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【小説】 猫と飴  第13話

第13話

——そうだ。猫の事もただ好きだった。それだけで良かった。想像して、勝手に不安になるなんて意味が無かった。今度は彼女と一緒に、新しい家で猫を飼おう。僕の幸せが詰まった場所だ。自由に出入りして、みんなが戻って来る事ができる場所。壊れてしまったものも、作り直したら、さらに美しいものが出来るかもしれない。一度壊してしまったものを嘆いていても仕方がない。


もう僕は、願っているだけじゃない。
僕の気持ちは、はっきり分かったから。

彼女がどうするかじゃない。僕が、どうしたいかだ。
僕は、きっと僕の不安にまた飲み込まれていた。
もう飲み込まれない。

そう今、決めたんだ。


堂々巡りを抜け出して、解決策を考え出したら気持ち悪かった胸の中が、やけにスッキリした。


僕は、またいつの間にか相手に伝えるという大事な事を忘れていた。

出来る様になったと、言えるようになったと思っていた。

けれど、言えずに溜め込んでいたものの方が遥かに多かった。

きっと、言っても分かってもらえないと相手の事を突き放すような、見下すような嫌な考え方をしていたんだ。僕は自分自身の事をまだ全然分かっていない。自分は、こんなにも臆病だ。


自分の本当の気持ちをもう、間違わない。

僕は、最初からずっとどんな彼女も好きだった。
彼女への不満は、僕の不安でしかなかったんだ。


それから程なくして、猫を飼える家を見つけて二人で引っ越した。
僕が猫を飼いたいと言ったら、彼女は喜んで同意してくれた。

白猫か黒猫かで揉めはしたけれど、昔からずっと黒猫が飼いたかったという僕の主張が通り、黒い子猫を家に迎え入れた。
名前は、リリー。彼女が名付けた。

新しい家で彼女はお昼ご飯に特別なものを作ると言って、カレーを作った。

そのカレーを二人でお腹いっぱいに食べて、ソファに座り他愛のない話をした。


暖かい日差しが入るその家のソファは、僕たちのお気に入りの場所だ。

静かに緩やかな時間が流れた。


彼女はぼんやりと空を眺めていたかと思うと、今度は僕の膝を見つめて突然

「あ! 枕、見―つけたっ!」

と言って、ゴロンと僕の膝に寝転んだ。

僕は笑ってしまいながら、お腹一杯で幸せそうな彼女の頭を撫でた。

子猫のリリーは彼女に先に膝を取られてしまい、残念そうに僕の隣で丸まって目を瞑った。



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