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夜物語15 あいこ編

はじめに

 当小説には性的な表現があります。
 未成年の方や苦手な方はご覧にならないように気を付けてください。
 御理解頂けた方は下記より本編開始となります。

夜物語15

 オレの名前は萩原、あるIT企業の上役をしている人間だ。肩書きだけは立派だろう、だがな、中身はクズの極みってのがオレだ。オレにとっては若い時から女を抱くことが全てだった。最初は泡風呂で玄人の施しを受けていたが数時間で数万円の搾取に遭っているって気付いた。そこからは自分が稼いで自分で調達するスタイルに変えた。なに、変えた理由は単純なことだ。オレが主導権を持ちたいからに他ならない。
 家族ってのはオレの辞書には合わねぇ。抱きたい女を抱きたいように抱くのがオレ流だからな。金が欲しい女がオレの元に現れ、オレは金を触媒にその女を抱く。お互いに利害の一致をしてるだろ?win-winの関係ってやつだ。金の切れ目が縁の切れ目とはよく言ったもので金が満たされたらオレのところから女は消えていく。そして、新しい女がオレの元へやってくる。その繰り返しだ。
 そんなオレが若かりし頃世話になった泡風呂の嬢が「あいこ」っていう名前の女だ、源氏名だがな。古い名前なんて言うんじゃねぇぞ、20年以上前の話だからな。その頃はまだ平成も前半から中期でよ。やっと携帯電話やインターネットが一般化しつつある頃だ。
 「あいこ」とはオレは何十回も肌を重ねた、泡に落ちてきた理由はしらねぇが、若かったし良い身体をしていたんだ。今のように全身脱毛とかが流行ってなかった頃からしっかりと手入れはしてたんだぜ。今でも逆三角に整えられた恥丘とマンコの構造は頭に鮮明に浮かぶってなもんだ。
 だが、この女がオレの今の生活に目覚めさせた張本人とも言える。当時は恨んでた部分もあったが、オレが世の中を知らなすぎたんだ。
 「はーくん。」
 「どうしたの?あいこさん。良かったよ!」
 「いつも来てくれるはーくんにだから言える相談があるんだけど・・・。」
 「相談?」
 「そうなの、相談なの。はーくん、これだけここに来れるってことはお金も持ってるわよね。」
 「あぁ、稼いではいるよ、多くはないけど。」
 「そんなことないわ、私との130分に50000円も払ってくれるじゃない。トータルで80000よ。」
 「ま、まぁ。店にも払うしな。」
 「私ね、ちょっと今生活が厳しくて・・・10万貸してくれない?」
 「そりゃまずいっしょ。」
 「お願い!だったら!だったら、アフターでホテル行っても良いから!」
 「店外はオーナーに見つかったらまずいでしょ。」
 「だったらここでも良いから。」
 「いや、ここモニターあるでしょう。あそことあそこに。」
 「し・・・知ってたの?」
 「もちろん。」
 「だったら余計に誤魔化せないわね・・・分かった、私が休みの日に抱いて良いから。」
 「10万でしょ、何かオプションないと首振れないよ。」
 「んんー、分かった。ゴム無し!ゴムしなくて良いから。」
 「生外出し?」
 「そう。」
 「だったら違う店に行くよ。」
 「お願い、はーくんくらい通ってくれる人にしか言えなくって。」
 「うーん、ちょっと考えさせて。」
 今思えば、変な会話だろう。あいこの裏の理由を汲み取れてないんだ、オレが。今だったら分かるんだ。表で出せない金にしないといけないっていうな。お店に知られたら困る金っていうことは後ろめたい営業だ。別の店なのかホストなのか、はたまたプライベートでの男なのか、クスリに関連することなのか。詳細は分からないまでも『出どころ不詳の資金源』が必要だったんだろうってな。変っていうのは別にヤらせてやるってところは店に来りゃ自由恋愛の末に出来るわけだし、アフターっていうのはこういう店では絶対的な御法度、オーナー次第では客も自分も店に出入り出来なくされちまっても仕方ねぇんだ。あまりにも金額とリスクと行動が見合わねぇ。休みの日に関しては別に個人同士の付き合いだから自由だけどな。今思えば違和感を持つべき部分が沢山ある。こういったところをくぐり抜けて今のオレがいるわけなんだが、当時のオレはそこまで見抜けなかった上に金玉に脳みそが入ってるようなもんだったからな。
