矮小にしていた。
そんな中、この文章に出会って「自分もこんな働き方がしてみたい」と思えた。
そうして紆余曲折あって、現在は小さな書店で働いており、大変だけど悪くないと思える日々をなんとか過ごせている。

私は社会人になるまで本を読んでいなかった。
調べ物をするのはネットで充分だと思っていたし、自分の考えが正しいと思っていた。
でもそれを続けていくと、どんどん視界が狭くなっていき、いつの間にか行き詰まってしまう。

本を読んで一息つく。
そうして顔を上げると、他の道があることに気づく。
私は本を読むことで息がしやすくなり、自分なりの道を行きやすくなった。

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