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忘れたくない風景は絵に書くと良い


子供が書いた絵かな?
いえいえ。大人が描いた絵ですよ。20年前に私が。

このなんとも味のある(はず)絵を描いたのには理由がある。

この風景を忘れたくなかったのだ。

さらに遡ること3年。

23年前。私はニュージーランドに居た。

ニュージーランドに2ヶ月近く滞在したのだが、その1ヶ月を共に過ごしたのがドイツ人のミリだった。

ミリはニュージーランドにデザインを勉強しにきていた。ホストマザーが姉妹だった関係で、私たちはルームメイトだった。

授業のない週末、私は市場に買い物に行ったり、ビーチに行ったり、ヨットハーバーのカフェに行ったりしたかった。

しかし、実際はミリに連れられて、トレッキング、山の方にあったグリーンストーンの工房、帰りはまさかのヒッチハイクとなんだかワイルドな週末を過ごしていた。

ニュージーランドの自然は本当に美しく、私はたくさん写真を撮った。

現像しては、ミリに絵葉書みたいでしょ。
と見せていた。

あれはグリーンストーンの工房の前だったと記憶している。

ミリが突然私に言った。

一緒に絵を描こう。

ええっ?!私が絵?!

中学生の時に、美術の試験で冬をテーマに絵を描くというお題が出た。私は、雪の中を歩く子狐を描いた。

力作だった。

しかし、よりによって、かなりの低評価を受けたため、納得のいかなかった私は、先生に理由を聞きに行った。

先生は答えた。

「犬は可愛いんだけど」

先生もういいよ。としょげて帰った経験を持つ私に、ミリは絵を描こうと言う。WHY?

ミリが書けかけというので、しぶしぶ並んで書いた。

そこは緑に囲まれて、小さな水車があり、キラキラとした光が差し込み、綺麗な水が流れていた。

ミリと並んで絵を描いていると、優しい風が吹きその心地よさが一層、周りの緑を美しく見せた。

ミリの絵はそれはそれは素晴らしかった。
私はミリの絵が大好きだった。それにくらべて、私の絵はある意味芸術?だった。

ミリは言った。

「下手でも良い。絵を描くことは大切なことだ。
写真では忘れてしまうけど、絵に書いたものは忘れない。」

現に私はその美しい景色と隣で絵を描くミリの姿を23年たった今でも覚えている。

その3年後。大学を卒業し、思い出深い町を離れる日が来た。

大学の4年間。多感な時期に思い悩むことはたくさんあった。悩んだ時、私はしばしば住んでいたマンションの非常階段に座り、外の景色を眺めていた。

最後に非常階段に座った時、この景色忘れたくないな。

そう思った。

ミリの言葉を思い出して、私はスケッチブックに冒頭のとんでもなく下手くそな絵を一生懸命書いた。

夕暮れを走る京阪電車。街の景色。

大好きな京都へ続く線路。

私の忘れたくない風景。

ミリのおかげで、大切な景色の覚え方を知った。

今でも時々絵を描いてみる。誰にも覗かれないようにこそこそ。

大好きなミリの絵に毎日見守られながら。

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