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知能のアーキテクチャ:観念、記憶、現実、意識、自由意志、自己像のモデル化

はじめに

このnoteでは生命の起源をテーマに考えてきました(参照記事5)。そこから射程を伸ばして意識や認識の分野も考えてきました(参照記事1, 2, 3, 4)。

これらの記事で考えてきたことを統合しつつ、新しい気づきも含めて、現時点までに分析できた知能の本質的な構造(アーキテクチャ)をこの記事でいったん整理します。

なお、整理しているうちに、一部、生命の起源のテーマで考えてきた生態系的システムのアーキテクチャともつながりが見えました。私としてはまた面白みが増してきました。

1. 長期記憶されるもの(静的認知空間)

1.1 記憶された出来事

過去に経験した出来事が長期記憶されます。追記的に記憶されます。

1.2 構築された観念

これまでの経験から学習したもので上書き更新的に記憶されます。この中には以下があります。

  • エンティティ

    • 静的な存在や概念。抽象化した上位概念(イデア等)も持つ。

  • パターン

    • 時間変化や空間的な形状など。抽象化した上位概念(法則等)を持つ

  • リレーションシップ

    • エンティティ同士やパターン同士、あるいはエンティティとパターンの関係。

    • 概念的な上位下位であるとか、包含関係とか、エンティティがどのパターンを持つとかを含む。リレーションシップ自体の上位概念も持つ。

  • シチュエーション

    • 関連性の強いエンティティやパターンやリレーションシップが凝集した集合。

    • シチュエーション自体も上位概念を持つ。

    • シチュエーションによってエンティティ同士のリレーションシップも変わり、パターンも変わる

構築された観念の中には、自己像と世界観が含まれる。ただし、自己像と世界観の間にも、シチュエーションやリレーションシップやパターンによる繋がりがある。このため厳密に分離されるものではない。あくまで説明のための用語として定義する。

  • 自己像

    • 自己と認識しているものの、エンティティやパターン。それらの間のリレーションシップ。また、シチュエーションとの関連付け含む。

  • 世界観

    • 自己像以外のすべて。

2. 現在進行形のもの(動的認知空間)

2.1 想起された現実

以下を入力情報として使い、脳が認知、判断、予測によりこれらを組み立てて、現実として認識されるもの。

  • <入力情報>

    • 知覚:外界や身体からの神経刺激

    • 構築された観念: 前述の通り(1.1節)

    • 記憶された出来事: 前述の通り(1.2節)

  • <基本処理>

    • 認知:エンティティや関係を認識する

    • 判断:シチュエーションを認識する

    • 予測:過去や未来、今知覚できていないものも含めて、パターンを使った補完や予測結果を認識する

    • 仮定:想起される現実が収束しない場合に、ミッシングリンクになっている箇所に仮定を立てる。辻褄が合わなければ修正されるが辻褄が合えば仮定を現実と認識する

  • <処理組合せ>

    • 収束:認知、判断、予測は同時並行で行われ、お互いの認識や補完や予測結果をフィードバックしながら、認知、判断、予測を繰り返し再実行する。これにより、想起される現実を収束させ続ける。

    • 修正:知覚された情報と想起された現実に差異があれば、認知、判断、予測にフィードバックして想起された現実を修正し続ける。

    • 思い起こし:認知、判断、想起に必要な情報を記憶された出来事から取り出して、認知、判断、想起にフィードバックする。

3. 特性とメカニズム

3.1 未来の収束と自動行動

想起された現実は、現在から外側の過去や未来にも、中心からはなれた外側にも、広がりを持つ。

現在の場面が、慣れているかどうか、予測可能かどうかにより、以下のような状況になる。

  • a)かなり慣れている場面

    • 外側に広く収束した想起された現実を持つ

  • b)不慣れな場面

    • 想起された現実は現在と中心に狭まった形でしか収束しない

  • c)予測不可能な場面

    • 中心付近も収束せずにぼやける

未来の収束は、その収束点までの自身の行動も決まっている事を意味し、想起された現実のメカニズムの中で自動的に決まって実行される(自動行動)。その間も、想起された現実は未来を収束させていくため、想定外や予測が難しい場面が訪れるまで自動行動は継続可能である。

3.2 自動行動から意識的行動への受け渡し

想起された現実により自動的に行動している間、我々は「無意識」とも言える。実際には覚醒しているので意識はあるが、必要とされないので特に強く前面に出てこないような状態。

意識が前面に出てくるケース、つまり意識的行動が必要になるのは、大きく以下の3つが考えられる。

  • ケース1) 収束した未来の破綻

    • イレギュラーなものやことが現れたり起きたりして、収束した未来が訪れないケース。

    • 道を歩いていて石につまずいた場面。この時、意識が前面に出てきて情報を収集し、リカバリ計画を立てる。

    • この収束した未来の破綻は、印象に残る出来事のため、記憶された出来事に鮮明に追記される。また、次からはこの道は気を付ける必要がある、あるいは、油断せずに足元を見て歩くべきだ、という形で構築された観念が更新される。この時、ネガティブに「後悔」として更新されるケースやポジティブに「反省」として更新されるケースがある。

