見出し画像

【美術館】イヴ・サンローラン展

 2023年10月15日(日)、六本木の国立新美術館に、展覧会『イヴ・サンローラン展 時をかけるスタイル』を観に行きました。
 会期は、2023年9月20日(水)から12月11日(月)までです。
 なお、最近忙しく、記事を書いたり、他の方の記事をあまり読む時間がなく、その点残念です。


■行ってみようと思ったきっかけ

 冒頭から恐縮ですが、私自身、ファッションにあまり気をかける人間ではありません。そのため、今回の展覧会に行くのは、流石に場違いだろうという気がしていました。
 他方で、色彩やファッション、服飾史などの本を一度は読んでみたいなぁ、という気持ちも持っていて、今回思い切って、本で触れるより先に、展覧会に足を運んでみました。

 展覧会というのも、①自分が美術館に行ける(くらい元気や時間のある)時期と、②個々の展覧会が開催される時期がマッチしている必要があり、一つの「縁」のように思います。

■会場にて

 出かける前は、来場者の殆どが女性なのかなと想像していました。実際、女性が多いとは思うのですが、男性も結構いて、他の展覧会とそこまでは変わらない気もしました。

 そして、イヴ・サンローランが描いた「デザインのためのスケッチ」の展示を見ながら、「これは、デザイナーやデザイン等を生業としている人たちが見たら、私より、彼の素晴らしさを理解出来るのではないか!」と、少し気が引ける部分もありました。
 洋服のスタイルに加え、その素材(感)、ジュエリーなど、日頃からファッションに触れている人は、より自分に身近なこととして理解出来るように思います。

 展示は序章と11章からなり、初めての人でも、様々な切り口から、イヴ・サンローランとその作品を捉えることが出来る構成となっていました。

■イヴ・サンローランについて

 イヴ・サンローランは、1936年、フランス領アルジェリアのオランにて、この街の上流階級の中心をなす一家に生まれました。
 1954年にパリに移住し、1955年にはクリスチャン・ディオール(1905-1957)のスタジオで働き始めます。1957年にクリスチャン・ディオールの死後、世界最年少(21歳)のクチュリエになる、とありました。

 展示パネルに、「クチュリエ」という言葉が何度も出て来たので、インターネットで検索してみました。

「クチュリエ」とは、①婦人服の男性裁縫師。女性は「クチュリエール」。②高級服装店のファッション・デザイナー。

あすとろ出版(著:現代言語研究会)「 カタカナ語の辞典 」より

 2002年に現役を引退。2008年に71歳で亡くなっています。展示会場には、彼の活動期間の展示が多く展示されていました。ファッションに、あまり詳しくない私ですが、気づいたことを、以下3点ほど記載しようと思います。

■気づき①:「オートクチュール」と「プレタポルテ」

 展示パネルで「オートクチュール」という言葉が何回か出てきましたが、インターネット検索で用語の意味を調べるだけでも面白いですね。

(「オートクチュール」とは、)パリの高級婦人衣装店、またその店でつくられる高級仕立服のこと。オートクチュール組合(通称サンジカルLa Chambre Syndicale de la Couture Parisienne)に属し、店(メゾンとよばれている)の専属デザイナーは顧客のために、シーズンに先駆けて創作デザインを発表し、売るのであり、一般の注文服店や既製服を売る店とは区別される。組合の規約により、新作の発表は年2回(1月末と7月末)行われ(パリ・オートクチュール・コレクション)、そのシーズンの作品をマヌカン(モデル)に着せて、招いた個人客やバイヤー(百貨店などの仕入れ担当者)、ジャーナリストに見せることが義務づけられている。ここから、たびたび世界的な流行が生み出された。

日本大百科全書(ニッポニカ)・深井晃子さん

 深井晃子さんという方の名前が出て来ましたが、図録(かなり迷ったのですが、買ってしまいました)にも、文章を寄せられていました。京都服飾文化研究財団理事・名誉キュレーターとあります。ここでは、話がそれるのでこれ以上深入りしませんが、このように気づいた点から追っていくのも面白いかもしれません。

