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【歌舞伎・文楽】双蝶々曲輪日記(感想前編)

 12月も半ばを過ぎ、今年も残り僅かとなりました。今年、なかなか上手くまとめられず、ボツにした記事もあります。双蝶々曲輪日記ふたつちょうちょうくるわにっき」の感想もその一つです。年末最後に投稿しようかと思いましたが、頑張って投稿してみようと思います。

■作品『双蝶々曲輪日記』について

(1)作者等

 寛延2年(1749)7月、大阪・竹本座で人形浄瑠璃(現在の文楽)として初演された作品。作者は、二代竹田出雲、三好松洛、並木千柳の三人による合作です。
 初演時は不評であったようですが、翌年8月には、「義太夫狂言」として京都で歌舞伎化され、人気が出たようです。

ただ出雲、松洛、千柳という黄金トリオによって『夏祭浪花鑑』(1745)につづいて『菅原伝授手習鑑』(46)、『義経千本桜』(47)、『仮名手本忠臣蔵』(48)と毎年傑作が書き下ろされ、いずれもが大評判となった次の年である。作者の方にも人形芝居の見物の方にも、いささか疲れが見えて来た、と言えないこともないのである。

権藤芳一編著「双蝶々曲輪日記、本朝廿四孝(歌舞伎オン・ステージ19)」407頁より

(2)あらすじ

 外題にある ①「双蝶々」②「曲輪」をもとに、後掲する参考文献からまとめてみました。

 ①「双蝶々」については、濡髪長五郎と放駒長吉という、二人の<長>の字を名にもった角力取りを主人公にしていることに由来します。喧嘩早い角力取りの達引たてひき(義理や意気地を立て通すこと)を中心とした話です。

七ツ目・道行に「ヤア長五郎か、コリア長吉、われも長、われも長、二人合せて蝶々とまれ、菜種にとまれ」と、狂乱した与五郎が菜種の花で、二人の角力取りの蝶々髷をぶつところがある。

上記した権藤芳一氏の本、405頁より

 ②「曲輪」については、与五郎と遊女・吾妻、与兵衛と遊女・都という二組のカップルの大阪新町の廓での色模様を描いたことから名づけられたようです。

 つまり、『双蝶々曲輪日記』は、①と②の話が組み合わせって構成された作品です。①②に、それほど貫通するテーマは無いようですが、そこが面白いという見方も出来るようなことが、参考とした本には書かれてありました。

■侠客と角力について

(1)感想をまとめづらかった理由

 Wikipediaによると、『双蝶々曲輪日記』は、『夏祭浪花鑑』に続く「男の侠気を描く世話物」とあります。
 鑑賞後に感想をまとめづらかった理由としては、(現代にも繋がるのかもしれませんが、)江戸時代の角力取りの位置づけがよく分からなかったことがあげられます。
 そこで、図書館で調べてみると、以下のような本に遭遇しました。

(2)侠客と角力

 『侠客と角力』は、三田村鳶魚みたむらえんぎょ(1870-1952)を書いた本を、柴田宵曲しばたしょうきょく(1897-1966)が編集したものです。まだ読み終えていないのですが、紹介と引用をしてみます。

 江戸の世で、アウトローはどこから生まれてどのようにして「侠客」となったのか。相撲が興行として発展し相撲とりが専業となっていった流れの影に何があったのか。江戸風俗の大家・鳶魚の語りによって、そのルーツ、歴史風俗が鮮やかに浮かび上がる。興味尽きない歴史読み物。

上記リンク内容(「BOOK」データベースより)より。

侠客と角力とはもともと似たような畠から発生したものである。幕府が遊興無頼の徒を取締る一方便として勧進角力を許可し、角力が次第に職業化するに及んで、両者は自ら途を異にするに至ったが、それでも全く相分れるわけには往かなかった。

柴田宵曲の解説より抜粋

 まだきちんと理解出来ていないのですが、江戸時代の角力取りには、侠客と近い部分があったことが分かります。

(3)「侠客」の世界

 手持ちの辞書を引いてみると、以下のような意味の記載でした。

・(侠客とは)江戸時代、義侠・任侠を建前として徒党を組んでいた人。おとこだて。
・(義侠とは)正義を守り、弱い者を助けること。男気。
・(任侠とは)男の面目を立て通し、信義を重んじること。また、その人。

小学館・現代国語例解辞典より

 ここからは、慎重に記載したいと思います。
 定義にもよりますが、「侠客」という言葉には、①義侠心に富んだ人に、②喧嘩賭博を渡世とする遊興無頼の徒も、概念として交じっているようです。
 そして、こうした「強きをくじき弱きを助ける」という世界は、公の法(律)とはまた別次元で存在し、また違った価値尺度で、助けられた人もいたように思います。
 他方で、行き過ぎた暴力等を抱える面もあり、現代では狭められている世界です。
 今後、もう少しきちんと本など読んで、理解していきたいです。

 ここまで記載してきましたが、いつも自分が書く分量より長くなりつつあるので、一旦区切りたいと思います。
 次回は、『双蝶々曲輪日記』八段目「引窓」の感想を中心に書いてみたいと思います。

■参考文献

・『双蝶々曲輪日記、本朝廿四孝(歌舞伎オン・ステージ19)』(白水社、権藤芳一編著)
・『現代語訳 歌舞伎名作集』(河出文庫、小笠原 恭子訳)
・『侠客と角力』(ちくま学芸文庫、三田村 鳶魚 著、柴田 宵曲 編)

 また、今回は、「角力」でもなく、「蝶々」でもなく、七段目にある「菜種(菜の花)」の写真を、manamimushiさん(まなみんさん)から借りて、使用させて頂きました。(七段目を観たことがないのですが、イメージに合っているか少し心配です。)

 本日は以上です。

 なお、後編の記事は、こちらです。


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