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シーソーシークワーサー Ⅱ【81 延長線上の日常 】

【シーソーシークワサーⅠのあらすじ】

 母を亡くし、その孤独感から、全てを捨てて沖縄から出た凡人(ボンド)こと、元のホストの春未(はるみ)。

 一番に連絡をとったのは、東京の出版社に勤める絢だった。

 絢に会うまでの道のり、人々との出会いで得たことは何だったのだろう。島に帰った凡人は、母亡き後の、半年間時が止まっていた空間に佇みながら、生い立ちを振り返っていた。


【シーソーシークワサーⅡ 今までのあらすじ】



 生前の凡人の母、那月(なづき)は凡人を守って生き抜くために、様々な選択をする。

 沖縄から遠く離れた本土の片田舎で育った凡人の母、那月。母の重圧に耐えかね、家を出た。家出少女を何も聞かずに受け入れたMasaとその妻、順子。Masaは那月に3ヶ月で売り上げを3倍にすることを条件に、次の日から衣食住の提供と引き換えに那月を自分の古着屋で働かせる。

 その店に決まって現れる女とMasaの関係に気づいた那月。それ以外は満たされた労働環境のはずだった。店を出る決意をした那月だったが、また別の店に拾われる。そこは寂れた商店街の一角にある靴屋「ANYO」だった。
 
 ANYOの店主、犬伏は開店直前にレジに釣り銭を入れ、どこかに消え、毎日17時には定額5000円を那月に渡し、1日を終える。その意味について興味を持った那月は……


Ⅱ【81 延長線上の日常 】


 その日の夕方、犬伏は珍しく17時前にやってきた。形跡を残したままの椅子を静かに元の位置に戻すと、目尻に皺を寄せ、柔らかな目で笑っていた。

「ああ、和菓子のあきよさん、今日も来られたんですよ」

 なかなか片付かない紳士靴売り場から、棚を挟んで背中越しに話す。

「うん、そうだろうと思った」

 閉店前、犬伏は淡々と釣り銭を数え、レジ締めをしながら答えた。「今日も」という節を受け取ったのか受け取っていないのか、那月は茶革の靴を持ったまま、犬伏の顔が見える位置まで首を伸ばした。

 笑いを堪えているような顔に、那月は確信を得た。

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