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生命の起源:情報ゼロ再生産と影響システム基盤としての地球

私はシステムエンジニアの立場から、生命の起源について個人研究を行っています。今回の記事では、生命における情報の活用に焦点を当てます。

生物はDNAに遺伝情報を持っています。DNAがこの遺伝情報を自己複製することで進化し、また、その情報から生命の維持に必要なタンパク質を生成する仕組みを持っていることが知られています。

このDNAが遺伝情報をコピーしたり活用する能力が生物の基礎であると考えると、生命の起源について考える時に、無生物から生物には大きなギャップがあるように思えます。

しかし、情報のコピーや活用をしなくても、タンパク質のような生命現象を支える化学物質を生成することができると考えれば、生命の起源の考え方が変わってくるのではないかと思います。

この記事では、知性における情報のコピー、つまり真似をするという能力の話を起点にし、元になる情報がゼロであっても同じ物事を多数生成することが可能であるということを示します。そこから、自然界において多様な化学物質が再生産され、それが長く存続することが、生命誕生へつながる可能性を議論します。

■真似をすること

知性について考えてみると、その根源的な指向性として、真似をすることと制御することがあると思います。

物事を認識する能力や創造性などの能力は、それ自体も高度な能力であり、単体でも意味がありますが、真似や制御の視点からは、便利な道具のような位置づけに見えます。

真似をすることについて掘り下げていくと、物事をコピーする事、と言えるでしょう。物事とは、例えば、シンボルやコード、形状や構造、動作や振る舞い、機能や性質などです。

コピーすることについて掘り下げると、同じタイプの物事が、同時に存在する数や量を増やすという事です。

例えば、自分で手書きで書いた書類は1枚しか存在しませんが、それをコピー機でコピーすれば、同じ書類が2枚に増えることになります。

同じ書類を2枚に増やしておけば、万が一1枚が水に濡れて読めなくなったり、破れたり燃えたりして失われても、もう1枚が残ります。つまり、同時に存在する数を増やしておくことは、長時間存在させ続けておくために有利です。たとえ物体として厳密に同一でないとしても、書類の内容は残り続けます。

この例のように、コピーや真似をすることは、シンボルやコード、形状や構造、動作や振る舞い、機能や性質をバトンリレーしながら長時間存続させる働きがあります。

■物事の同時存在数を増やすこと

同じタイプの物事が同時に存在する数や量を増やす、ということを目指す場合、コピーだけがその手段ではありません。再生産という手段もあります。

先ほどの例であれば、コピー機でコピーをしなくても、2枚目の書類も書いておけば2枚の書類に増やしておくことができます。これが再生産です。

再生産は、書類に書いた内容を知っている本人であれば容易に行う事ができます。別の人にお願いする場合、元の書類を見せて作成してもらえばコピーになります。一方で、元の書類を見せるのでなく、書類に書いてほしい内容を電話で伝えて書いてもらえば、再生産と言えるでしょう。ただし、書類は再生産ですが、依頼元から依頼先の人へ書類に何を書けばよいかという知識がコピーされたことになります。

さらに、この書類が、極端にシンプルな場合を考えてみます。例えば、〇と×のスタンプが用意されていて、そのスタンプを押すだけという書類だとします。その場合、1枚目に○のスタンプを押して、2枚目にも○のスタンプを押すことが再生産です。

これを本人が行わずに電話で誰かにお願いする場合、押すべきスタンプの情報をコピーしなくても、再生産することが可能です。依頼された人は、どちらのスタンプを押せばよいか教えてもらっていない場合、〇のスタンプを押した書類と、×のスタンプを押した書類の両方を作成すれば良いのです。

単に〇のスタンプが押された書類の数を増やすことが目的である場合、紙の無駄遣いにはなりますが、このように紙自体のコピーも、再生産するための情報のコピーも行うことなく、達成することもできます。

■情報ゼロ再生産

これを拡張していけば、記号として○や×以外に、全ての文字を含む場合も同様です。さらに、記号を複数並べる場合にも考え方を適用できます。すると、長い記号の並び、つまり文章を書く必要がある場合でも、労力は非常に大きくなりますが、原理的には紙や情報のコピー無しに、同じ書類が同時に存在する数を増やすことは不可能ではありません。