 他方、プレタポルテについても調べてみました。

(「プレタポルテ」とは、)「すぐに着られる」の意で、既製服のこと。第二次世界大戦後、既製服産業の急速な発展により、それまで安物の代名詞であったコンフェクションconfection(既製服)の語にかわって、高級なイメージをもった既製服の意で、「プレタポルテ」が1945年にパリで新語として登場した(英語のレディ・ツ・ウエアready-to-wearにヒントを得たといわれる)。プレタポルテは、1960年代の世界的なファッションの大衆化の波で、少数の人々を対象とするオートクチュールにかわって、目覚ましい発展をみせた。現在年2回開催されるファッション・ショーと展示会は、世界のファッションを牽引(けんいん)するものの一つとして注目されている。日本では、フランスの著名デザイナーの輸入高級既製服という、初期のイメージで使われたこともあったが、プレタポルテは既製服を意味することばとして、世界の共通語となっている。

日本大百科全書(ニッポニカ)・深井晃子さん

 図録から少しだけ引用します。

(サン・ローランは、)「出来る限り、プレタポルテでは実用的な服を、オートクチュールではファンタジーな服をつくりたい」と自ら語った

『イヴ・サンローランとフランスのオートクチュール』セレナ・ブロカ=ミュセリ

サン・ローランは、ファッションという表現形式において、男/女、アート/ファッション、オートクチュール/既製服の垣根を取り払った

『イヴ・サンローランとは誰?』深井晃子

 このように、「オートクチュール」(や「プレタ・ポルテ」)とは何か、そして、サンローランはどのように関わり、変化させていったのか、調べるだけでもとても楽しいように思いました。(かなり乱暴な言い方になりますが)ポスト・モダン的であり、脱構築というのは現代の多様性に繋がっているのだなと思います。

■気づき②:「ファッション」と「スタイル」

 以下のサンローランの言葉は、展示パネルや宣伝でも多くみかけました。

ファッションは時代遅れになるが、スタイルは永遠である。

イヴ・サンローランの言葉

 本来なら、サンローランが手掛けた作品をもとにひも解いていくのが筋なのでしょうが、個人的な用語の印象について記載してみます。
 「ファッション」は「スタイル」より、感情的・感覚的で、「スタイル」という言葉には、意思・意志の要素が多く含まれているのかな、と思いました。
 用語の語源などを調べてみるのもよいのかもしれません。積み残しが多いです。

■気づき③:女性・流行、イヴ・サンローランという男性

 今回の展覧会では、サンローランが、男性服から着想を得て、女性服をモダンにアレンジしていたものが多く展示されていました。タキシード、トレントコート、サファリ・ジャケットなどなど。
 女性の社会進出などと合わせて、或いは、そうした社会の変容を(広義の)ファッションが牽引するする形で、動いて来たことを感じます。
 最後のコーナーのあたりで動画があり、サンローランが、自分が仕立てた服を着てくれた多くの女性に感謝している、といったような言葉が流れていました。

 男性のサンローランが女性の時代を切り開いていったことを、興味深く感じた部分もあります。私は、こうしたファッションや、ファッション・デザイナーの方の展示は初めてでしたが、サンローランが男性であったこともあり、同じ男性として少し入りやすかったように思いました。

■マメ知識:第7芸術

 展示パネルの中に、「第7芸術である映画」といったような記載があり、「なんだろう?」と思い、メモを取って帰り自宅で調べました。

1908年から映画について書き始めたイタリア人R.カニュード(1879‐1923)は、パリで新しい芸術運動の推進者の一人となり、みずから映画批評家を名のって(実際、世界最初の映画批評家・映画理論家となり、その論集《イメージの工場》が没後1927年に刊行される)、時間の芸術(音楽、詩、舞踊)と空間の芸術(建築、彫刻、絵画)をつなぐ新しい芸術,すなわち〈第七芸術〉と映画を定義した

出典|株式会社平凡社 世界大百科事典 第2版、項目:映画より

 こうした「時間の芸術」「空間の芸術」といった分類があるんですね。驚きました。分類すると、整理されすっきりする側面があるように思います。

■最後に

 もう少し、サンローランが作った服についての紹介や感想を記載出来れば良かったのですが、あまり詳しくないこともあり、言葉や概念の整理が中心となってしまいました。
 でも、それはそれで、距離を持って展覧会を眺められた部分もあったようで、楽しかったです。

 展覧会では、他にも色々なコーナーがありました。
・羽をつかった服やジュエリー
・世界各国(アフリカ、ロシア、スペイン、アジアなど)の要素を取り入れたコーナー
・古代や中世の歴史の要素を取り入れたコーナー
・舞台芸術や映画との関わり
・ピカソやマティスなどアーティストへのオマージュなど
・日本の百貨店とのつながり

 書いてみたいことは、まだまだあるのですが、長くなったこともあり、本日はこの辺りにしたいと思います。
 これから展覧会に行かれる方は楽しんできて下さい。

 本日は以上です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?