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波音と、君の気配。

私は海が好きだ。

毎年、夏になると誰かと二人で海へ行く。そして、海をぼんやりと見ながらどうでもいい話をして、話が尽きたところで帰る。二人で静かに夕陽に輝く海を見ながら電車に揺られ、少し名残惜しそうに別れるのだ。

しかし、今年の夏はそんなことが起きる予定はない。正式には、海には行く。ただ、まったく特別感がないのだ。

私は海そのものが好きなわけではないのだろう。
では、この「特別感」とは何か?

その答えは、海での過ごし方にあることに気づいた。

私は、静かな海が好きなのだ。

今年の夏、一回目は同性の幼馴染、二回目はサークルの人たちと海に行く予定である。どちらも、おそらくワイワイとはしゃぎまわるだろう。

しかし、私が求めているのは、レジャーシートに横並びで座り、沈黙の中、海を眺めている時間なのだ。ぼんやりと海を眺めていると自然と口数が減ってしまう。

何を話そうか、相手は今何を考えているのか。
海が徐々に私たちの思考力を奪っていく。

波音と、君の気配。

そんな少し気まずいような、でも隣の気配が愛おしくなるような非日常的な時間が好きなのだ。

私は海に行ってはしゃぎたいのではなく、ただ眺めていたいのだろう。

「そろそろ行こうか」

君は静かにうなずき、レジャーシートを畳み始める。

二人は海を後にする。砂浜を出る直前、名残惜しそうに一度振り向き、再び「行こうか」とつぶやく。

海から離れた後も会話は少ない。

海はおしゃべりな二人を途端に無口にしてしまう。


そんな静かな時間を今年も君と過ごしたかった。


#わたしと海

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