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アコースティック楽器の専門用語の翻訳

 楽器に関しての専門用語は時にあいまいで、英語から日本語に翻訳する際に苦労することが多い。デジタル機器などの技術的な用語などはマシなのだが、アコースティック楽器のそれに関しては非常にやっかいな場合がある。
特に、動画で話者が話しているニュアンスを伝える際に、日本語の選択によっては違うニュアンスとして取られることもある。これは読み手の知識やバイアスにも影響されるが、つくづく言葉とは不完全で難しいものだと感じる。
 例えばシンバルで使われる"Projection"。見た目に関しての表現なら想像しやすいが、音に関しての表現で使われる。これを「音抜けが良い」「音が広がる」「力強い音」と訳したりすると、この3パターンでも受け取り方が変わってくる。個人的には、「音抜け〜」は基本的に使わない。これは、個人の主観によるところが大きいのもあるが、シチュエーションによって大きく変わってくる。組み合わせるシンバルや演奏している場所によっては、全く音抜けが良くない。そもそも音抜けって…という沼に落ちる。3番目の「力強い」も同じくパワフルな印象を与えてしまう。そういうコンセプトで作られた楽器なら問題ないかもしれないが、経験上シンバルのカップに関しての話で使われることが多い。なので、必ずしもそういう意図ではないことがほとんど。
 個人的にこの中で最も使いやすいのは2番目の「音が広がる」だと思っている。どのように広がっているかと感じるかは、実際に音を出した人が感じるものではあるが、それを周りで見ている場合からの解釈など、いちばん視点を変えやすいと感じている。また、「広がる」という表現は複数の解釈が可能で、単純にそこから音が出ているという解釈や、広範囲に音が飛ぶ、話者の文脈によっては「特定の音が早い」などのニュアンスも込められている場合がある。
 もうひとつ文脈によって解釈が変わるのが"Mix"という言葉。特に”in the  mix”という表現の場合。結論から言うと基本的にはそのまま「ミックス」と訳している。アンサンブルなどの他の楽器との組み合わせ、レコーディングなどのシチュエーションの話、周りである程度の音量が鳴っている状況、ドラムセットでのセットアレンジのバリエーション、色々解釈ができてしまうので、言い換えが非常に難しい。
 このような作業をしていると感じるのは、読み手によって解釈が変わってしまうのを100%避けるのは非常に難しいということ。アコースティック楽器で使用されている言葉の表現に関して、翻訳する場合はできるだけ作り手や話者の内容が正しく伝わるように努めているが、自分が読み手の場合には余白を残して解釈するようにしている。

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