見出し画像

シーソーシークワーサー Ⅱ【79 入り口と死角】

【シーソーシークワサーⅠのあらすじ】

 母を亡くし、その孤独感から、全てを捨てて沖縄から出た凡人(ボンド)こと、元のホストの春未(はるみ)。

 一番に連絡をとったのは、東京の出版社に勤める絢だった。

 絢に会うまでの道のり、人々との出会いで得たことは何だったのだろう。島に帰った凡人は、母亡き後の、半年間時が止まっていた空間に佇みながら、生い立ちを振り返っていた。


【シーソーシークワサーⅡ 今までのあらすじ】



 生前の凡人の母、那月(なづき)は凡人を守って生き抜くために、様々な選択をする。

 沖縄から遠く離れた本土の片田舎で育った凡人の母、那月。母の重圧に耐えかね、家を出た。家出少女を何も聞かずに受け入れたMasaとその妻、順子。Masaは那月に3ヶ月で売り上げを3倍にすることを条件に、次の日から衣食住の提供と引き換えに那月を自分の古着屋で働かせる。

 その店に決まって現れる女とMasaの関係に気づいた那月。それ以外は満たされた労働環境のはずだった。店を出る決意をした那月だったが、また別の店に拾われる。そこは寂れた商店街の一角にある靴屋「ANYO」だった。
 
 ANYOの店主、犬伏は開店直前にレジに釣り銭を入れ、どこかに消え、毎日17時には定額5000円を那月に渡し、1日を終える。その意味について興味を持った那月は……


Ⅱ【79 入り口と死角 】


 朝、何もしないために公園に来ていると言った犬伏は、定時になるといつもの角から現れ、レジに釣り銭を入金した。さっき公園で出会った犬伏と同一人物のはずなのに、ケロリとした顔は、どこかスッキリしていて、それ以上も以下もなく、本当に何もない顔をしている。
 公園で犬伏の姿を確認した後の那月は散歩をしていた。その時に出会った銭湯のおかみさんとのテンポ良い会話のリズムを保ったまま、今朝は気持ちよく開店した。こころなしか、いつも部屋干しの湿気を帯びている服も今日はからりと乾いている。

ここから先は

1,267字

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?