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堀川湧気監督作品「還る」から「もう一度生まれる」2018年間頃の話。


ボクと当時大学生の堀川湧気くんは
閉館後のスーパー銭湯ファンタジーサウナ&スパ おふろの国のリネン室でドラム式の業務用洗濯機の中で水と洗剤に塗れグウィ〜ン…グウィ〜ン…回る何枚ものサウナマットを見つめていた。

会話は無い。

深夜、それをただ見つめていた。
堀川くんはボクのドキュメンタリーの映像作品を撮影する為におふろの国に来ていた。

これは2018年の話だ。

ほぼ全ての照明が落とされたおふろの国館内で一室だけ明るいリネン室にボクと堀川くんがいた。

館内にはボクら以外誰もいない。

ボクらはドラム式業務用洗濯機が回るのを無言で見つめていた。
おふろの国のサウナマットは黄色いので
ドラム内で黄色い渦ができあがる。
それを何分も見ていた。

業務用洗濯機はゴツい音を鳴らし
ぐるんぐるんと重く回っている。

堀川湧気くんと出会ったのは 
おふろの国のウェブサイトのお問い合わせフォームからメッセージをもらったのが切っ掛けだった。…と思う。

「井上勝正のドキュメンタリー作品をショートムービーとして撮りたいです」と。
おふろの国店長、林和俊さんとも話して
実際会って話しようと言う事になった。

日程を決めて営業中のおふろの国に来てもらい館内のレストラン「サウナ食堂」で堀川くんのプレゼンを聞いたのだ。

堀川くん曰く
自分は大学生で、将来映画作品を撮りたくて大学で勉強している。
すでに制作活動もしていると。
この度卒業するにあたって卒業記念の作品を撮るので自分は「題材として井上勝正さんを撮りたい」と言うのだ。

堀川くんは
作品を作るのは初めてではなく
過去に(人形劇団プーク/ドキュメンタリー作品「人形に取り憑かれた人々」堀川湧気監督)など発表したことがあると言う↓


ボクにしてみれば光栄なお話だし、
断る理由はないが、
おふろの国には負担がかかる話だ。

営業中、熱波やってるとこの撮影だとすると諸々制約もあるし、なによりおふろの国に来ているお客さんのストレスになってはいけない。

おふろの国側の意見を堀川くんに伝えると…、
「いや、熱波師としての井上勝正ではありません
早朝清掃時の井上さんが撮りたいんです」
と言った。

てっきり「熱波師」としてのボクだろうと思っていた林さんも 「ほほう…」と言っていた。

「単に真夜中に一人で作業していたり、そういう所を撮りたいです」
深夜だったら朝になってパートさん達が来るまでの時間ボク以外誰もいないので大丈夫なのだけど、
ぶっちゃけ深夜のボクのドキュメンタリーはYouTubeでも某テレビ局も撮影しているし映像は堀川くんも事前に観てるよな、とも思ったが林さんは
「じゃあ後は二人で決めてもらって話進めてもらえれば」と言う事なった、

具体的に何を話したのかは覚えてない、
たいしてそんなに話して無いのだと思う。

すでに堀川くんの頭の中には映像と物語はあるのだろうし、
別にボクはどの部分を撮られても良い。

おふろの国の施設設備等がフレームに入る時にはボクがカメラマンでもある堀川くんに指示してセーブすれば良いだけの話だ。
だったら堀川くんは堀川くんの視点で撮れるだろう、
ボクはそんな事を考えていた。

「こう撮って欲しい」と言うのがない、そう伝えた。


話は飛ぶが、最近YouTubeを改めて始めた
「井上勝正の黄金体験チャンネル」でも「ボクの普段を撮ってもらえたら良い」と思っているし、
愛妻tamamixも
「作らずに井上勝正(井上富文)の普段を撮ってほしい。それが楽しいから。」とずっと言ってる。


話を戻して、
堀川くんは撮る前から決めてかからずに
その瞬間の視点で観たフレームを撮影していた。
ボクがクタクタでも、
面白くなくても、
ただ眠っていても、
無言で清掃しているだけでも、
堀川湧気くんのイメージで無かっても。
オレは何も言わないけど、
その瞬間を撮ってくれれば良い。
そのものを捉えて欲しかった。
きっとその方が後々インスピレーションが湧くし
ぜんぶ内包して自分の作品として纏めるべきなのだ。

堀川湧気くんはロケの為、何度も深夜におふろの国に来た。
軽く挨拶してその夜の段取りを伝えて作業に取り掛かる、堀川くんは後を追ってくる、
何なら今から撮っても良い、全て撮ってくれ。そう思っている。

どんな息づかいも、暗くガランとした館内に伸びるボクの影も、全てが作品だ。
その一瞬を切り取ってほしい。


堀川くんも、ボクも、おふろの国も、
みんな生きている、と気づいてほしい。
そしてそのどれもが
いづれこの世界から無くなり、
亡くなっていく。


ボク達は無言で浴槽換水の為に排水口にキュルキュル…抜けていく、水の音を聴いた、
深夜の露天風呂にビュービュー…吹く、風の音を聴いた、
自分達のザシャ…ザシャ…と言う足音を聴いた、
そしてドラム式業務用洗濯機の中で回る黄色いサウナマットを見ていた…。

まだ早朝清掃のパートさん達が来るまでしばらくある、
ボクは堀川くんに
「浴室に行こう」と誘った。

堀川くんに観て欲しかった、
その日の天候にもよるが、夜から朝に変わる夜明けの数分間だけ、
空が紺碧になる。

その時、浴室の白いタイルが全て深い青にぼんやりと染まる、
そう何分も続かない光景だ。
それを堀川くんに観て欲しかった。

それが美しく観えるか、
単に薄暗く感じるかは彼次第だ。


この何年後、またおふろの国を舞台にして撮影された彼の作品、
「もう一度生まれる」
(脚本・監督 堀川湧気)
劇中にその瞬間の様子が映されているし、チラシにもその青くなっている浴室の壁のスチールが使用されているのを観たとき、
嬉しかったな。

(実際にあるタイミングが重なった瞬間ほんとに浴室が真っ青になる、
なのであのスチール等は画像の「深い青色」は加工ではないと思います)


堀川湧気監督作品
井上勝正ドキュメンタリー劇場公開版
「還る」2024年2月25日までYouTubeで限定配信されています↓

↑ぜひご視聴ください!

堀川湧気YouTubeチャンネル


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