見出し画像

大腿骨がネクロマンサー(1)

文字通り。私の大腿骨が腐った話からの魔改造の話をしようと思う。

そもそもこの骨が腐るという事態だけでも大事件なのだけど、治療、手術に数年かかった上に、それにドラマがあったのだ。時期的には、院を辞め、インターンから正式な職員になってから1年半くらいたってからの事だった。詳しくはこちらのNote。

日本語で病名を書くと特発性大腿骨頭壊死症。日本では国の指定難病なのだと知ったのはかなり後の話。某俳優さんも同じ病気で俳優を引退されたのだけども。大腿骨頭の一部が、血流の低下により壊死(骨が腐った状態ではなく、血が通わなくなって骨組織が死んだ状態)に陥った状態、なのだという。ちなみに詳細はこのサイト(日本語)にある。

私はよく転ぶ。いい年をしてお恥ずかしい限りだが、注意力がないせいか、足の形のせいなのか、とにかくよく転ぶ。子供の頃からそうだった。当時住んでいたアパートメントはタウンハウス仕様といって、戸建てで2階建てだったのたけど、つるっと滑って15段ほどの階段を落ちた。

左足に異変を感じたのは階段からすっころんだ数日後の事だった。これ、なんかおかしい……見た目は青あざができているくらいなのだが異様に痛い。転び慣れた人生とはいえ、ここまで痛いのは初めてである。そこでER(救急)に行った。転びなれていたが(慣れることでもないけれども)異様に痛がる私を見て過剰に心配したアルゴに無理やり行かされたのである。

こちらの病院予約制度は日本のものと異なるので、外科だとかに連絡をいれても3か月待ちなどザラなんである。なので緊急の場合は、ERか、Urgent Careと言われる場所に行く。レントゲンを撮った結果は、折れてもいないし、ひびも入っていないから、2週間ほど様子を見て、痛みが引かなければ専門家医に見てもらうようにと紹介状をもらえた。アルゴは「も~大げさなんだから~。大したことなくてよかった」とご満悦だった。

なんの異常もないはずなのに痛みは日に日に増し、私はついに立てないほどの痛みを覚えるようになった。座っても、立っても、歩いても、寝ていてもとにかく痛い。ズグズグというか、ずっきんずっきんというかそんな鈍痛と刺すような痛みが交互に襲ってくるのである。

で。耐えきれなくなり、紹介された外科医にかかり、MRIを取ることになった。階段から転げ落ちてから1か月がたっていた。

そしてMRIを撮った後に言われたのが『あ~これ、骨にねぇ、痣できてるわ。皮膚に痣できるのと同じで骨にもね、痣できるのよ。ほれ、ここんとこ』そう言いながらじぃちゃん先生が指さした箇所、脛のところの骨は確かに、他の場所と色が違った。

痣?!?骨にも痣ってできるんだ、ほえ~と私は阿呆のように口を開けてしまったのだけど、続けられた言葉はうまく処理できなかった。

『んでも、ここのさ、脛のあたりの骨の痣はさしたる問題じゃないんだよね。君の場合は、ここ』

そう言ってじぃちゃん先生が指さしたのは股関節と大腿骨のところだった。

「え、ちょっとまって。痛いのはそこではないのだが?」なんだか歳取ってる先生だし、ヨボヨボしてるから勘違いしてんじゃないの?などとすごく失礼なことを考えながらそう言うと、じぃちゃん先生はきっぱりと。

『Avascular necrosis.  Basically, your bone didn't have blood supply, when blood supply is cut off, the bone tissue dies and the bone collapses. So, around this area, your cells are dead and causing pain』

海外暮らしで困るのはこういう病気、病院での会話であると思う。そんなAvascular necrosisいわれても意味がわからない。どうやら骨に血液がいっておらず、その部分の細胞、骨が死んでしてそのせいで痛いということはわかったが、Avascular necrosis.…あばすきゅらぁねくろーしす。ネクローシス……ネクローシス……ネクローシス……

あぁ!『浮世のことなんて今日は忘れて楽しんでいってネクロマンサー』(アニメ銀魂。アイドル寺門お通ちゃんのアルバム名)が浮かんだ。

あの!ネクロマンサー!あれか!お通ちゃんのアレ!あと、アルゴがゲームやるときのあれか。死霊魔術師!!!死者や霊を介して行われる魔術をする人な!!

は?!ネクロマンサー?!は?は?(驚)

え……私の大腿骨、股関節、死んどるん?!あわわわ、えらいことではないか!ネクロマンサーという言葉から、死んでるという言葉への連想へとようやくたどり着く。銀魂、ウフフ、お通ちゃん、ウフフ、とか言ってる場合じゃねぇ!