これは再生産の一種ですが、数打てば当たる方式です。総当たりやランダムに生成することで、多くの無駄を含みつつ、再生産を行うという意味で、極めて低精度の再生産と言えます。情報が増えれば精度が高くなり、全ての情報があれば完全な精度で再生産が可能です。

情報が少なければ精度は低下します。しかし、たとえ情報がゼロになっても、再生産の精度はゼロになりません。つまり、再生産を行う仕組みさえあれば、情報が無くても再生産は可能と言えます。

後は時間とリソースの効率の問題です。情報が無ければ、あるいは少なければ非効率な再生産、情報が多ければ効率的な再生産が行えるわけです。

■長時間存続させること

自然状態において、ある物事が生じた後、やがて消失することになります。物事の安定性が高ければ、消失するまでの時間は長くなるでしょう。従って、物事の安定性が、その物事の存在時間の長さを決める1つの要因になります。

そして、前述したように、その物事の同時に存在する数を増やすことでも、物事の存在時間を長くすることができます。

ここでの前提は、物事が自然状態で生成されるという事でした。従って、ここで存在時間の長さを考えている対象の物事は、自然状態で生成され得るということです。つまり、この物事を再生産する仕組みが存在するという事です。

前述した通り、再生産する仕組みがあるのであれば、たとえ情報がゼロでも再生産は可能です。例外は再生産するための資源に限界がある場合です。資源が豊富にある場合、自然状態で生成される物事は、再生産によりその数や量が増える可能性があるという事です。

従って、自然状態で生成される物事は、安定性と再生産性という尺度を持ち得ます。そして、安定性の高さと、再生産性の高さが十分であれば、その物事は存続し続けることになります。反対に、これらが不十分であれば、物事は連続的に存在し続けず、消失と再出現を繰り返します。

■生命現象

このように考えると、生命現象は安定性と再生産性を高めながら、存続する時間が長くする性質を持っている物事であると言えそうです。

再生産という観点から見ると、生命現象はおそらく情報の複製がゼロの自然状態から出発したのだと考えられます。情報の複製がゼロであるため精度は低いものの、その環境で合成されて生み出される様々な化学物質は、再生産性を持ちます。

こうした様々な化学物質の再生産の精度や効率が、何らかの原因で上昇することで環境中にその化学物質が同時に存在している量が増加していくことになります。すると、それらが組み合わさってより多様な化学物質が自然に合成されて生み出されます。

もし再生産の精度上昇と、新しい化学物質の合成が繰り返されれば、生成される化学物質の多様性が増加しつつ、各化学物質の存在数と存続時間が増えていくことになります。

生命現象につながる化学物質の進化がこの流れで進展したと考えた場合、RNAの情報からタンパク質が生成される仕組みは、再生産の精度向上のための画期的な発明だったはずです。そして、そのRNAを生成することのできるDNAが自己複製することで遺伝情報がコピーできるようになったことは、さらに大きなイノベーションだったと考えられます。

■エフェクトシステム

こうした大きな発明でなくても、例えばある化学物質が生成されて環境中に存在することが、化学物質の合成を促進するというフィードバックがあれば、化学物質の再生産の効率が良くなるでしょう。

様々な化学物質が自然状態で合成される中で、こうした再生産へのポジティブなフィードバックが積み重なれば、化学物質は進化していくことができたはずです。その過程で、DNAやRNAをはじめとする画期的なイノベーションも重なる事で、生物誕生に至ったというシナリオが考えられます。

この時に必要な事は、情報の保存やコピーではなく、影響の伝達です。ある化学物質が生成されたときに、その化学物質が及ぼす影響が周囲に伝達されることが必要です。もし影響が伝達される環境になければ、フィードバックが行われず、化学物質の再生産性は時間経過とともに一定です。

時間経過に従って影響が繰り返し伝達されるシステムを、私はエフェクトシステムと呼んでいます。水の中は新しくできた化学物質が周囲に影響を伝達しやすい環境のため、エフェクトシステムの舞台として理想的です。また、水の中には温度変化などによって対流が起きるため、様々な化学物質が影響を及ぼすという点でも効果的です。

