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Andrew Kovacs Studio: final review

東大の国際スタジオのファイナルレビューが2週間ほど前に終わったので、全体の感想含め書いていこうと思う。11週目、12週目はゲストレクチャーもなく、エスキスのみで、13週目に最終講評。書くのがめんどくさかった、あまり変更などなかったこともあり(プレゼンの相談をしていた)noteは投稿できなかった……。

まず驚いたのは、ゲストクリティークの方が9人もいらっしゃったこと。Andrewと平野さんを含めるとクリティークが11人。対して学生は5人。zoomに入った瞬間人が多くて驚いたが、非常に贅沢な講評だった。10分弱しゃべって、30分ほど講評していただいたが、なかなか(日本語でも)うまく答えるのが難しい質問が多く大変だった。ありがたいことにこの講評もzoomでの録画をもらっているので、今までの議論も含めて見直しながら振り返っていきたい。また、miroで学内スタジオが共有されたり、今年の秋(10月後半?)にAndrewスタジオとEnsambleスタジオで展示をするなどの機会があるので、それらのためにも考えを整理していきたい。

前回はこちら。

01. private art / public art

まず課題である"Very Big Art"について、銀座の豪華絢爛なファサードを取り上げる。銀座は日本でも有数の商業地域であり、ハイブランドの店舗が立ち並び、それらの建築のファサードはブランドイメージに沿ってデザイナーや建築家によってデザインされている。それらの美しいファサードはまさにVery Big Artと呼べるかもしれない。

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fig. 1 銀座のファサード

銀座においてもう一つ特徴的なことは、休日に開催される歩行者天国である。幅20m、長さおよそ1000mの車道が、車の侵入が禁止され、歩行者のための場所として開放される。これは西洋の広場的な公共空間に対して、日本の道的な公共空間の最たるものと言えるだろう。

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fig. 2 銀座の歩行者天国

しかし、東京の他の歩行者天国に目を向けると、渋谷や秋葉原、過去には原宿でも歩行者天国が開催されており、それらの歩行者天国では人々が集い、歌い、踊り、非常に多様な活動が行われている。銀座の歩行者天国も人々が買い物をしてそれを銀座の絢爛な建築物とともに写真を撮る姿などが見られるが、その活動の多様性や自由な振る舞いを受け入れる雰囲気は他の歩行者天国と異なるところがある。

その違和感は銀座のファサードがハイブランドの象徴、広告としてのものであることに起因する。銀座の歩行者空間は、パトロンが出資した美しい絵画のようなファサードに囲まれた美術館のように、それらのアートと切り離され、自由な振る舞いの可能性が失われているのではないか。この仮説の下、銀座のファサードを"private art"と定義し、改めて"public art"としてのファサードを挿入することで、銀座の歩行者空間、歩行者天国を公共空間として再び開放し、それと同時に既存のファサードをリフレームしていくことを試みる。

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fig. 3 private art in Ginza

銀座エリアは歩行者天国が開かれていない時、歩行者と車は分離されており、道路の広い面積は車に専有されている。そこで、敷地は現在歩行者天国が行われている中央通りと、それと交差する晴海通りの中央の一車線を敷地とする。長さはそれぞれおよそ1060m、510m、幅は約3m。

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fig. 4 歩行者天国が行われるエリア

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fig. 5 敷地

車道の一部を歩行者へ引き渡し、一部が歩行者へ解放されることで、人々の回遊性が平面的に向上し、歩行者、車の体験と、既存の銀座のファサードとの関係性が組み変わっていく。

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fig. 6,7 平面ドローイング

周辺の建物の高さはおおよそ30~50mのものが多く、そのファサードは巨大で人々の介入の余地がないと考え、自分の設計は高さを抑え、1階か2階程度の高さとした。

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fig. 7,8 断面ドローイング

02. design reference catalog

このファサードを設計する際に、デザインの参照のためのカタログを制作した。模型のためのオブジェクト、銀座のファサード、エントランス、窓、階段、オブジェ、そして想定されるアクティビティを収集した。これにより、銀座のコンテクストを踏襲しつつ、リサーチやスタディだけでは生み出せないアイデアや可能性を探求した。

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fig. 9,10,11 デザインのためのカタログ

03. making scenes to facades

これらの要素を敷地に挿入し、シーンを作っていった。このファサードが既存の建築群のファサードの一部を隠し、切り取り、銀座の街に対する新たな視点を生み出す装置となる。

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fig. 12,13 立面ドローイング

これらの要素をそのまま、あるいは抽象化して敷地へ挿入していく。銀座らしいオブジェクトと、銀座と関係ない異物が恣意的に挿入されることで、銀座のハイブランドの雰囲気と親しみやすさを両立させる。より具体的に活動を想定するため、10個の模型として制作した。

