積みあがった仕事関係の本を整理していると、その中に村上春樹。そうだ、高校時代に佳奈からもらった本。村上春樹が大好きだったんだよな。結局読まなかったけど。

　高校時代、佳奈とはいつも一緒にいた。
　佳奈は地元の医大、俺は東京の大学を目指し、毎日二人は図書館にいた。付き合っているというよりライバルであり、親友。でも本当は好きだったし、図書館以外にもいろんなところに行きたかった。

　緑色のカバーの本を手にとり、めくってみた。

パラッ。

本の間から栞が落ちた。本を買うときによくもらう何の変哲もない栞。
栞には恐らく本屋のイメージキャラクターであろうかわいい忍者の絵が描かれている。
裏側には「佑君、本当は好きです」と。
佳奈の字だ。

１０年遅かった。気づくのが・・・

そんな時、スマホから着信音がした。
実家の母からだ。
「岡本さん家の佳奈ちゃん、同僚のお医者さんと結婚するんだって。佑はまだなのかい？」

「忍者ラブレター気づくのが、遅かったみたい。だから結婚はまだ先」
と返信し、緑の本を読み始めた。