ニセ梶原康弘

プロ作家を目指す底辺物書き。代表作「デブオタと追慕という名の歌姫」。良い小説を書くこと…

ニセ梶原康弘

プロ作家を目指す底辺物書き。代表作「デブオタと追慕という名の歌姫」。良い小説を書くことよりライバルの足を引っ張ることばかり考えています

最近の記事

デブオタと追慕という名の歌姫 #完結

最終話 それは奇跡のように ②  ざわめきが起きる。まさか、という顔で人々はステージの周囲を見回したり、スタンド席後方の入り口へ振り向いたりした。  だが、彼女の姿はどちらにもない。  ステージからレナレナが呼びかける。 「誰?」 『私はエメル……エメル・カバシよ』  ステージ背後の巨大モニターに、漆黒のドレスをまとった美しい黒髪の少女が現われた。 「エメルだ! エメルが現われた!」  歓声と驚愕の入り混じった叫びが上がる。  今日のステージはたくさんの小さなサプラ

    • デブオタと追慕という名の歌姫 #27

      最終話 それは奇跡のように ① 『ドリームアイドル・ライブステージのプロデューサーの皆さま。いつも歌姫を大切に育てて下さり、ありがとうございます。さて、来年二月を持ちまして当プロダクションは所属するアイドル達を卒業させたいと存じます。ファーストステージが始まり二年になりました。笑顔や涙の思い出を胸に、彼女達がそれぞれの空へ羽ばたく時がやって来たのです。一足早い卒業となりますが、どうか彼女達の旅立ちを笑顔で見送って下さい。そして、新たなアイドル研究生達を迎え入れたセカンドシー

      • デブオタと追慕という名の歌姫 #26

        第8話 追慕という名の歌姫 ③ 「エメルだ! エメルが現われた!」  照明を落としたホールは薄暗く、上映前の映画館にも似ていたが、そこは静けさとは無縁の場所だった。  戦闘ゲーム特有の爆発音や格闘ゲーム独特の殴打音、ファンファーレ、掛け声、悲鳴、勝どきの雄叫びなど、電子で作られた様々な音が飛び交っている。  ここは日本の秋葉原。とある巨大なゲームセンター。  暗いホールの中で激しく場面が移り変わるゲーム画面は、まるでフラッシュライトの点滅のように様々な光を暗い室内の壁

        • デブオタと追慕という名の歌姫 #25

          第8話 追慕という名の歌姫 ② 「本当の名前、教えてくれなかった?」 「……」 「住所とか知らなかった? どこのホテルに泊まってたとか」 「……」 「じゃあ彼からメールとか来なかった? メールアドレスは分からない?」 「……」  尋ねられる質問のどれにもエメルは力なく首を振り、リアンゼルはため息をついた。 「……何の手がかりもなしか」 「デイブは、自分のことを聞かれるのが好きじゃなさそうだったから」  蚊の鳴くような声で答えたエメルは「彼のこと、もっと聞いておけばよか

        デブオタと追慕という名の歌姫 #完結

          デブオタと追慕という名の歌姫 #24

          第8話 追慕という名の歌姫 ①  イギリスの春は、色とりどりの花が咲き乱れる素晴らしい季節である。  陽光の余り差さぬ陰鬱な冬から温かい日差しの季節が巡って来ると、その喜びを体現するように様々な花々が庭園や街路樹、果ては階段の端や石畳の隙間から咲き始め、人々の心を浮き立たせてくれるのだ。  日本同様、桜もイギリスでは最もポピュラーな春の花として親しまれている。  しかし、日本の桜のようにすぐ散ってしまわず比較的長い間咲き続け、人々の眼を楽しませてくれる。  そして桜だけでは

