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日本の「洋画」鑑賞は近代西洋美術の巨匠と見比べると楽しくなる【鑑賞力向上のヒント④】

9月16日から、東京ステーションギャラリーで、戦前から続く伝統ある「洋画」の公募展団体「春陽会」の画家たちをクローズアップした展覧会「春陽会100年 それぞれの闘い 岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ」が開催されています。

日本全国で50以上の美術館や団体などから作品を集め、梅原龍三郎、岸田劉生、木村荘八ら、戦前を中心とした著名な洋画家60名以上人の作品が一同に介した、非常に力の入った展覧会になっていました。

ところで、同じ近代以降でも、横山大観や平山郁夫、東山魁夷などの日本画に比べると、洋画家は何となく馴染みがないのでどうやって見たらいいのかわからない・・・と苦手意識を持たれがちです。

実際、同じ油絵でも、世間でも話題になるような大型の展覧会は海外の巨匠や美術館を特集したものが多く、日本人の描いた「洋画」を集めたブロックバスター展はあまり多くありません。

そんなとき、僕がおすすめしたいのは、「知っている西洋絵画の画家と見比べて楽しむ」ということです。

西洋絵画の巨匠と日本人の洋画家を比べながら鑑賞する

もし、目の前の絵が知らない洋画家の作品であっても、どことなくあなたの推しの画家や馴染みの作品と似ているところがあれば、十分に鑑賞の取っ掛かりになり得ます。「比べる」ことができれば、そこから面白さが生まれるからです。

なぜ、日本の洋画と西洋絵画を比較することが有効なのでしょうか?

それは、戦前の日本の洋画家は、ほぼ例外なく、同時期か少し上の世代の近代の西洋絵画から大きな影響を受けているからです。彼らはみな、修行時代にパリやローマなど、ヨーロッパの主要な都市へと留学して、現地で絵画を学んでいるのです。

当時の洋画家にとって、西洋絵画を本格的に学ぶなら留学一択だったでしょう。100年前は、現代のようにネット上で画像や資料に簡単にアクセスできる環境もありません。リアルな油絵の傑作を見て学び、最先端の美術の潮流に触れるには、現地に足を運ぶしかなかったからです。

こうした状況下で、彼らが描いた絵は、どうあっても西洋絵画に似ないわけがありません。

安井曽太郎(左)とルノワール(右)の比較。非常によく似ています。

特に、19世紀末から20世紀前半にかかる頃、傑出した個性を持っていた西洋美術の巨匠たちは、多くの日本人画家にも影響を与えています。

僕の肌感覚だと、ルノワール、ゴッホ、セザンヌ、マティス、ピカソの5名は、非常に多くの日本人画家のフォロワーを生み出しているように見えます。

例えば、セザンヌの印象的なストローク、ルノワールが描く女性の肌の質感、ゴッホの激しい筆使い、マティスの斬新な色彩感覚とデフォルメされた平面的な構図、そしてピカソが生み出したキュビスムの痕跡は、洋画家の作品の至るところに見出すことができるでしょう。

なかには、萬鉄五郎のように、描く度にゴッホ風、セザンヌ風、ムンク風、ドイツ表現主義風と試行錯誤を重ね、晩年になってもなおマティスやピカソから学ぼうとするなど、ヨーロッパの前衛絵画の流行を敏感に感じ取りながら作風を変えていった画家もいます。

カメレオンのように画風が変わっていった萬鉄五郎

また、影響を受けているといっても、そっくりに似せて描いているわけではありません。やはりそこは日本人なので、絵の中にどこか日本的な情緒が感じられたり、作家オリジナルの感性が入っています。ぜひ、西洋絵画とくらべてみて、どこがどのように違っているのか確認してみてください。

たとえば、東京ステーションギャラリーの「春陽会100年 それぞれの闘い 岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ」では、西洋の画家と日本人の画家の描く風景画では、「空」の色が違うことに気づきました。

岸田劉生《道路と土手と塀》/特に岸田劉生の描く「空」は深くて美しい青で描かれています。

同じ快晴の風景を描いていても、日本人画家はパリの巨匠たちに比べて、全体的に濃い青で表現されることが多いように思うのです。でも、なぜなのかはわかりません。これからしっかり勉強する必要があります。ですが、僕の頭のデータベースには、「20世紀前半の日本人の洋画家は空を濃い青で描く。理由はこれから考える」と刻まれました。自分にとって、次からも洋画を見る際は「空」の色彩が注目ポイントになりそうです。

こんな感じで、ぜひ、日本の洋画について鑑賞の糸口を掴むなら、西洋絵画と見比べることを意識してみるといいかもしれませんね。もし参考になればうれしいです。

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