ウルトラ星
ハルカはいつも窓から空を見ていた。
自分の視界に入る、鳥、星、月が好きだった。
ハルカには、幼少期に休日に家族と出かけた記憶がない。欲しい物は何でも手に入れてきた。欲しいものを買ってもらえなかった記憶もないのだ。
夏休みが終わると、 “なつやすみの思い出”と題した作文を書く宿題があり、その作文は教室の壁に掲示されるのだった。
ハルカは、小学生とは思えぬ程文才があった。その一方で、算数の空間図形、対称、非対称が全く理解できないのであった。
彼女は、田舎に遊びに来たコウタが大都会に帰るのを見送る瞬間をはっきり覚えている。
彼女は見送る番を交代し、見送られる側になりたいと願った。
ハルカは小学生だったが、コウタの家族から “住む世界が違う”ということを感じ取った。高級時計、ブランドの服、高級車、大きな家。それに加えて、聞きなれない標準語を話したのだ。
コウタの母親が手土産として持ってきた行列のできる有名店のお菓子に対して、母は明らかに嫌悪感を抱いていた。
ハルカが、コウタに対し、嫉妬、憎みという感情を抱かなかったのは、コウタたちが、その生活に適応していたからだ。もしかしたら、コウタが男の子だったからかもしれない。コウタがコウタではなく、スミレだったら、その姿に対して、嫉妬していたのかもしれない。
ハルカは何不自由なく成人した。
ただ、コウタとはやはり住む世界が違うのがはっきりしていた。
コウタから届く年賀状には、いつも幸せそうな家族写真が印刷されていた。
コウタは、当たり前のように医者になるべく道に進み、ハルカには何も残らなかった。
ハルカの性格が幼少期とは全く変わってしまったのは、誰が見てもはっきりしていた。人との交流を避け、部屋に閉じこもった。
ハルカは病気になったのだ。今の医療では原因が分からず、症状が改善する見込みがないのだ。ハルカは夢を失った。
「うちの上司がウザくてさ~」「やっと一週間の労働が終わった!」「社会人二年目頑張ろ~」
小学生の時に書いた“なつやすみのしおり”の中身が見たくなくても、SNSで可視化できる時代になったのだ。
ハルカは、友達が死ぬほど羨ましかった。努力ではどうにもならない弊害が24時間365日彼女を付きまとった。
彼女は、薬を飲む瞬間が一番嫌いだった。希望も夢もない宇宙人がこの世に住み着く唯一の手段だったからだ。
ハルカは、手書きで「こんなはずじゃなった。」と書き残し、姿を消した。
「おーい、久しぶり(笑) 来週遊びに行ってもいいか?」というメッセージには既読が付いていない。
ハルカは知っていた。空でどの星よりも一番輝いている星の名前が「ウルトラ星」ということを。
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