          デブオタと追慕という名の歌姫 #24

          デブオタと追慕という名の歌姫 #23

          第7話 衝撃と栄光と別離 ⑦  もうプライドも何もなかった。  地に堕ちたそれは、泥にまみれ、汚れきり、かつての面影すら残していない。  リアンゼルは、泣きじゃくりながら何度も何度も「違うの……そんなつもりじゃなかったの……」と訴えていた。  彼方からは割れんばかりの大歓声が聞こえてくる。耳を塞いでしまいたかった。  がらんとした薄暗いステージ奥で、彼女の訴えを聞く者は誰もいない。  ただ一人、自分を愛してくれたマネージャーだけを除いて。 「ええ、わかってるわ。あなたがそ

          デブオタと追慕という名の歌姫 #23

          デブオタと追慕という名の歌姫 #22

          第7話 衝撃と栄光と別離 ⑥ 「皆さま、第四八回ブリティッシュ・アルティメット・シンガー・オーディションは、遂に最終ステージを迎えました」  会場には「御静聴をお願いします」というアナウンスが再び流れたが、ここに至って観客はざわめきを抑えられることが出来なかった。  司会者の声も、興奮の色を隠し切れない。  昨年も、一昨年もこの最終ステージに立った歌姫はいなかった。  一昨年は残念そうな観客に向かって彼は「皆さん、次回こそ栄冠を手にする素晴らしい歌姫が現われますよ。また来

          デブオタと追慕という名の歌姫 #22

          デブオタと追慕という名の歌姫 #21

          第7話 衝撃と栄光と別離 ⑤  第三次選考が終わると、一六人いた歌姫は更に半減し八人になった。  オーディション開始時点で六四人いたはずの歌姫は三度のふるいに掛けられ、もう数えるほどしか残っていない。  リアンゼルを慕って出場した三人の少女も、一人また一人と落ちてゆき、最後に残ったアンジェラも八人の中に残ることは出来なかった。彼女は「どうか、私たちの分も……」とリアンゼルの手を握って、ステージから去っていった。  僅かなインターバルを置いて、新たな選考の開始が告げられる。

          デブオタと追慕という名の歌姫 #21

          デブオタと追慕という名の歌姫 #20

          第7話 衝撃と栄光と別離 ④ 「第一次選考はこれにて終了します。ご担当の審査員の皆さま、ありがとうございました」  司会者の挨拶を受けて審査員席に座っていた人々が立ち上がった。選考の公正を期するために別の審査員に交代するのだ。 「お疲れ様でした。応募してきた歌姫達を如何思われますか?」  司会者にマイクを向けられた一人の審査員が答えた。 「みんな素晴らしかったね。去年とは比べ物にならないくらい歌唱力の高い娘が多くて審査が難航したよ。喜ばしいことだ。名前は出さないが、

          デブオタと追慕という名の歌姫 #20

          ティーガー戦車異世界戦記 小さな希望を紡ぐ姫と鋼鉄の王虎を駆る勇者 【完結】

          エピローグ  虹  ――この力の全てを、弱き者を救う為に捧げたい  最後の瞬間そう願った「彼」は、もともと意思も感情もないはずの存在だった。 ……ここはどこだろう  自分の身体へ何かが激しく叩きつけられる感触に、暗転したはずの意識がうっすらと目覚めた。  それは雨だった。  雨くらいでその鋼鉄の身体が寸毫も揺らぐことなどはない。  だが、雨は「彼」に陰鬱なものを想起させた。  荒れた風の吹きすさぶ寒い日の夜更け。降っては止み……そんな小雨の中で貨車の上から見た悲しい

          ティーガー戦車異世界戦記 小さな希望を紡ぐ姫と鋼鉄の王虎を駆る勇者 【完結】

          デブオタと追慕という名の歌姫 #19

          第7話 衝撃と栄光と別離 ③  かくして、様々な悲喜劇を絡めながらイギリス最大のアマチュア歌手オーディションの幕は、遂に切って落とされた。  厳正な選考で選ばれた六十四人の少女たちの顔ぶれは様々だった。エメルのように独学で研鑽を重ねたフリーランスもいればプロダクションで鍛え抜かれて送り込まれた秘蔵っ子もいる。中には声楽を学ぶために海外からやって来た留学生や医者から特別に許可をもらって応募した入院患者もいた。  一見、無作為に選ばれた集団のようにも見えたが、実際は全く逆だった