 当時のオレはこれを聞いて悶々と考えたが、結局10万円でお気に入りのソープ嬢と好き勝手出来るっていう魅力に勝てなかった。というわけでな、オレは10万円を払ってあいこと非公式な場所での逢瀬を果たしたんだ。
 「あぁん♡」
 「あぁ、あいこさん気持ちいいよ。」
 「私もよ、とっても大きいし♡」
 「ありがとう。」
 「いいわ、はーくん。最高よ♡。」
 「あいこさんも最高だよ。」
 「うふふ♡ありがと♡ねぇ、はーくん。出していいわよ。中に。」
 「いつもヤってるのになんか背徳感がありますね。」
 「いいのよ、今日は。遠慮しないで♡」
 オレはあいこの中に精を放った。人生初っていうわけじゃねぇが、この時の背徳感というか独占した感じというかやっちゃいけねぇことを果たしたって感覚は忘れ難いものだ。
 そして10万円支払ったんだ。今よりも日本は不況だったが、ネットバブルのおかげでオレはそこまでの出費じゃなかったんだが、大金には変わりない。当時は今よりも年収も4分の1とか3分の1だったからな。で、金を払ってからはしばらくあいことも店とも音沙汰なく過ごしていたんだ。
 ある日、オレは街を歩いていると見慣れた骨格の女を見つけた。顔じゃねぇぞ、骨格だ。顔も重要なファクターだが下半身の方が見慣れてるからな。間違いなくあいこのものだった。だが、隣にいるのはいかにもな男だった。おそらくは表にいるカタギの存在じゃねぇ、裏社会的な何かって存在だな。オレはそっちを否定する気はさらさらねぇ。オレだってアンダーグラウンドな人間だからな。だからといって自分が手放した金をそういうふうに使われてるのはいい気持ちはしない。
 この時にオレは気づいたんだ、オレが使った金と使った時間というのは他の男や他のものに流れている。つまりオレは搾取されるだけで存在としてはモブAと同じなんだって。耳触りのいい言葉をあいこから聞いていても、それは本心ではなくて単純に搾取する相手を残しているだけ。だったらオレが搾取する側にならないといけないと。
 いや、搾取する側っていうわけじゃないけれど、金を触媒にしてオレが主導権を持つ側にならないといけない。知らない男にオレの金と時間が流れていくなんて許し難い。美人の女だったら、股の緩い女ならまだしも。男だぞ。男。そんなところに金が流れていくなんてオレには到底耐えられない。
 「あいこさん、そういうことだったんだね。」
 「あっ、はーくん・・・。」
 「はーくんって誰だよ。」
 「あいこさんのソープの太客だよ。」
 「あいこってなんだよ、お前人違いしてるんじゃねーか?」
 「だったら、オレにはーくんなんて声かけねぇだろ。」
 「あ、いや・・・。」
 「なんだよ、お前らやっぱ知り合いなのかよ?」
 「だから、オレはこの女と何十回何百回って身体の関係があるんだよ、ソープだけどな。」
 「ぎゃははは、お前オレの金、ソープで身体売って作ってんのか!?マジできめぇ女だな!」
 「ちょっと、どういうこと!?」
 「お前がオレの女なわけねぇだろ、お前とは遊びだ。しかも身体売ってんのかよ、汚ねぇ、便所じゃねぇか!お前の身体そんなに貪らなくて良かったわー」
 「え、嘘だよね、私のこと愛してくれてるんだよね?」
 「んなわけねぇじゃん!そんなわけねぇだろ!」
 「えっ・・・。」
 「マジできめぇな、お前、勝手に勘違いしてソープで身体売って勝手に惚れて勝手に貢いでんのに被害者ヅラすんなよ、マジで痛々しいなお前ぎゃっはっはっは!」
 「オレの金も時間もアンタに渡ってると思うと腹が立つよ。」
 「そうなるなぁ、だが、オレはアンタに悪いことは何一つしてねぇってことは間違いねぇよな。」
 「あぁ、腹が立つが何一つ問題はない、感情なんてもんは個人の思いでしかないからな。」
 「はっはぁ、物分かりがいいねぇアンタ、身体売ってる女とは大違いだ!」
 「はーくん、わたし騙されてたの!」
 「オレも騙してたようなもんだよ、あいこさん。オレの金をこの人に流してたわけだもんね。」
 「そ・・・それはそうだけど・・・。」
