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【ヒロイックファンタジー短編】父殺しの聖剣 第1話【自作テンプレート使用・6話完結】

 以前にご紹介した、ストーリーやキャラクター造形の骨子となる自作のテンプレートを使って、実際に短編を書いてみます。

 テンプレートについて、詳しくはこちらです。

 それでは、開幕です。どうぞ。


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 朱色の月が蒼い月と共に天に並ぶ夜に、サジタリスはこれまで実の父と信じてきた家族の重大な秘密を知ってしまった。
 
 サジタリスの父はダウロスと言い、近隣に名の聞こえた勇猛な領主であった。度々領地を脅かす人間も魔物もこくごとく撃退してきた。領内の法は厳格で、領民は厳しく管理されていた。

 サジタリスの十六歳の誕生日の夜のことだった。サジタリスはふと思いついて、自分はもう一人前になったのだから、見てはいけないと言われた地下の秘密の部屋を覗いてみてもいいだろうと考えた。

 そこで伴の者も連れずに一人で、城の隅(すみ)の薄暗い階段から、その秘密の部屋へと降りていった。そこには延々と闇の中へ伸びる一本の細い廊下があった。領主の息子は持ってきた魔法の明かりで照らしながら進む。

 サジタリスの足で、千歩ほども歩いたであろうか。突き当たりに鋼鉄の重々しい頑丈な両開きの扉があるのを見つけた。

 鍵が掛かっているのではと危ぶんだが、すんなりと扉は開いた。それもそのはずと、十六歳になったばかりの若者は思う。開けられぬ鍵を掛けているならば、父ダウロスは息子に開けるなとは言わなかったはずである。

 中は広々としていた。そこかしこに大きな蝋燭(ろうそく)の明かりが灯り、その小さな火はまたたき揺らいで影を揺らめかせる。

 平たい石版を敷き詰めて、その間を、石灰と水と砂を練った材料で固めた床には、赤い塗料で魔法円が描かれている。その中心に美しい女の遺体があった。それが遺体であるとはすぐに分かる。女の首と胴は切り離されているからである。 

 美女の胴体は一糸まとわぬ姿で横たえられていた。
 
 ダウロスの息子が愕然として立ち尽くしていると、

「おお、貴方はどなたですか? どうかお助けくださいませ」

 部屋の奥から若い女の声がした。
 見れば奥には巨大な鳥かごのような牢屋がある。中には、魔法円に横たえられた遺体と同じくらいに美しい女がいた。美女は青い絹のドレスを着ており、青白い肌の腕と首筋が見える。豊かに流れ落ちる髪は青く、目も青く、肌は青白い。若者は美女の方へと進み、鳥かごの側に立った。

「貴女は?」

 サジタリスは青き美女が自分に対して惚れ惚れとした様子になるのを見た。彼は父ダウラスに似て、眉目秀麗であった。黒髪と銀色の瞳。背が高くたくましく、血色の良い肌色。何もかもが父譲りである。

 父ダウロスは、年齢に似合わぬほどの体力気力と若々しさを未だに保っていた。息子と歳の変わらぬ若者のように。

 青き美女はサジタリスの問い掛けに答える。

「隣の領地から、ここに連れられて来ました。姉は、すでに、そこに」

「あの魔法円の中の美しい方が姉上なのですか?」

 鳥かごの中の美女は黙ってうなずいた。

「これがどういうことなのか、私にはさっぱり分からない。まさか父上がこのような」

「私は隣の領地の森林に暮らす翼ある者です。魔物と人間の混血から、我が一族は生まれたと言われています。ですが、私も姉も翼を切り落とされて連れて来られました。私も姉と同じようにされるでしょう」

「この魔法円は一体? 何のために貴女の姉君はこのように無惨に殺されたのですか」

 鳥かごの美女は言いにくそうにしていた。

「どうか言ってください。お願いです。私の父ダウロスのせいなのですね?」

「貴方のお父上はこうして魔法円に、生命力を捧げて我が物としているのです。若い男女の、いずれもが一定の人数必要なのです。ダウロス殿は、近隣の領地の者をさらっては、こうして──」

 にわかには信じられぬ思いであった。だが、父親が決してここには入るなと言い、扉を開けて覗くのもならぬと固く言い含めてきたのは事実である。美女が言うのは嘘ではあるまいと思われた。

「貴女を逃して差し上げましょう。私もこうなった以上は父のもとを去るしかありません」

「助けを求めはしましたけれど、それでは貴方が危険ではありませんか?」

「かまいません。一緒に逃げましょう」

 言うと、サジタリスは側にあった台の上から鍵を手に取り、鳥かごの形の牢を開けた。

「私は父に黙ってここに来ました。今は深夜です。皆眠っています。見つからぬように城を出ましょう」

 美女はうなずいた。

「私の名はバルゴニサ。隣の領地の領主の姉の娘、ですから領主には姪に当たる者です。母は臣下に嫁ぎました。私の父は、領主の一番の家臣です。母と、叔父である領主の一族には、魔物の血が流れています。それもあって、貴方のお父上は我らを敵視しているのです」

「しかし魔物の全てが人に害をなすわけでもない。まして隣の領地の一族とは、何の問題もなく平和に暮らしてきた」

「貴方のお父上は、我々を警戒し、先に亡き者にした上で我らの領地を征服しようとしているのです」

「それは確かなことですか?」

「はい、確かです。証拠はここに」

 バルゴニサは鳥かごの牢の側にある書き物机に歩み寄る。引き出しを開けて、中の革装丁の書面を取り出した。青き美女は、それを開いてサジタリスに示す。

 赤いインクで、隣の領地の領主を滅ぼす計画が書かれていた。明らかに、見間違えようもなく明白に、父のダウロスの筆跡であった。

「何ということだ」

「受け入れ難いのは分かります。ですが、これが事実なのです」

 サジタリスはしばらくは立ちすくんで身動きもせずにいたが、やがて重い口を開いてこう告げた。

「分かりました、バルゴニサ姫。私は貴女を逃して、私もここから旅立ちます」

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