「え、で、治療法は?」慌ててそう聞いた私にじぃちゃん先生は言った。

『基本的にないね。治らんよ、これ』

えぇぇぇぇ。ちょっとぉ、嘘でしょう。喘息発作で何度も死にかけ、ようやく回復しつあり、院生活での鬱からもようやく立ち直ったのに!ここにきて不治とは?!しかもめっちゃ痛い!じぃちゃん先生は言葉をつづけた。

『これ、君、ちょっと前に転んだのが原因と思ってるみたいだけど違うから(キッパリ)。骨の壊死があって、骨壊死に陥った部分が潰れることにより、痛みがでるわけ。だから結構、前から壊死してたんだと思う。で、転んだことにより、衝撃は加わって今の痛みなんだよね。骨壊死が起こることと、痛みが出現することには時間的に差があるからね』

「え、じゃぁ何、どうすんのこれ?というか、なんでそんなことになったのでしょうかね?」なんてこった。骨に痣ってのも意味が分からないのに、死んでるってなによ。私は文字通り、あわわわ……あわわわ……となった。

『ん~、手術して治すって方法もあるよ。人工関節に入れ替えるとか、骨を切るとか』

人工関節?!骨を切る……?!な、な、な……漫画風に言えば、カイジのあの、顔がぐにゃぁぁっとなるコマ。もしくは、大汗書いて、ドドドドドドと言っているジョジョのコマである。ぐにゃぁぁ、ドドドドドである。

「手術しなくちゃ治らんのん?」背中に変な汗が流れた。ようやく喘息、アレルギー、アトピーの症状が治まってきたばっかりだというのに。

『治らん(キッパリ)痛みを和らげる薬はあるが、治らん。とはいえねぇ、私は君みたいに若い人に人工関節とか骨切りの手術をしたくないんだよね。あと、君のカルテとか処方されてきた薬とか見ると、これ、内服ステロイド、処方されすぎ。まぁ、これ無かったらアンタ、死んでたかもしれんのだけど。これが原因だろうな。ステロイドの副作用やろなぁ』

「うへぁ……」と、思わず声にしてしまったがじぃちゃん先生は言葉を続ける。

『人工関節とか骨切るとかって基本的に老人枠の手術なわけよ。70代とか80代とか。だから君、若すぎるから施術したくないってのと、他の方法で痛みが治まるケースがいくつかあるから、関節入れるってのは最後の手段にして、まずできる方法から試したいけど、それでOKかい?』

いやもう、いいも悪いも、この時に私に「おけまる〇」と言う以外に何ができたといのだ。

『んじゃぁねぇ、最初にやってみるのは、骨にステロイド入れる方法ね』

「は?!」

アホなの!!という声が出そうになった。ステロイドが原因でこうなったというのに、ステロイドを入れて治療だと?意味が分からない。またも、漫画カイジのぐにゃぁぁぁのコマになる。想像がつかない方は、漫画カイジ、ぐにゃぁぁで画像検索していただきたい。ぐにゃあぁぁなんである。

『MRIの機械に入りつつ、医者が骨の中に管を入れてそっからステロイドを流し込むわけよ。関節とか。そうすると滑りが良くなって痛みを感じなくなる……人もいる。君がなぜそんなに痛いかというと、血が通ってないから、間にクッションがなくなってこう、骨と骨とがゴリゴリこすれあっていたいわけ。とりあえず、これで症状軽くなった人が7割とかわからそれやるわ。後、痛み止めは市販のものを飲んでね。リウマチ用のやつ』

なるほど……リウマチは、関節が炎症を起こし、軟骨や骨が破壊されて関節の機能が損なわれ痛む病気だから、まぁ状況的ににているわけか、とそこだけは納得しつつ、じぃちゃん先生はサクサクと手術日、時間などを決めるようナースに促し、私には松葉づえを与え、ほんじゃ、と部屋を出た。

なんかもう、えらいことになってしまったなぁ……自分運転でこなきゃよかった……介護士の人に松葉杖の使い方を教えられ、施術される病院とかの書類を渡され、えらいことになったなぁ…と思いながら慣れない松葉づえでうんせ、うんせと駐車場へと向かいとりあえず、アルゴに電話をした。

そこでタイトルなんである。

「ねぇ、聞いて。大腿骨がネクロマンサーだった」

私は多分、自分で思っていたよりもショックで、何も考えられない状態だったのかもしれない。ネクローシスと言う言葉よりも、ネクロマンサーばかりが頭の中でぐるぐるしていた。

「は?あんた、何いってんだ?」

「うん。よくわからんけど、大腿骨がネクロマンサーで手術するんだって。なんかもう疲れたし、頭、整理できないからとりあえずかえって、説明するよ。ネクロマンサー」

そう言って私は電話を切った。

(その2へ続く)






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?