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ジャックは私です。 #2

 被害者のマンションから西へ数十メートル程進んだ所にあった。車と自転車の駐車場があって観葉植物などが周りに生えている。

別段汚いというわけではなく古いというわけでもない。だが綺麗と言うわけでもない。可もなく不可もないどこにでもあるというような医院だ。
間部と尾身は車から降りると医院の中に入った。二人は受付窓口を見つけて警察手帳を見せながら「すみません。警察の者なのですが、捜査の一環で院長にお話を伺いたいのですが。」

「え?あ・・・はい分かりました・・・少々お待ちを・・・」
女性は困惑した様子で奥へ引っ込んでいった。二人は窓口の側にあるソファに腰をかけて少し休んだ。

数十秒後に院長と思しき男が診察室から歩いてきた。四十代くらいの男で神経質そうな顔をしている。

「すみません。中央署の者ですが少し捜査にご協力いただきたいのですが。」

「えぇ。構いませんが今診察中の患者がいるのでこちらの応接室でもうしばらくお待ちいただけますか?」

尾身は間部の方をチラッと見て「もちろんです。」といった。尾身は応接室のソファに座って出されたお茶に口をつけた。

間部はお茶を机に置いた尾身に話しかけた。

「どう思う?匂うか?」尾身は下唇を突き出して「いいや、分からないな。第一ナイフを体に入れるには手術しなければいけないわけだろう?この医院にそんな立派な手術室があるとは思えないね。」

「立派じゃなくても手術室はあるかもしれんだろ。」

「立派と言うのはちゃんとしたと言う意味だ。」

その時応接室の扉が開いた。院長だ。「お待たせしました改めて院長の丸山です・・・で、お話というのは・・・・」最後の言葉が小さくなっていた。

見かけによらず気弱な男だなと間部は思った。先に開口したのは尾身だった。前へ乗り出して「一週間前の十一月八日にこちらを受診した夏山千恋さんが今朝死体で発見されました。」

シリアスな口調で院長の目を覗き込む。疑っているということを意識をしっかりと植え付ける為だった。

院長は視線を逸らして「あら・・・そんなことがあったんですか・・・・」と意外そうにいった。

事情聴取において相手を完全に疑い切ることは鉄則だ。

例え容疑性が0だとしても相手に一欠片の信頼も抱いてはならない。相手の百パーセントを否定し、疑い、その人間性を軽蔑の目で見つめる。そういった心情を踏まえた上で事情聴取を開始する。

「千恋さんの体内からはテグスとナイフが見つかっています。丁度そこのメスぐらいの大きさのものです。」

棚の上に置いてあるプレートに入っているメスを指差した。

院長は「つまり私共を疑っていると言うわけですか」と不機嫌そうにいった。

「疑っていないと言えば嘘になりますが。」

「なら全て調べてください。大体ここには手術をするような環境もない!メスがあるのは定期的に支給されるからです!

私たちは、決して殺人など犯していない!」力強くいう院長をよそに尾身は間部を見て「では遠慮なく。」といって警官を五人ほど呼び寄せた。

間部と尾身は院長と三人の看護師に話を聞いた。

「従業員はあなたと看護師三人。それだけですか?」

「いえ、小野部という最近雇った助手がいますが今は出張で出ています。」

「その・・・小野部氏のアリバイは証明できますか?」

「はい。それは可能です。夏山さんの診察を終えた後私に報告してきました。その後彼はずっと国立病院への紹介状を書いていました。」

「なるほど、それは立派なアリバイだ。」

院長は疑いが少し晴れたと思ったのか嬉しげに「えぇ。そうです。夏山さん達が帰った五時間後に出張に出かけました。

来週には帰ってると思いますが。大阪の病院に研修に行っているんです。」

「なるほど・・・・」尾身はこの医院の人間は殺人に関与していないと直感した。

全員にアリバイがある以上に監視カメラにも何も写っていなかった。間部は丸山医院を容疑者リストから外した。

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