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【短編】ある晴れた日の午後11

親族一同は部屋に通されて、台の上に載せられた父のものと思われる遺骨と対面した。
係の人の指示で、血の繋がりの濃い順に並べられ、台を取り囲むように配置された。
はしを順に回して遺骨を拾い上げ入れ物に入れていく。
叔父が祖母に向かって父は痩せ型だから骨が少ないだの雑談をしているのを黙って聞いていた。

入れ物にそれらが収まると、私達は一礼をして部屋を出た。

外は、夕暮れが近づいてきたのか一段と寒くなっていた。
気づけば、スーツ姿のままでウールコートをどこかに置き忘れていて待合室に探しに行こうとした。

すると、叔父と祖母に名前を呼ばれた。

「あすか。これを持って。」
祖母が私に渡そうとしたのは、骨壷が入った白木の箱だった。
後ずさりして、祖母に向かって首を振る。

「わたし、持てないよ。」
「いいから。持ちなさい。あすかちゃんが持ちなさい。お父さんだから、ちゃんともってあげて。」
叔父がうなづいて声をかけた。
「あすか。持ってやって。」

私は恐る恐るそれを受け取った。
重いとか軽いなどでは到底言い表せない重み。けれども到底生きている人間の重量とは言い難いそれを、複雑な気持ちで受け止めていた。

駐車場の方まで親族一同移動する事になり、スーツの列が思い思いに進んでいた。
マイクロバスの到着を待っている間に、見晴らしの良い空地に辿り着いた。
祖母と並んでその景色を眺める。

眼下からゆるやかに広がり、遠くの山々まで見渡せるその場所から、ある一点にフォーカスがあたる。
少し開けた山の辺りにいつか積もった雪が残っていて、点々と黒い跡が山奥まで続いている。
いつか新幹線のホームから見た山の方角だった。

ぽーん、とあの寒い冬の日に聞いた音が響く。
頬にあたる風がじんわりと冷たい。
胸に抱いた箱を抱き寄せて目線の高さまで掲げ、
顔を擦り寄せて語りかけた。

「お父さん見えるかなあ。あれは、雪女の足跡だよ。」
最古の記憶の中で父の胸に抱かれていた私は、今、父を胸に抱いて居る。

その日の夜は雪が降り出して、父は雪になったと誰かが言った。




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