 「別に法的に悪いことしてたわけじゃないし、個人の自由だからいいんだ。だけど、あなたをもう指名することもないし会うこともないと思うよ。」
 「そんな・・・はーくん、わたしが悪かったの!ごめんなさい、でもこれからはやり直せると思うから!」
 「あいこさんとはあくまでもソープの嬢と客って関係。それ以上でも以下でもない。こういう形を見せられちゃうと客としては距離を置かざるを得ないよね。やり直すもなにも元からそんな関係じゃない。」
 「わけぇのに筋が通ってるなー、アンタ。こっちの世界でもいい男になれそうだ。」
 「オレはそこまでそっちに入るつもりはないが、1番筋が通ってないのはあいこさんだからね。」
 「間違いねぇ。何もオレはいってねぇのに勝手に惚れてんだもんな。」
 「そ、そんな、二人ともひどいよ!」
 「うるせぇなぁ、売女は理性すらも売り捌いちまってるからどうしようもねぇな。」
 「あいこさんにはガッカリしたよ、あいこさんのために使ったお金を他人に使われてるのがバレちゃ、搾取されてる気持ちだよ。」
 「・・・。なによ。」
 「ん?」
 「それの何が悪いっていうのよ、アンタだってヤれたら満足でしょ!チンコに脳みそあるような生き物だもんね!私と出来ればそれで満足でしょ!それに、わたしが会いに来てとか頼んでない。勝手に金を払って勝手にヤって帰るだけの男に搾取なんか言われたくないわね!私と寝る以外に金の使い道のないダサ男なんて!」
 「なっ、何を!」
 「五月蝿い五月蝿い!私は風俗嬢、アンタはそんな私に会いに来てる脳足りん!はーくんとか言われて舞い上がってた?アンタはただの客の一人、金を運んでくるネギ背負った鴨と一緒なのよ!」
 「おーおーえらい言われようだな、にいちゃん。」
 「目が覚めたよ、お陰で。」
 「アンタも私のお金ばっかりせびって生きてるヒモ以下の男のくせに馬鹿にしてんじゃないわよ!」
 「オレが、お前の紐だって?にいちゃん、このバカとは離れた方がいいわ、お前の金でオレが暮らしてるって?寝言は寝て言えよ、まったく。」
 「違うとでもいうの!?」
 「あぁ、全然違うね!アンタから貰ってるのは交友費みたいなもんだ、お前の金なんぞ、オレにとっては子どもの小遣いレベルだ。オレは数千万のシノギがあるからな、上納しても大手を振って生きられるってなもんだ。」
 「え、なによそれ。」
 「知らなかったんだろう?にいちゃん、男ってのは搾取する側にならなきゃいけねぇ。主導権を女に握られるような生き方じゃそのうち破滅するぞ。稼ぐようになってこのバカ女みたいな連中に一泡吹かしてやればいい。」
 「今回の件で学びましたよ。」
 「オレはおさらばするぜ、クソ女今日これっきりだ。」
 「オレも。」
 「何よ、なんでよ!何でこうなるのよ!」
 オレが愛子と会ったのはこの時が最後だ、これ以降は近藤さんの店に行っても見かけねぇし、消息だってまったく分かったもんじゃねぇ。近藤さんには細かい話をしたらため息をついて分かったって一言だけだったな。
 何はともあれだ、オレはこの件で学んだ。少なくとも金を払って抱かせてもらう側の人間になっちゃダメなんだってな。今ではオレの金にせびってきた女を抱く側の人間になったのを誇らしく思うよ。ここにくるまでは話に出来ないような紆余曲折や艱難辛苦を乗り越えてきたんだ。金が全てだとはまったく思っちゃいないんだが、この世界では金というものが全てにおいて人を繋ぐんだ。金だけ持ってても仕方ない、金をどう使うかだ。それをオレは金というものを受動的に使うんだ。能動的に使って搾取されちゃいけねぇ。
 金を受動的に使うってなかなかねぇだろ?そうなんだよ、求められてから提供する受動的な金。それがオレにとって最大限に金の価値を高めるんだ。能動的にブランド物や旅行に使って人生が満たされる人間はそれで生活すりゃいいさ。オレはそうじゃないからな。だから、この一件で学んだんだよ。積極的に動いて金を使えば心身共に満たされるかと思ったら大間違いだってな。
 だから、オレは今日も金をせびってくる女を待っている。オレの生き方はこれしかねぇんだ。

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