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子宮頸がんワクチンが子宮頸がんのリスクを減らした、という論文に感動した話

だれか一人、数人の体験が、大きく社会に影響を与えることもある。
子宮頸がんワクチンの副作用の報道などもその一つだと思う。
メディアで大々的にとりあげたセンセーショナルな情報のほうが、インパクトがあるときがある。
確かに、それが大きく社会や人々の考え方を変えることもある。

一方で、データに基づいた研究は、
実際の社会、仕組み、原因と結果を明らかにするには時間がかかる。
しかも地道で、忍耐が必要なこと。
対象者の大きな研究はその価値があるものだ。

“誰か一人の”体験と
“たくさんの人たちの”顔が見えない数字の情報から計算されて出されたものよりも、
印象に残りやすいし、わかりやすいのかもしれない。

それでも、多くの数と、統計解析から導かれた研究結果も、大事にしなくてはならない。
もちろんちゃんとしたデータを集めて、適切な統計解析をして、その結果を誇張せずに発表している研究であることは前提として。

2020年10月、子宮頸がんワクチンが子宮頸がんに与える影響を示した研究が発表されたと話題になった。
HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer;Jiayao Lei, et al. The New England Journal of Medicine 383;14 October 1. 2020

このスウェーデンの研究から示された大きな見解は2つで、
「4価ヒトパピローマウイルスワクチン接種は、接種していないことと比べて、最終的な目的といえる湿潤性子宮頸がんのリスクを減少させる」
「4価ヒトパピローマウイルスワクチン接種の効果は、HPV感染へも暴露前、つまり年齢が若いときに接種するほうが、湿潤性子宮頸がんのリスクが少ない」
ということ。

これまでも子宮頸がんワクチンの短期間の効果については調べられてきたが、
湿潤性がんになるまでには時間がかかるため、ワクチンを接種した女性のその後の様子を長く追わなくてはならない。
そして、ワクチンの効果を知るためには、ワクチンを接種した人たちと、接種していない人たちを比べる必要がある。
この2つをクリアしようと研究計画がたてられていた。

この研究では、スウェーデンでの全国的な登録データを使って、
2006年から2017年のデータを経時的に収集し、10-30歳の女性が4価ヒトパピローマウイルスワクチンを少なくとも1回接種した群と、1回も接種していない女性の群を、比較している。
子宮頸がんを罹患したかどうかは、それぞれの女性が31歳までのうち。
子宮頸がんの罹患に影響するといわれる、2006年時の女性の年齢・暦年・居住場所・学歴・世帯所得・女性の母親の出生国・女性の母親の病歴もデータを収集し、その影響も加味した解析を行っている。

累積発生率(cumulative incidence)とは、“ある期間内にある疾患を新たに発生した人数“を”その期間内にある疾患になるリスクを持っていた人数“で割ったもの。
30歳までの子宮頸がんの累積発生率は、ワクチンを接種した女性では10万人あたり47件、ワクチンを接種していない女性では10万人あたり94件。
さらに、ワクチンを接種した女性のうち、30歳までの子宮頸がんの累積発生率は、17歳までにワクチンを接種した場合10万人あたり4件、17-30歳でワクチンを接種した場合10万人あたり54件だった。

発生率比(Incidence rate ratio)とは、暴露群のリスクと対照群のリスクに対する比を比べる相対リスクのうち、罹患率をリスクとして比をみたものをいう。
ワクチン接種した女性の群では、2006年時の年齢を考慮すると、子宮頸がんの発生率比は0.51、さらに暦年・居住場所・親の因子といったほかの要因も考慮すると、子宮頸がんの発生率比は0.37になったという。

さらに、ワクチンを接種した年齢で分けて解析してみると、
17歳までの接種した女性の発生率比は0.12、17-30歳で接種した女性の発生率比は0.47だった。
そして、20歳までに接種した女性の発生率比は0.36、20-30歳で接種した女性の発生率比は0.38だった。

つまり、「ワクチンを接種した女性は、接種しなかった女性よりも、
累積発生率と発生率比どちらをみても、子宮頸がんになるリスクが少なく、そしてより年齢が若い時期にワクチンを接種するほうが、子宮頸がんのリスクが少ない」
ということが示されたのだ。

論文を読んで、すごいなと正直に思った。
10年以上のデータを集めることは大変で、でも、そういうデータからしかわからないことが示されたんだと思う。
時間がかかっても、明確で、新しい研究結果を出せるということは研究者の冥利に尽きるんじゃないかなと思う。

ワクチンを接種している女性が、子宮頸がんを発症しない、というわけではないこともわかる。
でも、ワクチンを接種していない女性よりは、発生のリスクが少ない、ということがわかる。

このような結果がある研究論文が出されて、あとは自分が、または自分の家族が子宮頸がんワクチンをするかどうか。
それは私たち個人が決めることだと思う。

[参考文献]
HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer;Jiayao Lei, et al. The New England Journal of Medicine 383;14 October 1. 2020
Care Net 4価ワクチン、湿潤性子宮頸がんリスクを大幅に低減/NFJM
医学的研究のデザイン 研究の質を高める疫学的アプローチ 第4版 訳;木原雅子 木原正博
疫学第2回:疫学指標とその標準化 山口県立大学看護学部中澤港 疫学

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