見出し画像

【読書日記】「モモ」 〜節約した時間は何に変わるの?〜

「私の人生このまま終わっていくのだろうか」、「何者かになりたい」___誰もが一度は考えたことがあるかもしれない。

しかし成功のために、何をすればいいのだろうか。悪魔は言う、「成功の鍵は、時間の節約です」と。なぜなら、過去に時間をムダに過ごしたせいで今の状態があるのだから。

この物語は、成功したい人間を利用する悪魔に対抗する、モモという少女が主人公だ。

悪魔は人間をだまし、時間を節約させ、その時間をうばう。彼らは、人間の時間を食べて生きているからだ。

理髪店の店主は、過去のムダな時間を悔やみ、時間の節約を始める。散髪中に客とおしゃべりをせず、作業に専念する。結婚の可能性が低い恋人とのデートを減らす。一日の終わりに窓辺で、ぼーっとする時間をなくす…確かに、ムダは減った。お金も稼ぐようになった。

しかし、時間を節約した人たちの生活は、まるで工場の機械のように味気ない。仕事は、お金を稼ぐ手段でしかない。誰もが、怒りっぽく、常にイライラしているようになる。

一方、モモは、みずぼらしい浮浪児。お金はないが、時間ならたっぷりある。彼女は、友人たちが変わっていく様子を目にし、時間どろぼうから、時間を取り返す決意する。

時間を巡る冒険は、時間とは何なのかをモモに問いかける。時間どろぼうが狙うのは、デジタルな時間。誰しもが一日二十四時間、公平に持っているもの。けれど、私たちの時間は、質も全て同じなのだろうか。また私たちの人生も、工場と同じように成果物の多さで評価されるのだろうか。

作中、時間に追われた人々が最も恐れたもの。それは、しずけさだった。じぶんたちの生活の真実に向き合うのが不安で、静寂にたえられない。

このパンデミックは、図らずも私たちに、しずけさを与えてくれた。都会の夜もシーンとしている。今は新たな騒ぎを求めるのではなく、少しだけ、しずけさの中に耳を澄ましてもいいのかもしれない。


愛蔵版と文庫があります。


#モモ #ミヒャエルエンデ #時間 #読書感想文 #推薦図書

この記事が参加している募集

推薦図書

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?