          デブオタと追慕という名の歌姫 #19

          デブオタと追慕という名の歌姫 #18

          第7話 衝撃と栄光と別離 ② 「皆さま、たいへんお待たせいたしました。ここに栄えある第四八回ブリティッシュ・アルティメット・シンガー・オーディションを開催いたします」  礼装姿の司会者はバラエティ番組でもお馴染みの男だった。軽やかな口調で開催を宣言すると、会場からは歓声が沸き、拍手が応えた。 「この偉大なイギリスにおいて、歌は単なる文化というだけではありません。人々の生活に欠かせぬ潤い、心の糧でもありました。振り返って歴史を紐解けば、かつて第二次世界大戦において人々の苦

          デブオタと追慕という名の歌姫 #18

          ティーガー戦車異世界戦記 ~小さな希望を紡ぐ姫と鋼鉄の王虎を駆る勇者 #21

          最終話 めぐり逢い  そこは、本来自分がいるべき世界のはずだった。  なのに……  警察署から外へ踏み出すと街の騒めきが、どこか気に触って仕方がなかった。  ずっと聞いていなかった交通信号機のシグナル音、街頭モニターから流れるCM音楽……不快に感じる必要などないものでさえ。  ここはもうあの異世界ではなかった。  魔法など何処にもなく、科学が全てを支配し、法律で秩序が守られた現実世界。厳然たるヒエラルキーの前に弱者の声など一顧だにされない冷たい社会だった。  還ってきた

          ティーガー戦車異世界戦記 ~小さな希望を紡ぐ姫と鋼鉄の王虎を駆る勇者 #21

          デブオタと追慕という名の歌姫 #17

          第7話 衝撃と栄光と別離 ①  スノードロップは、別名「春を告げる花」とも言われている。イギリスではまだ肌寒い雪解けの二月の初めから咲き始める。  花びらはその名の通り白い雪の滴のように可憐に俯く姿だが、その小さな花は寒さに負けずに力強く咲こうとする。  花言葉は「希望」。  ロンドンの中心部でウェストミンスター地区からケンジントン地区にまたがる王立公園、ハイド・パークでも、その広大な敷地のあちこちでスノードロップが、まだ冷たい風に花びらをそよがせている。  彼女たちは水仙

          デブオタと追慕という名の歌姫 #17

          デブオタと追慕という名の歌姫 #16

          第6話 夜明けに向かって ③ 「オーケーです。収録は完了しました。お疲れ様」  チープ・トリックの「マイティウィング」がフェイドアウトしてゆく。リアンゼルは訝しげに防音ガラスの向こうへ眼を向けた。  頷いて扉を指さされている。彼女は怒らせていた肩を落とすと耳からヘッドフォンを外した。  どこか虚脱したような表情で録音ブースから出るとヴィヴィアンが肩に抱きついてきた。 「上手よ。やっぱり凄いじゃない。ね、リアン、元気を出して……」 「ありがとう。大丈夫よ。私、大丈夫だから

          デブオタと追慕という名の歌姫 #16

          ティーガー戦車異世界戦記 ~小さな希望を紡ぐ姫と鋼鉄の王虎を駆る勇者 #20

          第19話 見捨てられた異世界の片隅で 「ここは紛れもなく約束の地。私から貴方がたリアルリバーの魔族へ贈る楽園です」  ぎょっとなったアリスティアの、そして魔物達の顔が一斉にその声の持ち主に向けられた。 「お婆ちゃん……」  さっきまでアリスティアの告白に狼狽しオロオロしていたはずのメデューサ婆が立ったまま瞑目し、身体をゆらゆら揺らしている。  だが、その声は明らかに老婆の声ではなかった。  男性のようでもあり女性のようでもある不思議な声色で、どこか広大な場所から呼びか

          ティーガー戦車異世界戦記 ~小さな希望を紡ぐ姫と鋼鉄の王虎を駆る勇者 #20