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「私は泡ではない。私は人間なんです」泡沫候補を追う選挙ドキュメンタリー映画『立候補』

マック赤坂、羽柴秀吉、外山恒一、又吉イエス。さまざまな選挙に立候補して連戦連敗し、メディアからは当選の見込みがない「泡沫候補」として扱われる彼らは、なぜ負けると分かっている選挙に出続けるのか?(※)そして、彼らが選挙に勝てないのはどうしてか?2011年の大阪府知事戦を戦うマック赤坂(本名・戸並誠)氏を中心に据え、そうした問いに真正面から切り込んだのが映画『立候補』(2013)だ。以下、3つの見所を紹介する。

※マック赤坂氏は2019年4月に行われた港区議会議員選挙で初当選した。

マック赤坂の「安定してどうかしてる」パフォーマンス

先述した大阪府知事選にかかる17日間に、Youtubeで40万回以上再生されたとされるマック赤坂の政見放送は非常に有名だ。作中では口角を上げることで幸せになれるというスマイルセラピーを実践して「10度20度30度!」と叫ぶ自らの政見放送を見た同氏が「自分が見ても面白いんだから面白いよな」と冷静に評価するシーンがあり笑ってしまった。

さらに作中では、マック氏が大阪府庁前の街頭演説でスマイルダンスを披露したり、京都市街の車が行き交う交差点の真ん中で踊り狂ったりと「安定してどうかしてる」パフォーマンスが愉しめる。

誰がマック赤坂を街頭で歌い踊らせるのか?

マック氏はその奇抜なパフォーマンスばかりが注目されがちだが、本人はどんな気持ちで選挙を戦っているのだろうか。

本当はエアロビクススーツなんか着たくないですよ、私は。本当はネクタイはめて、スーツ着て、マック赤坂でございます。本名で出たいくらい。ところが、今の選挙制度、選挙戦、そんなことやっとったら、主要候補に太刀打ちできないからですよ。(マック赤坂氏、映画『立候補』パンフレット 2011年11月26日インタビューより)

「泡沫」と呼ばれる候補者が無数に存在する中でマック氏が衆目を集めてきたのは、ひとえにエンターテイメントを提供してきたからだろう。彼が歌い踊っている理由は、私たち有権者にこそある。

おまえ、何が言いたいんだ!おまえの政策は何なんだ?って突っ込んでくる人たくさんいます。そういう人に限って、政見を話し出すと、帰っちゃう。誰もいない。誰も。歌ってる時はいるのに。(同上)

選挙制度の不平等にドロップキック

このドキュメンタリーは選挙制度にも切り込んだ。日本の選挙では「供託金」という制度があり、一定の金額を支払わないと立候補ができない。例えば大阪府知事選の場合、立候補するために供託金300万円を用意する必要がある。一定数の票を得られれば返還されるが、逆に票数が及ばなければこのお金は没収されてしまう。

それぞれ同じ額の供託金を払っているにもかかわらず、新聞やテレビなどのメディアは主要候補ばかりを取り上げる。当選の可能性がない「泡沫候補」は蚊帳の外だ。候補者同士の討論会にも、彼らは呼ばれない。

街頭演説の機会も、決して平等ではない。駅前の何百人という支持者の前で演説を行おうとする橋下徹や松井一郎に、マック赤坂が抗議するシーンがある。同じ供託金を払っているのに、なぜ自分は大勢の有権者の前で演説できないのかと。

Youtubeで72時間レンタル400円

『立候補』はクレジットカードかPayPalのアカウントがあれば、Youtubeにて72時間400円でレンタルできる。


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