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Air spice「スパイスカレー」という趣味

最近月に一回、スパイスカレーを作ることにしている。

こう言うと、なんだか大層な事をしているような雰囲気だが、なんのことはない、月1でスパイスとスパイスカレーのレシピが届くAir spiceというサービスに登録しているだけだ。

元々辛いものが好きではあったが、日本式のカレーではなくインド風のカレーを好きになるに至ったのはなぜだったか。欧風のカレーから始まる日本式の小麦粉を使ったいわゆるカレーももちろん嫌いではない。ただ、小学生の頃にコーヒーをブラックで飲み干したあの好奇心、大人への憧れが、同じ要領で私をスパイスカレーへと導いたのではないか。そんなことを考えるたび自らの虚を恥じ、また不純な動機を覆い隠すようにしてカレーを作る。始まりではなく、どこへ向かうのかが大切なのだと自らに言い聞かせ、玉ねぎを刻む。涙はただ刺激で流れる。

スパイスから作るカレーの醍醐味は玉ねぎを炒めることにあると思う。手順の始めにはおよそ15分~20分ほど玉ねぎを色づくまで炒めることになる。生の玉ねぎのつんとするフレッシュな匂いが色づくごとに甘やかな香りとなり、やがてカレーの土台となるコクを生み出す茶色の塊と化す。恐らくここが分水嶺で、この動作が詰まらないと感じる人にはスパイスカレーの魅力は半分ほども伝わらないのではないかと考えている。かけた時間がこれから出来上がるカレーの旨味に直結すると考えるだけで、焦げ付かないように注意を払って鍋をかき混ぜる苦労も報われるというものだ。すべての工程が整い蓋を落とし煮込み始めると、次第にスパイスの香りが部屋に満ちはじめ、出来上がるカレーへの期待値は膨れ上がる。

スパイスカレーの話をすると「辛いものが苦手」と遠慮がちに伝えてくる人に出会う。いつも思うのだが辛みを担っているスパイスは多くない。チリペッパー、胡椒、これで終わりだ。日本式カレーの「甘口、中辛、辛口」といった不思議な分類のせいで、スパイスカレー=辛さのあるものという前提が人々の中にあるように感じる。和カレーでいうところの甘口は、子どもの食べることが出来る蜂蜜やリンゴを多く含んだ、本当に実感として甘いカレーであることが多い。そのため、スパイスカレーにそれらの素材を通常使うことは想像できず、辛いカレーなのだと思い込んでしまうのだろう。日本語で「スパイシー」というのが「辛さ」と直結しているのも一因と感じる。チリも胡椒も使わず、美味しいスパイスカレーはできるので是非食べていただきたいものだ。ただ、この「辛いものが苦手」な人々の中には「そもそもスパイスが苦手」という広げた解釈を伴っていることがあると思う。そんな方にはこれは残念と思うが、パクチーは美味しいのだと伝えたところでダメな人にはダメとわかっているので、スパイスカレーの布教もあきらめることになる。

スパイスカレーの神髄は玉ねぎにあると感じる所以だが、これは他の料理をしていると感じる事なのだが、玉ねぎを抜かすとスパイスカレーはただスパイスで煮込んだ塩味の薄いスープのようなものでしかないのではないかと思うことがある。トマトでフレッシュさを演出したり旨味が追加されることもあるが、やはり根幹は玉ねぎである。玉ねぎの旨味に支えられたスパイスの香りが素材を染め上げ、煮込み時間が鍋を搔きまわし混ぜ合わせる。複雑なスパイスの組み合わせを後ろ目に、素材は至極シンプルであることがスパイスカレーの魅力でもある。

さて、多くを語ってしまったが、一番伝えたいのはタイトルでも述べた月に一度のカレー習慣を演出する「Air spice」の存在だ。Air spiceの素晴らしいところは、スパイスカレーの敷居を下げてくれるところにある。それぞれ細かで大量に種類があるスパイスを自力で集めるのは思ったよりも手間がかかる。購入したものの数回だけ使ったまま調味料棚を占有する数種のスパイスがあなたのキッチンにはないだろうか?ガラムマサラやチリペッパーであればレトルトのカレーに振りかけるだけでも用途はあるが、フェンネル、コリアンダー、クミンなどは、これらも肉料理などに使えはするが、明確な目的を持ってスパイスを使う機会にはそう恵まれない。

月に一度、約4皿分のシード状(種子の状態)のスパイスと、既にミックスされたスパイス、レシピとエッセイがまとめられた小包が届く。必要な素材を買い求め、Youtubeで作り方の目安を抑え、エッセイを読み雰囲気に浸ったならば、調理を始める。月約1000円で、素材と合わせると少し割高な一皿500円ほどのカレーが2時間ほどで出来上がる。これは生きるための料理というより、無駄で無用な「趣味」に近い。その趣味が旨い一皿を作り、誰かの頬を緩めてくれる。

思わず語りたくなり記事を書いてみたが、月に一度の趣味がスパイスへの理解を促し、喜びや発見を与えてくれている。その始まりとしてAir spiceは最適で最良であったと、今改めて感じている。


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