めんどくさい男(ペヤング編)

面倒くさいとよく言われる。
その度になんとも言えない気持ちになる。

アルバイトをしていた頃、バイト先の女の子と
好きなカップ焼きそばの話になり
「ペヤング」と答えた。

当時の僕は俳優を目指していたこともあり
貧乏な暮らしを送っていたため
食べるものと言えば、専らカップ麺か、カップ焼きそば
たまに贅沢をして牛丼という具合だった。

コンビニやスーパーに陳列された馴染の商品や
新発売の商品を手に取り、味の違いを確かめては
自分なりのベストを決める。
カップ焼きそばにおいてはペヤングの素朴な味がお気に入りで
飽きてきたらマヨネーズやソースを追加して
好みの濃さに味変しながら食べることが出来る。
また、麺の量が通常の二倍入った商品の「超大盛り」は
その一食でお腹を十分に満たすことが出来るため
味、値段、量において
当時の僕のベスト・オブ・カップ焼きそばとして重宝していた。

僕のペヤングに対して女の子は
「断然、一平ちゃんでしょ!!!」と
某塾講師(今ではTVタレント)の名台詞かのような
啓発力を帯びた熱量がその言葉に感じられた。
「どこが好きなの?」
僕の問に対し
「付属のマヨネーズが美味しいから」
という返答があった。

そこでふと
以前、バイトの休憩中にその女の子が一平ちゃんを食べていて
「私、一平ちゃんしか食べたことない」
と言っていた事を思い出した。
他にもその女の子は、市販のアイスクリームは
「ハーゲンダッツしか食べたことがない」
と言っていた事があった。
どうやら一つのものにハマる傾向があるらしく
それはそれで良い事なのだが、今回投げかけられた
「好きなカップ焼きそばは何か」というテーマを語るのに
一つのものしか食べた事がないというのは
その商品の魅力や自分の趣味嗜好を伝える上で
説得力不足ではないかと感じた。

「断然、一平ちゃんでしょ!!!」
その言葉の圧に、すっかり議論モードになった僕の頭は
「こっちは色々食べて味の違いを知った上でペヤングを選んでるけど
 一平ちゃんしか食べた事がないんでしょ?
 他のものを食べたらそっちの方が美味しいと思うかもしれないじゃん
 まずは色々試してみてよ、とりあえずペヤング食べてみなよ」
そんな言葉を声帯を震わせ声にした。

すると女の子は
「めんどくさ、私カップ焼きそばにそんなに熱ないし」
と言い残し自分の持ち場へと去って行った。

僕の知らない一平ちゃんの魅力をプレゼンしてくれると思っていたのに
暖簾に腕押し、糠に釘
議論モードと前述したが、論破したい訳じゃない。
そもそもカップ焼きそばに対する熱なんて僕にもない。
「私は〇〇だ」「僕は〇〇だ」
とお互いの意見や価値観を主張し合う事に興味がある。
ただのコミュニケーション、意見交換。
文字通りハシゴを外され、落ちた穴の中から
呆然と口を開けたままその女の子が見えなくなるのを
見送る事しか出来ず僕はなんとも言えない気持ちになる。

「面倒くさい」という言葉は繋がりを寸断する。
「じゃあ、他のカップ焼きそばを試した時にまた話そう」
そう言ってくれれば穴の中で孤立せずいられるのに
思いがけない反論に意見が出ない自分を守るためか
上から目線で「面倒くさい奴」というレッテルを貼って締めくくる。
「面倒くさい奴」へとジョブチェンジした僕の言葉は一切届かない。

僕は面倒くさいとよく言われる。
そう先輩に話したら
「議論が好きな人はあんまりいないんだよ」
と教えてくれた。
その先輩は僕があれこれ話す事に
「面倒くさい」と言わないから、これにはいつも感謝している。
でも分かっている。
noteに書く程「面倒くさい」と言われる事に固執している僕は
どう見たって面倒くさい。

大人になった僕は知っている。
世の中大事なのは共感する事だ。
「すぐ面倒くさいって言うお前の方が面倒くさいよ」
なんて、牙を剥く事じゃない。
だから次の機会があったら言うと決めている。

「一平ちゃんも美味しいよね!!!」









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?