  • ケース2) 未来の収束の困難

    • 慣れ親しんだ場面から不慣れな場面へと移行するケース。

    • 今まで収束できていた時間幅ほど未来を収束できなくなり、意識が出てくる。意識が取る方針はネガティブとポジティブがある。

    • 慣れ親しんだ状況に戻す試み。例えば知らない道に差し掛かりそうになった時に元の道に引き返す。

    • 想起された現実による未来の収束幅の確保をあきらめ、自動行動から意識行動へと切り替わる。

  • ケース3) 未来への欲求

    • 自動行動で自動的に収束される未来よりも、その先の未来を知りたいという欲求を起点に、未来について考え始めるケース。

    • この場合、想起された現実の能力の範囲外のことになるため、意識が引き取って、未来について思考する。

    • これもネガティブを元に不安に思って考える場合と、ポジティブに希望や好奇心で考える場合とがある。

3.3 自己像の形成

自己像は以下の3つの方法で構築される。構築された自己像は、構築された観念の一部として上書き保存されていく。

  • 学習された自己像(体験的自動構築): 自動行動から意識行動への移行の際に学習されて形成される。

  • 影響された自己像(社会的自動構築): 他人とのコミュニケーションで影響を受けて形成される。

  • 開発した自己像(意識的構築): 自らの思考で方法付け・意志決定により形成される。

形成された自己像に従って、3.2節で見たように意志が引き受けた際の反応(例えばポジティブやネガティブ)が決まってくる。その結果が再度、学習された自己像に反映される。

また、形成された自己像は行動だけでなく学習の仕方にも影響する点が重要。例えばネガティブな自己像は、後悔型の学習をしてしまいがちになる。

自己像も状況によって変化する。スポーツではポジティブだが、人間関係はネガティブになる、など。また、状況の抽象化に沿って自己像も抽象化される。一部分ではポジティブだが、全体としてはネガティブ、等。

3.4 自由意志

自由意志が発揮できるのは、意識的行動と、意識的構築の場面だけだと考えられる。

構築された自己像や他者からの影響もあるが、意識的行動と、意識的構築の場面には、そこに自由選択の余地が出てくる。その自由意志による選択は、結果として自己像に強く反映される。おそらく通常の学習よりも強く反映される。

そして、その時の選択の結果として保存された自己像が、それから先の自動行動や自動構築にも繰り返し影響を与える。かつ、次に自由意志を発揮できる意識的行動と、意識的構築の場面にも影響を与える。

このような形で、自由意志による意識的行動と意識的構築は、積み重なりながら自己像を形成し、自己の人生の歴史を刻ませて、未来にも影響を与えていく。

3.5 補足

上記までの整理は、かなり成熟した状態での表層的な単一の知能のモデル化になっている。

  • 未成熟あるいは深層的な知能の場合

    • 未成熟の知能は、これらの概念のうちいくつかのメカニズムや機能がない可能性がある。また、システム的に要素やメカニズムがくっきりと分化していない可能性がある。

    • 成熟した状態の知能でも、表層でなく深層部分については同様。

    • 未成熟あるいは深層的な知能と成熟した表層的な知能の比較

      • 未成熟あるいは深層的な知能

        • 機能がないことや分化されていないことは、それだけシンプルで素早く効率的に動作できるという事です。これは自動行動や自動構築に適しています。

      • 成熟した表層的な知能

        • 自由意志を発揮する必要のある意識的行動と意識的構築は、自動的な予測ではわからなかったものを、意識的に予測する高度な機能とメカニズムを必要とする。このため、システム的な成熟した表層的な部分が得意とする部分と考えられる。

  • 複数知能の場合

    • 1回の自由意志による行動や構築が将来にわたり繰り返し影響を及ぼし、かつ、自由意志による行動や構築が何度も起きる。このため自由意志は多様で複雑な自己像を形成していく。

      • そう考えると、自己像も、一つの生態系的システムかもしれない。そうなると生態系的システムアーキテクチャで分析できる対象になる(参照記事5)。

    • こうして個人個人は、多様な自己像を持つ。そして自己像は社会的自動構築を通して、集団の中で影響を及ぼし合う。

    • 体験的自動構築は場面ごとに異なる自己像を統合し一個人としての共有自己像を形成する役割を持つ。一方で、社会的自動構築は集団の中で自己像を統合し、コミュニティとしての共有自己像を形成する役割を持つ。

    • これは想起された共有現実と同様に、社会を紡ぐ「糸」となっていると考えられる(参照記事2)。

おわりに

これでひとまず、基礎となる構造の分析はできてきたように思います。3.5節の補足に書いたことを深堀し、詳細化や見直しをすることで、このモデルの洗練度を上げられるでしょう。

特に、生態系的システムのアーキテクチャと自己像に関わりが見えてきたのは私としては大きな成果でした。まだまだ、面白そうな発見が待っていそうです。

参照記事一覧

参照記事1

参照記事2

参照記事3

参照記事4

参照記事5


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