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読書記録『昔ばなしの謎 あの世とこの世の神話学』

昔ばなしと聞くと、最初に思い浮かべる作品はなんでしょう。
ちなみに私は昔見た『映画すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』に登場した桃太郎(ねこ)がパッと思い浮かびました。

桃太郎含め、昔話に影響を受けた作品はたくさんありますよね。最近の有名どころだと、『鬼滅の刃』でしょうか。『鬼滅の刃』は鬼を倒す、いわば鬼退治の物語。桃太郎の影響をがっつり受けた作品だといえます。

というわけで、今回の本はこちら。

昔ばなしの謎 あの世とこの世の神話学
(2016.9/古川のり子著/KADOKAWA)

桃太郎はなぜ桃から生まれ、犬と猿と雉を味方につけたのか。
浦島太郎が玉手箱を開けて死ぬ定めにあるのはなぜか。
人間を喰らおうとする山姥の正体とは──。
誰もが知りながら、荒唐無稽で謎めいた昔ばなしの世界。
しかし多様な伝承の森に深く分け入り、古代神話や民間信仰に
その足跡をたどるとき、死と再生、性と笑い、
異界とこの世をめぐる共通の世界観が浮かび上がる。
現代人が忘れてしまった豊かな意味を取り戻すための神話学。

honto商品説明より引用

作品のモチーフになったり、小さな頃に読み聞かせられたり。いつの間にか、なんとなく知っている「昔ばなし」という存在。それを神話学で紐解いていく考察・解説本です

創作を読むのも書くのも好きな人間としては大変勉強になる本で、例えば「第一話 桃太郎 桃太郎はなぜ犬と猿と雉を連れていくのか」の章から、特に印象に残ったのがこちら。

桃は金気の果実で、西方の象徴であり、(中略)犬は「戌」、雉は「酉」、猿は「申」で、金気の方角(西)を形成する。桃太郎は自分と同じ金気の者を家来としたので、強い大将になったという。

P.12「第一話 桃太郎 桃太郎はなぜ犬と猿と雉を連れていくのか」より引用

犬は、自然と文化、あの世とこの世の境目にあって、異なる世界との間を移動する人間を守り導く。また忠実な猟犬として、自然のなかにあるさまざまな獲物をもたらしてくれる

P.18「第一話 桃太郎 桃太郎はなぜ犬と猿と雉を連れていくのか」より引用

これまでみてきたように、犬と猿と雉は、どれもこの世と異界を結びつける仲介者とされてきた動物たちである。彼らは桃太郎を守り、旅を導くとともに、犬は鬼を狩ってその財宝を獲得させ、猿は桃太郎の強力な陽気を異界に出現させ、雉は鬼の城の門を開けるために威力を発揮した。従者たちの活躍は、古代の神話と照らし合わせることで、はじめてその価値を回復してやることができる。桃太郎と出会う三匹の従者たちは、だれでもよいわけではなかったのである。

P.28-29「第一話 桃太郎 桃太郎はなぜ犬と猿と雉を連れていくのか」より引用

「ほかの動物でもよくない?」とパロディ作品などではよくネタにされる桃太郎の従者の動物。しかしそこにもきちんと意味があり、歴史があり、神話がある、というのはすごく興味深く勉強になりました。また「送り犬(妖怪の一種)ってこういう背景から生まれたのかなぁ」など、他の物語に対する解釈も深まって大変楽しく読みました。

せっかくなので、ジャンプ購読者として印象に残った箇所も並べていきます。

「よもつへぐひ」の「へ」は、竈を意味する「へっつい」のことで、漢字表記にも「竈」の字があてられている。つまり「よもつへぐひ」とは、「黄泉の国の竈の火で煮炊きされたものを食べること」である

P.34-35「第一話 桃太郎 桃太郎はなぜ犬と猿と雉を連れていくのか」より引用

これはきび団子に言及した一文で、日常の竈の火が生者をこの世に引き止め、竈の火が死者と生者を隔てることから、狭間の存在であるお供達を桃太郎の従者たらしめるのにきび団子が必要である、ということを語っている部分なのですが、それを考えると鬼滅の刃の主人公が「竈門炭治郎」という名前であったことが更に深い意味を持つことに気付いて感動しました。

続いてはこちら。

天女と竜女は人間以上の神的存在
鶴女房と魚女房は、人間以下の存在として低く価値づけられている

P.178「昔ばなしの論理を読み解く②」より抜粋

こちらは「異類女房譚」について読み解いた章。漫画ワンピースの天竜人、人魚の扱いを思い出しました。漫画を読んでいたときは深く考えずに受け入れていた価値観ですが、昔々からある程度定まった価値観があり、それを受け継ぎ共有して、その前提で私たちは漫画を読んでいるのだなと気づかされます。浪漫を感じると同時に、価値観を変えるのがいかに難しいか現代社会のあらゆることに思いを馳せることになりました。

またこの本は日本の昔ばなしについての本ですが、読んでいくうちに西洋についても思いを馳せる箇所がいくつかありました。

便所はこの世と異界の境界領域であり、異なるものが出会うきわめて両義的な空間である。それゆえに人が別のものへと変身したり、時空間が新たなものへ移行するのを媒介する転換の場でもある

P.136「第六話 三枚の護符」より引用

箒は「此の世と異界、生と死、内と外といった二つの異なる世界の境にたって両界の間の霊魂の媒介をしている」のだという。

P187「第九話 産神問答」より引用

イギリスの児童文学『ハリーポッター』では、女子トイレで変身薬を煎じたり、女子トイレに秘密の部屋の入り口が存在したりしました。また、あらゆる西洋の魔女は箒を使い、空を飛んだりします。日本だけではなく世界にも通ずる価値観が流れる神話。奥深さと評するにはあまりにも深淵たる存在であることに気付かされます。

紹介した昔ばなしを含め、十三の昔ばなしが掲載されています。昔ばなしについても神話についても深く学べてすごく面白かったので、ぜひぜひご一読ください。

長くなりましたがこの辺にて。
次の記事でお会いしましょう。それでは。

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