さらに、地球の水は循環するため、生成された様々な化学物質が上昇気流に乗って雲に移動し、雨となって陸に降り注ぎ、河川を通じて様々な湖や池や海に流入することが繰り返されます。これは多様な化学物質の存在割合が異なる多様な水場を生み出しつつ、その間でも化学物質を複雑に交換するという点で、非常に複雑で高度なエフェクトシステムの舞台装置です。

この舞台で長い時間が経過すれば、たとえ極めて低精度で低効率な再生産の仕組みからの出発だったとしても、進化のシナリオは可能だったのではないかというのが私の見立てです。

そして、無生物から生物への進化にとって、偶発的に画期的な仕組みが発明されることや、特定の順序で進化が進行することが鍵ではないと私は考えています。鍵になるのは、エフェクトシステムの基盤部分の性能だと思っています。エフェクトシステム基盤として捉えた場合、地球は非常に高い性能を持っています。

■知性

知性も、生命現象の上に生み出され、生命現象の存続時間を長くするための道具だと考える事ができます。

知性も、生命現象と同じく低精度の再生産から出発した可能性があります。

例えばある刺激を受けた時に、どのような行動を取ると生き残りやすくなるかを学習する仕組みがあれば、それは知性のような性質を持っていると言えるでしょう。

刺激とは無関係に行動したとしても、行動パターンに多様性があれば、運が良い個体は生き残ったはずです。そこから、刺激に反応できるようになり、さらに刺激に対してより生存しやすい行動を取るように種として進化することは、生物の遺伝の仕組みでも可能です。

知性は、これを1つの個体のライフサイクルの中でも可能にします。一度適切な行動ができれば、それを学習して次に生かします。失敗した場合も生存していればその情報を生かします。さらに、コミュニケーションができれば仲間にもこの情報を伝達できます。

ここに、刺激に対する適切な行動という情報、あるいは刺激に対する不適切な行動という情報が存在していることが分かります。この生物の生存にとって価値のある情報を、安定的に存続させる仕組みが記憶です。そして、仲間に伝達して記憶の数や量を増やす仕組みが、情報のコピーの意味でのコミュニケーションです。

これで、知性の根源的な指向性として冒頭で挙げた真似をするという性質があるという点について、生物の存続と情報の存続という側面から説明をすることができました。

■さいごに:化学進化の微分可能性

生命現象を、安定性と再生産性を高めながら、存続する時間を長くする性質を持つ物事、と捉えることを提案しました。

その上で、この記事では再生産性について深堀りしました。

まず、情報がゼロでも再生産は可能であることを示しました。生命現象の本質に自己複製が挙げられることが多いと思いますが、そこには思い込みがあると私は考えています。DNAの自己複製と変異という強力な能力があるために、それが生命現象の本質であると考えてしまいがちです。

しかし、この記事で述べたように、進化は自己複製が無くても達成し得ます。低精度であっても再生産される仕組みと、その精度を向上する仕組みさえあれば、無生物であっても進化は可能であり、その延長線上に生物が誕生した可能性は十分にあるでしょう。

これは、大きなギャップが無くシームレスに段階的な進化が可能だったという考え方に繋がります。人工知能の研究で使われている微分可能という概念を、生命の起源における化学進化にも適用できることを意味します。

また、この記事では、情報が増えることで再生産の精度が向上することや、DNAやRNAなど生物学的に情報を扱う仕組みが発明されることで、情報のコピーによる再生産効率が格段に向上したという見方を示しました。さらに、知性により情報は世代を越えずして個体や同世代の仲間にも複製され、それが適切な行動という形で生物の生存に役立つという話をしてきました。

これらは全て、精度や効率の面で再生産性を高めるという観点から行われているものであり、それが生物全体や生物種や、個体や仲間の存続時間を長くすることに貢献します。

一方で、生命現象による存続時間に影響する性質には、安定性という観点もあります。これは物事を強化したり、消失を防いだり、修復を行うことで得られる性質です。

安定性については、また別の記事で考えていくことにします。おそらく、冒頭に挙げた知性の持つ制御するという性質が、安定性に寄与するのだと考えています。


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