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精神科の診断書をどう扱うか

職場において、メンタルヘルス不調者の対応において、精神科主治医の診断書は、重要な情報源である。しかし、この診断書を職場でどう扱うかについて、職場の関係者から相談を受けることも多い。今回のこの診断書について触れたい。

主治医も悩んでいる

一般的に医師は専門家で、その診断の精度は高いと考えられている。だから、職場はその診断は正しい前提で取り扱われることがある。しかし、精神科領域の診断は、客観的なデータとして血液検査や画像診断のように決定的な根拠基づくものがなく、問診が中心になっており、必要な情報を引き出し、それを適切に判断するには相当のスキルを要する。さらに、診察室(もしくは病院)という限られた環境での診察には、限界がある。患者がどんな職場でどんな仕事をしているのか、実際に行ったこともなければ、見たこともないものを、患者からだけの情報をもとに想像して、その影響を判断することは容易ではない。複数の事業場を経験したことがある方では想像できると思うが、同じ職種でも、勤め先が変われば、仕事は全く異なることはよくある。そもそも病院以外での就業経験がない医師が、職場のことをイメージするのはそう簡単ではない。実際、専門医に向けた調査でも、半分以上の先生が、「復職可能な状態かの判断が難しく迷うことが多い」と回答しているが、決しておおげさでもないと考える。

診断結果は重要だが、最終判断は会社

主治医の診断書が絶対的なものではないなら、何を元に判断したらよいだろうか。
まず、前提として、就業に関することの最終判断は会社だということだ。主治医から診断書は、専門的な見地から情報であり、上記の背景はあっても重要は情報であることは間違いない。

目の前の本人に目を向ける

しかし、最も注目すべき情報源は、目の前にいる本人である。だからこそ、本人が今どういう状況なのかを会社としても適切に情報を集めることが求められる。本人が、就業できる状態なのか、実際に話をしてみればわかることは多い。専門家ではない担当者と、まともに話ができないような状態なら、就業が難しいことは明白である。また、一見、問題がなさそうでも、症状がコントロールできていなかったり、日常生活がまともにおくれていなかったりすることもある。本人がどこまで正確に打ち明けてくれるかは、わからないが、まず聞いてみることはできるはずである。特に、「大丈夫か」などの抽象的な聞き方ではなく、具体的に、いつ、何を、どのように、どれくらいといった形で聞いていくと、本人の状態は明確になっていく。私の経験上、「大丈夫、問題ない」と思っている人でも、具体的に聞いていくと、一般的に考えても勤務に耐えられる状態ではないことはよくある。むしろ、話してみて本人もその事実に気づくことがある。また、働いている人なら勤怠情報や、仕事の成果物の状況などに注目したり、休業している人なら、生活記録をつけてもらうことで、判断のための情報は手に入れられる。

問題はみんなで考える

とはいえ、精神科領域の疾病は判断が難しいということは変わりがない。会社が判断するという前提はかわらないものの、その判断のために、上司や別の担当者の視点を加えたり、産業医や保健師、カウンセラーなどの別の専門家の意見も問い入れることも重要である。

職場の感覚を言語化する

診断書の取り扱いについて述べてきたが、実際に診断書の取り扱いに苦慮するのは、診断書の内容と職場の感覚が乖離している場合ではないだろうか。診断書は絶対的なものではない。そして、実際その従業員を見ている職場の感覚は正しいことが多い。しかし、主治医の専門的見地からの意見は覆しがたいのも事実だが、職場の感覚を言語化し、本人や主治医に伝えてみてことはできる。また、その情報があれば、関係する専門家は動きやすくなるし、診断書の取り扱いについて理論武装もできる。絶対的なものはないことが、メンタルヘルス不調者対応の難しさではあるが、だからこそ、情報を集めたり、整理し活用したりしたうえで、関係者が適切な対応できるようにしていきたい。また、できれば社内ルールなどの事前仕組みにしておくとよい。



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<著者について>
野﨑卓朗(Nozaki Takuro)
 
日本産業衛生学会 専門医・指導医
 労働衛生コンサルタント(保健衛生)
 産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学 非常勤助教
 日本産業ストレス学会理事
 日本産業精神保健学会編集委員
 厚生労働省委託事業「働く人のメンタルヘルスポータルサイト『こころの 
 耳』」作業部会委員長
 
 「メンタルヘルス不調になった従業員が当たり前に活躍する会社を作る」



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