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~日本に適したイノベーター~リアル企業内イノベーター 半田純一(著)を読んで

「ベンチャー輩出に期待をするな!」
「シリコンバレーは手本にならない」
という過激な本の帯に惹かれて本書を手に取りました。

リアル企業内イノベーター

「イノベーション」と聞くと「ベンチャー」、「シリコンバレー」という言葉が浮かんでしまいますが、文化やビジネス環境の異なるアメリカ発の手法を鵜吞みにすることが果たしていいのか。
そんな、疑問がふっと沸いた瞬間にはすでに購入していました。
本記事ではそんな疑問に答えるべく筆者の考え方について触れてみたいと思います。

1 著者の紹介

半田 純一(はんだ じゅんいち)
東京大学大学院経済学研究科特任教授。東京大学グローバルリーダー育成プログラム(GLP/GEfIL)推進室兼任
1988年から17年間にわたりマッキンゼー、A.T.カーニーなどで経営コンサルティングとその経営に従事。戦略、イノベーション、サプライチェーン、組織・人事の支援を行う。その後、企業のリーダー育成に力点を置いたコンサルティング会社を起業。2013年からは、武田薬品工業コーポレートオフィサー人事部長として同社の企業変革を率いるメンバーとなる。2016年より現職。ハーバード大学経営学大学院修了(MBA)、東京大学社会学科卒
(日本経済新聞出版ホームページより)

2 目次

序章 必要なのは日本に適したイノベーターづくり
【物語編】
1 独自の世界を描くアーティスト
2 制御困難な大黒天
3 力まず時代を創るサイエンティスト
4 主君不要の稀代の軍師
【提言編】
第1章 企業内イノベーションを起こすのはどのような人物か
第2章 企業内イノベーションを起こすのに不可欠な「4枚のカード」
第3章 4人の物語から見えてくるもの

3 日本においてイノベーターを継続的に輩出するための基本的な認識

日本企業にとって、いかに継続的にイノベーターを輩出し、イノベーションを続けていくかは課題とされていますが、その答えに関し、以下のように述べています。

シリコンバレーのような突出したイノベーターの集合体(地理的な地域であり、かつ人々のネットワークでもある)を日本国内に再現することが、答えとなるのであろうか。
中国の深圳周辺地域や欧州の一部の国などが追いかけているようなこうしたアプローチは日本にとって現実的な答えとなるのであろうか。
少なくとも筆者にはそうは見えていない。
(リアル企業内イノベーター 半田純一(著)より)

アメリカではシリコンバレーを典型例として、大企業におけるイノベーション活動の一定割合を優れた起業家に任せたうえでその成果を買い取るサイクルがあります。
しかし、日本の場合には、こうしたモデルをイノベーションの取り組みの中心に置くことには無理があると筆者はいいます。
経済社会的基盤の性格から、またその歴史的成り立ちから、日本のイノベーションの力は「起業」よりも「企業」にあるとのことです。

4 企業内イノベーターの資質

本書の調査は、10社の企業における11のイノベーション事例をもとに行われています。
調査では、イノベーション事例の主役と脇役を特定し、それぞれの経験や特性を分析することで、企業内イノベーターに必要な資質を浮かび上がらせています。
主役だけでなく、脇役も含めた企業内イノベーター30人から得たデータに基づく資質面の共通点は以下の通りです。

【主役と脇役の資質面の共通点】
●具体的成果をとことん追求する
●前例のないことへの挑戦と実現に存在感を求める
●知的好奇心にあふれている
●やりきる執着心と忍耐力に優れる

資質面に注目すると主役、脇役ともに大きな違いはなく、イノベーションに挑戦することができる人物は、4つの資質に代表される「起業家精神」を有する人物であるといえます。

では、「特徴的な経験値」と「力を発揮した役割」を比較した場合はどうだったのでしょうか。
ここでは、主役と脇役に大きな違いが確認できます。

【特徴的な経験値】
(主役)
・リスクをとって新しいことに挑戦する(せざるを得ない)経験
・収益責任を持つ経験
・技術と事業の両方を経験
(脇役)
・学際的な研究、業務経験
・当該分野でグローバルな水準を知る

