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第8章:エロ業界の闇とアングラカルチャーの真実

「かえるくん、君は早かれ遅かれ警察に逮捕されていたはずです」と覇王は言った。
 覇王がオフィスを構える雑居ビル。すぐ下のフロアのテナントとして入居している新興宗教団体の歌う謎の讃美歌が微かに聞こえてくる。

「僕が逮捕されていた?どういうことだ」
「大手AVメーカー以外の素人撮影者や個人撮影事業者、こういった業者の作品は犯罪の温床になっているんです」
「犯罪の温床?」

「そうです。インターネットによる素人革命の真実と功罪」と覇王はゆっくりと僕に説明をはじめる。「僕が知り合った女性のなかにもアダルト女優はいました。その子には様々な性的趣味嗜好の依頼がくるそうです。そして、その子が断る仕事とは何か?例えば、それは『⾍やトカゲ、カブトムシをハイヒールで踏みつぶす仕事』です。そんな仕事を受けたら、どんなにギャラが良くてもメンタルを病んでしまうでしょう。でも、そんなマニアックな需要があるからこそモデルに依頼がくるんです。狂気の世界なのです」

 覇王は続ける。
「⼤⼿のレーベルが⼿掛けることができない、グレーで法律違反ギリギリ、いや完全に法律違反なモノが売れるのです。例えば・・・ガチの盗撮モノです。盗撮⾵ではありません。本物の盗撮です。⼤⼿レーベルでは作れない、こんな作品が売れる世界なんです」
 確かにそうだ。エロのマーケットプレイスには⼤量の作品が毎⽇アップされている。素⼈のエロの世界は、すさまじいプレイヤーの数と流通量を誇るのだ。単なる絡み系の作品を出品したところで、それは大手AVメーカーの作品の劣化版でしかない。

 覇王の瞳が濡れてきたように僕は感じた。
「他には・・・ガチのロリータ系です。ロリータ風ではありません。出演者は⼦供です。もう完全な犯罪です。こんな世界なんですよ。このフィールドで勝負するには、逮捕される覚悟と常軌を逸した性癖が必要なんですよ。コンテンツは過激化し、作り手はアタマのネジがぶっ飛んだ奴しか残らない構造。コンテンツは先鋭化し“変態の、変態による、変態のためのコンテンツ”しか生き残れない。失うものがない無敵の人しか生きられない修羅の世界です」

 覇王は僕の目をみつめる。
「そんな業界構造と警察の動き。それを秀吉が把握できない訳がないんです。秀吉はかえる君を警察に売ったのではないでしょうか?」
「警察に僕を?」
「そうです。秀吉は脱税の容疑で追われているとの噂を耳にしています。警察は国税と手を組み秀吉のアジトを一網打尽にしようとしていた。秀吉は自身が逃亡するために一時的に警察の目をかえる君と家康に引き付けさせたのではないでしょうか」

 秀吉の言葉が脳裏に蘇る。
「今回の仕事は国家転覆てす」と秀吉は僕に言ったのだ。
「国家転覆?」
「冗談ですよ」と秀吉は笑っていた。

 あれは冗談ではなかった?秀吉は僕を騙そうとしていた?オフィスにはコストをかけない主義の覇王の部屋はエアコンも弱めだ。僕はいつの間にか汗ばむ。宗教団体の鬱陶しい讃美歌も終わっていた。部屋はしんと静まり返っている。

 これは秀吉の陰謀なのか?

【つづく】

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