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fig. 14 1:50模型

人々はファサードに沿って歩き、コーヒーを楽しみ、休憩し、立ち止まり、小さな通路を見つけ、窓から反対側を眺め、階段を上り、物思いにふけり、お父さんを驚かせ、携帯を充電し、鏡の前でポーズを取り、ピクニックを楽しみ、ダンスをし、水辺で涼み、銀座の空間を楽しむ。

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fig. 15-18 模型から切り取られた40のシーン

また、階段やはしご、スロープなどを挿入し、平面的な回遊性に加えて垂直的な回遊性も持たせた。これらによっても銀座の既存のファサードを異なる視点から眺めることができる。上下の移動は銀座での回遊を、視覚にとどまらない身体的な体験とする。

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fig. 19 立面、断面ドローイング

04. scenes turn into sequence

そしてこれらのシーンをつなぎ合わせ、銀座に新しいシークエンスを生み出す。人々はこのパブリックアートを通じて、銀座に新しい歩行者ネットワークを見出すことができる。

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fig. 20,21 全体模型の一部

そしてそこには様々な物、活動が異なるスケール、スピード、異なる質、雰囲気とともに共存、並置される。

overall movie


05. appendix

こちらが発表時のスライド。Andrewが模型写真は一枚ずつフルスクリーンで見せた方がいいと言っていたため、スライドの枚数が多くなった。しかし膨大なシーンが蓄積していることが伝わったように思う。

そしてこちらは最終講評のプレゼンテーション。非常に拙い英語で恥ずかしい限りですが、原稿を丸読みしてこんな感じでも頑張っています。無駄に4Kまであります。自信のない方の勇気、参考になればと思います……。内容は上記の文章とスライドと同様です。

06. 感想

非常に様々な質問をもらい、うまく答えられなかったものも多かったが、銀座のファサードに対してのカウンターとしてのプロジェクトであることは伝わったように思う。また、絵の美しさがある程度評価された。個人的に様々な表現を伝えるメッセージやアイデアに合わせて使えたことも良かった。

質問の内容としては、どのようにアクセスするのか、車での体験はどうか、音環境はどうか、マテリアルはどうなっているのかといったよりアイレベルに立った際の体験に関する話と、既存の銀座のファサードに対する姿勢、批評性や、デザインのルール、周辺との関係性といった理論に関する話があったと思う。前者に関してはほぼ完全に検討不足、表現不足であると言える。特に車と音に関しては表現次第で検討の余地があった。後者に関しては今までにnoteでも書いていたことや、考えていたことをしゃべることができたが、特にデザインのルールが難しかった。周辺との関係性にも関連するが、まずアートをどうやってデザインするのか、どうやって作るのかが最後まで自分の中で決めきれなかったように感じる。
と書いてみたものの、そもそも全ての質問を(言語的にも)理解できていないので、展示の準備の際にまた考えたい。

毎週ゲストの方が来てのエスキスは今までになかったので非常に新鮮だった。課題自体が自由なことに加え、先生方の考え方も自由で、その上毎回来るゲストの得意分野も異なるので、バラエティに富んだ議論があった。話が拡散してしまうことも多く自分でまとめなければいけないところもあったが、プロジェクトを初めて見るゲストに毎回説明していたので、ストーリーを分かりやすく整理する練習もできていたかもしれない。例えばプレゼンの初めの、美術館を引き合いに出した問題提起と説明の仕方は、この形式の中で生まれた分かりやすさだったように思う。


この課題を通して、総じて考えていたのは、パブリックとプライベート、アートと建築についてである。都市におけるパブリックとプライベートは卒制のころに考えていた課題と接続しているように感じるし、アートと建築は建築家の職能や、さらには自分のキャリアを考える上でも大切な要素で、非常に考えさせられた。そして自分が学部4年の際に初めて見たAndrewのスタジオをまさか東大で取る機会があったのはとても嬉しい。平野さんに感謝したい。

最終講評で様々質問を受け、自分の英語力の乏しさや議論の厳しさを感じたところでもあるが、留学に向けていい練習にもなった。準備が大事。変わった模型ではあったものの、手を動かして考えることを久々にやったのも良かった。
毎回noteにまとめるのは大変なので次回からもう少し自分で楽な方法にしたい。文章化することは良い面も多かったのでバランス次第……。

引き続き色々と整理しますが、一旦このスタジオは終了です。未完成の記事はちゃんと書きたいと思います……。最後まで読んでいただいた方はありがとうございました。誰かの何かに参考になれば幸いです。

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