【力を発揮した役割】
(主役)
・ビジネスモデル/戦略立案
・市場と顧客の深い理解
・社内(外)各部門の協力の取り付け(動員)
・新製品への情熱と実績
(脇役)
・技術者(専門家)としてのすぐれた力量
・世界中の新技術の探索と導入
・新製品への情熱と実績

5 企業内イノベーター育成の課題

上記では【資質面の共通点】、【特徴的な経験値】、【力を発揮した役割】について整理しました。
それらを踏まえて、企業内イノベーターを育成する場合には以下の課題があると考えられます。

・主役と脇役では資質面では多くの点で共通しているが、業務の経験によって発現する、主役・脇役の特性を見抜くこと

・発現した主役・脇役の特性を踏まえ、それぞれに活躍の場を与えること

6 企業内イノベーターを輩出するためには

上記の課題を踏まえて、企業内イノベーターを輩出するためにはどのような取り組みが必要になるのでしょうか。
本書では、データをもとに分析した結果、企業内イノベーターを輩出した際の取り組み、経験値の形成など共通項が示されていますが、本記事では以下の3点を紹介します。

・入社10年ほどの間の経験値
企業内イノベーターも入社時にイノベーションを起こすと意気込み、その準備ができていた人は一人もいません。
つまり、企業内イノベーターはそれから何年かをかけて「覚醒」すると筆者はいいます。
特に、以下の4点は入社後10年程度までの仕事の経験のうち、「覚醒」するために決定的に重要な役割を果たしたものです。

①大きな環境変化を経験していること
②複数の(あるいは多様な)仕事や部署を経験していること、また、
③個性的な集団の中で仕事をしていること、さらには、
④その期間を導く力量のある上司(直属の上司とは限らない)との出会いがあること
(リアル企業内イノベーター 半田純一(著)より)

ここで重要なことは、調査の結果、企業内イノベーターはこれら4点すべての経験をしていることです。
こうした経験から自分を客観的に理解したうえで、人がやらないことに取り組むための基本姿勢が身について、最後までやりきる準備ができたと考えられます。

・「発掘してくれる人物」の存在

経験を積んできた人材に対しては、その可能性を見抜いてふさわしい経験をさせることが重要になります。
そのための「目利き」の存在が、能力や資質を見極めながら、その配属を決めたり、様々な機会を提供したりしてくれていることが調査でわかりました。
しかし、どの事例でも、企業の制度的な仕組みの下に行われたというよりは、理解ある上司や将来性を見出すことにたけていた経営レベルの人物と偶然に出会えたことによるものと筆者はいいます。

・「独自の社外ネットワーク」、「右腕」

企業内イノベーターの行動力や判断力に多大な影響を与えてきたと推測される独自の資産として、「独自の社外ネットワーク」、「右腕」のような存在があります。
1人の例外もなく、未知のものに挑んでゆく過程において、それまで蓄積してきた彼ら独自の社外の専門家や、ハブとなる人物などとのネットワークが重要な役割を果たしています。
こうした社外のネットワークは本人が強く意識して作らない限り持てないことから、企業内イノベーターは早くからソト(社外)に向かって開かれた目と行動力を持っていたと筆者は指摘しています。

また、ほとんどの場合、企業内イノベーターには「右腕」と言える(活動を支える、ときに冷静に批判する)人物を持っていたことも指摘しています。
企業内イノベーターは自分の持ち味を心得ているがゆえに、自分の持ち味を存分に発揮することに集中できる人物を求めています。
例えば、プロジェクトのスケジューリングのような不得意な業務を任せたり、自分と異なる価値観を持っており、企業内イノベーターに対して新たな視点をもたらしてくれる人物です。

7 おわりに

企業への調査を踏まえた、日本においてイノベーションを起こすための方法論が整理された本でした。
企業内イノベーターの主役と脇役のどちらにも共通する資質があることは意外でしたし、企業での様々な経験が日本企業におけるイノベーションの源泉であることも大きな気づきだったです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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