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【坂木司】夜の光

星を見るのが、昔から好きです。
月と星の、大きいはずなのに小さく見える距離。遥か昔から届く光。
自分がちっぽけだと思い知らせてくれる、とてつもなく大きなものを見ると安心してしまうのは、なぜなのでしょう。大きな未来には、怖れを感じてしまうというのに。

夜空を見上げる高校の天文部で、4人のスパイは、それぞれがそれぞれの事情と感情を抱え、行き場のない夜を共有します。
坂木司さん『夜の光』。

「『むしろイメージとリアルが一致するほう方が奇跡なんだ。でもその素晴らしさをすぐに忘れてしまうから、人はいつまでたっても幸せになれない』」

「早く大人になりたいとなりたいと思っていた。自由になりたいと願っていた。でも今は、大人じゃなくてもいいと思いはじめている。
 俺は、好きな人の自由を縛らないでいられる人間になりたい。」

「『歳だからどうしろなんて、余計なお世話だ。好きなものを好きと言って、何が悪い。好きなものを大切にすることの、どこが問題なんだ』」

この本を初めて読んだのは、中学生の時でした。ありがちな話ですが、高校生に憧れていました。
どんな生徒と先生がいるのか、何の部活に入ろうか、授業はついていけるか。そして、そんな未知の世界を実際に体験する時には少しは大人に近付けているだろうか。そんなことを考えては、甘いようなほろ苦いような気持ちになっていました。

そんな時、『夜の光』を読みました。高校生の物語でした。そして、高校生ではない人たちの物語でした。
高校生になることが楽しみにはなりませんでした。ですが、高校生活で仲間を得られることを渇望するようになりました。

この本に出てくる登場人物たちの好きなところは自分の道を貫くところ、いいえ、貫こうと必死にもがいているところです。
子どもではない、でも大人でもない。性別に苦しめられ年齢に苦しめられ立場に苦しめられながら、「それぞれ違うミッションを抱えて戦う」スパイたち。
彼らの戦う姿には、等身大の痛みがあります。それぞれの事情は等しく重荷となり、それぞれの感情は等しく己を苦しめています。
けれど私には、彼らは暗いからこそ美しい「夜の光」に見えます。そして、星はいつだって、一人きりで輝くのではありません。

あの頃見ていた星に、私もいつかなれるでしょうか。


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