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書きたいネタ4 人の肩に疫病神が見える子

 少年は人の肩に厄災を見ることができた。小鳥のような小さい厄災なら、その日のうちに箪笥の角に小指をぶつけるとか、物をなくしてしまうだとか、風を引くだとかそんな程度。人の頭ぐらいの厄災なら、少し先に骨折とか入院とか、大切なものを壊してしまうだとか。
 ちいさな厄災ほどよく目にする。おっちょこちょいで有名な人の肩には、ほぼ毎日小さな厄災が乗っていた。自分の肩にも乗っているのを見ることがある。そんな日はたくさん気をつけても、忘れ物をしたり足をぶつけて打撲になったりしてしまうのだけど。中くらいの厄災は、街を歩いてるとたまに見かける程度。それを乗っけている人には、まぁ、ご愁傷様としか。

 滅多に見ないのは、反対側の肩まで覆いかぶさりそうな大きいもの。それがついている人は、それほど遠くない未来に仲の良い人か身内か自分が命を落とす、らしい。ある日出会った言葉を介する厄災に、教えてもらうこと。

 いつも居眠りしてるホームレスのおじさんの肩の上に、今までと全く違うものを見つける。鎌を持って、実態があるようなないような、黒いボロを纏ったもの。明らかに実態のなかった他の厄災と違って、形がはっきりしている場所がいくらかある。それでも厄災と同じようなものだと分かったのは、下半身は霞んで黒い粒子が蠢いている形のないものだから。

 『それ』は喋った。ホームレスが眠っている間だけ、少年とそれは対話をした。最初は怖がって、次第にお互いに興味を持って、まぁなんとなくの友人のように、対話をして。『それ』は死神と名乗った。厄災は人への害を感知し厄災によって生まれる負のエネルギーを食糧に集まっているらしい。つまりそれはただ予知の代わりになるような存在であって、それを追い払ったところで不幸はなくならない。死神は、これから死ぬ人間の中で人間に転生する資格のない者を、労働力として連れて行くためにその人間が死ぬのを見届けるらしい。死神や厄災たちは手を下す存在ではない。あくまで人間たちが自らそれに陥るのだ。彼らはそれを感じ取って集まるだけ。大きさは、起こる厄災の程度に比例する。少年と死神は対話をした。

 しばらくして、ホームレスの男が死んだ。それの魂を瓶に閉じ込めるところを、少年は眺めた。不思議な光景だった。死神は次の場所へ行くらしい。別れを言おうとする少年を、死神は笑った。

「必要ないんじゃねぇ?ww」

 少年には何が言いたいのか分からなかったが、去ってしまうのは死神の方なのだから彼にはどうしようもない。


 家に帰ると、自分以外の家族全員の肩に厄災がついていた。今まで見たもののどれでもなく、紐のように連なる粒子が肩から一方方向に伸びている。家から出てそれを辿ろうとしてみたけれど、遠すぎて諦めた。その日は今度家族旅行に行く日の話をしていたけど、少年は上の空でよく聞いていない。だって、家族の肩に今までと違うものができて、落ち着いていられるだろうか。何が起こるのか予想できないのが一番怖いのだ。

 それでも何も起こらずに、旅行の日が来る。宿泊先に着くと、そこの宿泊客には、全員同じ紐が伸びていて。その宿の屋根の上には今まで見たことないぐらい大きな厄災が渦巻いていた。そして、死神と再会する。死神はそこの宿屋の主人に憑いているらしい。つまり、宿屋の主人ももう時期死ぬのだ。とても温厚そうに見えるのに、人間に輪廻転生する資格を奪われるようなことをした人間だというのがにわかに信じ難かったが、少年が何か言ったところで何も変わりはしないのも分かっていた。どうしても知りたいなら、本人に聞くより死神に聞いた方が早いのだし。(主人が怪しいという描写)

 少年は、今日ここに泊まる人が、今ここにいる全員がこの宿に集まっているとき……つまり今夜か明日の夜に何かが起こるのだと推測した。一日目の夜には何もなくて、昼間は遊びながら考えた。でも、少年には分からない。少年は特別頭がいいわけではなかったから。

 二日目の夜は、外に出て隠れて屋敷を見ることにした。地震が起きるのなら外の方が安全だし、不審者が夜に入り込んできて不幸を与えようとしてるのなら、外から入ってくるのを見た方がいいのだし。
 だがしかし何も起こらず、突然中で物が壊れる音が聞こえる。慌てて死神に尋ねると、宿泊客の一人の仕業らしい。物取りと殺人を繰り返している男。特別悪くも特別よくも見えなかった、特徴のない男。
 主人はこの事件と全く関係がなかった。男が事件を起こす少し前に、見つけにくい部屋で一人、心臓の病気で死んでしまっていた。既に死神は魂を瓶詰めにした後だったのだ。

 少年は父と母を呼ぶために、屋敷の中へ戻ろうとした。死神は笑う。

「おいおい、何やったって間に合わないのは分かってんだろ?」

 見える厄災は、紛うことなく父と母の肩にも纏わり付いていたのだから。

 それでも助けようとするけど、先に殺人鬼とエンカウント。逃げ回って、揉み合って、本棚の下敷きにする。両親の部屋へ急ぐけれど、男が着けたらしき火が広がっていく。嫌な予感がしながらも、少年は部屋へ急ぐ。
 でもまぁ、もう手遅れに決まっているんだよね。
 少年は遺体の前で泣く。ただ、泣き崩れる。どこかで間に合わないんだって事は解ってしまっていたけど、分かりたくなったことなのだ。このまま眠ってしまいたかった。

 部屋の温度が上がっているのが明らかに分かるようになってきた頃、熱くてふと顔を持ち上げた少年は窓の外に死神の姿を見た。死神はずっと少年を監視していたのだ! それはつまり、次の彼の『見届け』の対象は少年自身だと言うことで。彼はそう遠くないうちに死ぬのだ。母と父を掬えなかった、他でもない厄災の糸の導きで。そんなのは御免だった。少年は立ち上がって動き出した。それならまだ、抗って生きてしまった方がマシだ。

 部屋の扉を開ける。でも下へいくための階段は既に火の海で、足を踏み出せるような状況ではなくて。炎を避けながら一度部屋へ戻る。死神に窓の下に足をかけられそうな所がないか聞いて。最後は少し落ちるような形で助かる。

「僕は生きてるぞ、ざまぁみろ……!」

ここがクライマックスが終わる場所。


 あとは死神にお前、まだまだ死なねぇぞ? って言われてポカンてして、泣いた顔のまま軽く笑って、少しずつ回復してほしい。死神が観察してたのはまた別の特別指令があったから。

「不思議なことにね、まだ死なないってわかった瞬間死ぬのが怖くなったよ。しぶとく生き抜いて見せるからせいぜいそこで観察してれば?」



 ホラーのような、ミステリーのような不思議なSF。若干少年があっさり立ち直りすぎな気もするけど、これ以上遅らせる理由や経緯が思い付かない。多分私には書けないな。

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