一箱古本市で本を売る
一箱古本市を知っているだろうか。
本屋さんじゃない人でも、気軽に自分の本を売ることができるイベントだ。
本のフリーマーケットと言えば、想像しやすいかもしれない。
そんな一箱古本市に、私は今までで4回ほど参加している。
一箱古本市はとにかくお客さんとの距離が近い。
本棚を挟んで、すぐ目の前のお客さんが本を眺める。
おずおずと手を伸ばし、気になった本をパラパラとめくる。
そして、気に入れば、小銭を手渡しして本を買ってもらえる。
戸惑ったのは、お客さんに「この本おもしろかった?」と聞かれることだ。
私はふだん書店員として働いているが、その中で聞かれることはまずない質問だ。
本屋にある本を全部読むなんて不可能だし、お客さんもそれを店員に期待してはいない。
だけど、一箱古本市ではお客さんが出店者に、「読んで面白かった本」を持ってくることを期待している。
とはいっても、自分が持ってきた本の中には読んでない本もあったので、最初に聞かれたときは面食らった。
それ以降、読んでない本でも出店前にはパラパラとめくり、中身を確認するようにしている。
そんな一箱古本市に参加するたびに。私は書店員として身が引き締まる思いがする。
「ここには本屋としての、原初の商いがある」
そんなふうに感じられるからだ。
本屋で働く中で重視されるのは、やはり売り上げである。
ともすれば、目の前のお客さんより画面の中の数字が気になってしまう。
そのために大量の本を仕入れて、届いた本をせわしなく棚に出し、たくさんのお客さんに本を買ってもらえるようにする。
そんな中で、一人のお客さん、一冊の本を意識した仕事をするのはなかなか難しい。
一箱古本市に参加するたびに、本屋の名店である往来堂書店と三月書房(休業中)についての文章を思い出す。
客の顔が目にうかぶような本。
けっきょく、一箱古本市も書店も根底は一緒なのだと思う。
本は置いておけば勝手に売れていくものではなく、一人一人のお客さんが「その本を買う理由」を持って、一冊一冊を買っていくものなのだ、
ただお客さんとの距離が近い一箱古本市では、それが目に見えやすいだけにすぎない。
年に数回、一箱古本市に出店し、青空の下で本を売る。
その時間は私に、書店員としての初心を思い出させる。
そのたびに私は、これからもなんとかやっていくか、とぼんやりと思うのである。
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