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バカにつける薬はない 第二回
三 人妻と
「あ……あの、おはよう、アディ君!」
朝、学校へ向かう道中。道路脇の家から、アディは不意に呼びかけられた。
テレネだ。庭に出て、花の手入れをしていたらしい。朝の冷気のせいか、少し頬が赤い。
トラルとテレネ、二人の新居は、アディの家の近所に構えられていた。アディの通学路脇だ。大工のトラルお手製の小さな可愛い家で、庭の草木は二人の要望を聞いて、近所の人たちも手伝って用意した。料
バカにつける薬はない 第一回
一 幼なじみ
「アディ……」
サリルが顔を上げ、手をそっと重ねてきた。
「アディ、あなたは決めなくてはいけない。あの村に戻るか、こちらに来るか」
サリルの柔らかく温かい身体が、アディを優しく包む。
慈愛にあふれた、その身体が。
だが今、彼女から突きつけられた選択は、それとはうらはらに冷たく厳しいものだった。背筋が震えたのは、今いる薄暗い部屋がじっとりと冷え込んでいるからだけではない。
太陽のホットライン 第四回(最終章)
五 試合
レイスターズに入団して、一ヶ月ほどたったある日曜日。
「うわー、見て見て、ジェットコースター! 面白そう! 乗りてー!」
駅から上がるゴンドラの窓から外をながめて、太陽(たいよう)は興奮して声を上げていた。
遊園地が見えているのだ。
そんな太陽を、楓太(ふうた)が笑いながらたしなめた。
「太陽、太陽。今日は試合で来てんだよ」
「そうだった」
言われて太陽は居住まいを正す。
太陽のホットライン 第三回(第四章)
四 特訓
ゴール前に走りこんだ太陽(たいよう)。
そこへパスが出てくる。
強くて、速いパス。
ちゃんと止めなきゃだめだ。
そう思うと、よけいに身体に力が入る。
ばちっと音がして、右足に当たったボールは、大きくはずんだ。
いけない。
あわてて追いかけて、無理やりシュート。
ボールは、ゴールのわくをとらえることなく、大きく外れた。
「何やってんだ! しっかりコントロールしろ、へ
太陽のホットライン 第二回(第三章)
三 入団
「え?」
太陽(たいよう)は聞いた言葉が信じられなかった。
何か聞きまちがえたんだと思った。
でも、光(ひかる)はとまどう太陽に、もう一度告げた。
「おれはだめだったよ。不合格の知らせだった。太陽は受かったんだね。おめでとう」
「ええっ、そんな! おれが受かってるなら、光だって受かるはずだよ! だって、光の方がおれよりうまいじゃん!」
太陽は思わず大声を出した。なぐさめで言
太陽のホットライン 第一回(第一、二章)
一 セレクション
そろそろ冬も近づく日曜日。風はなく、ほどよい空気の冷たさに、頬がぴりっと引きしまる。空は快晴。いいサッカー日和だ。
周囲を木々に囲まれたグラウンドに、色とりどりのユニフォームの子供たちが集まっていた。総勢二百名近くいるだろうか。
今日は柏レイスターズアカデミーの、U‐12セレクションの日だった。
柏レイスターズは、千葉県柏市に本拠地のあるプロサッカークラブだ。Uはア