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【詩集】多摩・武蔵野

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東京の多摩・武蔵野地域を舞台にした詩の作品集です。
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記事一覧

【詩】土のにおい

ひしめく家なみの 歩くさきに垣間見る 黒い畑地のひろがり 雪解けの やわらかな畝の寝床 静ま…

【詩】押切橋を越えて

坂をくだって、街をめざす 谷のむこうに眺める空は、高い まぶしく、かがやいている 傾斜の深…

【詩】この道

この町で暮らしてきた この道を歩いてきた この角を曲がれば その先にあの日があった あの場所…

【詩】風のにおい

この場所で十五年、眺めていた まだ、蓋をされていない頃からだ むこうからこっちまで 透きと…

【詩】仰向け

森のほとりの草地に ゴロリと寝ころんで 空を見あげている 目を閉じて、耳を澄ませば 素肌を、…

【詩】野火止用水

用水の道を辿っていた 草の茂みがあった 確かな流れがあった 鯉が泳ぐ背中があった 森に続く道…

【詩】青い家

ふたつの線路が合流する 三角形の先端の土地 こんもりと盛り上がった 岬のような馬の背に ちいさな家が立っている はじめに、詩人が住んでいた 詩人は空にあこがれていた 壁も扉も、空の青で塗りつぶして 空に透きとおる詩を書いた もっと大きな空を求めて 遠い高原へうつっていった 玄関に、青い言葉が記されていた 次に、画家が住んでいた 青い言葉を部屋に飾った 透きとおる絵の具で、窓のガラスに きよらかな風の色を描いた やがて、見たことのない光をさがして 異国の街へ旅立った 風

【詩】風道

風を浴びている 峡谷の河原で、目の前にせまる 山を見あげて、風を聞いて 山を覆う森の、みど…

【詩】川辺にて

山に向かう道のほとり 茶屋の離れ、個室の席で 君と、ひとときを過ごす 都会を外れた山のふも…

【詩】まどい

震えている、音もなく 風のせいだろうか ちがう、鳥がきたのだ 枝の先端で、ふと こちらを、み…

【詩】たまらん坂

たいらな町で育った 町はずれに、坂があった そのむこうは、知らない人の住む 知ることのない…

【詩】幾何学色の町

この町に、移り住んできた 幾何学色に、切り刻まれた 立体交差のあたらしい町 みずみずしい若…

【詩】呼吸

君の頭上の樹の枝で、ツグミが ぬくもりに、ふるえている ちいさな、憂いのない瞳 こだまする…

【詩】坂のない町

坂のない町に生まれて 坂のない町で育った どこまでも、たいらで どの道も、まっすぐ むこうまで突きぬけていた おなじ高さのまなざしで 吹きぬける風を浴びて 眺めに耳をすましていた はじめに空が奪われた どこまでも、たいらな先を 無愛想な壁がさえぎった 風は行き先をうしなった 虚しく居場所をさがしている 畑地がつぶされた 安易な暮らしをつらねて 無数の命のいとなみを 踏みにじっていく やわらかな土壌に波を打つ はぐくむ匂いは葬られた 秩序なく空をめざし 富士の高嶺を沈め