壁画、人権、革命、メヒコ

行ってみよう!やってみよう!

ヒューストンでスペイン語を勉強して1~2学期が過ぎた頃、メキシコでの語学研修プログラムがあることを知りました。場所は、グアダラハラというメキシコの主要都市でした。当時は好奇心の塊で、とりあえず、行って見てみようという考えでした。20代前半は、大前研一さんの「やりたいことは全部やれ」とか、ロバート・ハリスさんの「エグザイルス」とか、安藤忠雄さんや石川直樹さんの書籍を読んでかなり影響を受けていた時期でした。

このスペイン語の語学留学(私の場合はアメリカ留学中のメキシコへの語学留学になったのですが)には、他の州からの参加学生も多数いました。数名がグループになって、現地のホストファミリーのところでホームステイをさせてもらうという形で、そこから語学学校に通い午前・午後と授業を受け、時には、現地の文化や芸術を理解する体験授業に参加することもできました。私の場合は、現地の陶芸の授業(テラコッタだったと思います)をとって、作品を制作したのを覚えています。
授業は基本的にはスペイン語のみ。文法や会話をネイティヴの方から習うことができたので、結構しっかり上達できたのを思い出します。授業後は、街の中をうろうろと散策し、名所や宮跡などをめぐる毎日。美術館や現地のイベントなども調べて参加し、現地の友達もでき、時より、一緒に遊びに行ったり、アメリカからの留学生とともにアステカ文明の遺跡などをめぐる旅に同行させてもらったり、ディア・デ・ロス・ムエルトス(日本語で死者の日)という日本のお盆のような行事のことを知るなど、学びの多い経験となりました。

ホセ・クレメンテ・オロスコ

そんな語学留学の始め頃、街の中心地にある賑やかな広場に行った時に、また、強烈なかたちの屋外彫刻(実際には椅子やベンチだったのですが)に出会いました。人の顔や形が変形したような生々しい形状のものでした。そこから少しずつ血生臭いメキシコの政治や歴史を少しずつ感じ取るようになりました。と同時に、名古屋市出身の私の10代頃の記憶の中には、名古屋市立美術館のメキシコ・ルネサンスの絵画や壁画の記憶がありましたので、なんとなくその記憶と現実が繋がる感じがありました。そして、グアダラハラでは、1920〜30年代のメキシコ革命時期に花開いたメキシコ・ルネサンスの代表的なアーティストの一人ホセ・クレメンテ・オロスコの描いた壁画や天井画を直に見ることができました。赤や灰色で描かれ革命の血生臭さが伝わってくるような巨大な壁画や天井がでした。その時代のリーダーや市民の苦闘がとてもよく伝わってくるものでした。壁画と人類の歴史を見返してみても、フランスのラスコーの洞窟壁画や日本の高松塚古墳、アメリカの古代先住民のアナサジ・リッジ壁画、エジプト、ギリシア、ルネサンスなどの壁画など、政治・宗教・社会などと繋がりの強い芸術手法だと思います。

Asaro - Asamblea de Artistas Revolucionarios de Oaxaca -

その後、メキシコでのスペイン語留学を終え、ヒューストンに戻って数年経ち、Station Museum Of Contemporary Artsで働かせていただいていた時に、民主主義をテーマとして取り扱う展覧会が企画され、その中にメキシコのアーティスト・コレクティヴであるASAROも取り上げられました。2006年にメキシコのオアハカという地域で、政府による低賃金や圧政に対して非暴力で対抗する教員組合と政府の間で大きな紛争に発展し、犠牲者が出て、民主主義が問われる出来事が起こりました。この頃に組成されたのが、ASAROなのですが、彼らの民主主義を伝える手法がやはりメキシコ革命で花開いた壁画やグラフィティー、版画の手法でした。情報伝搬の手法として、揺るぎない手法だと思います。それが人権を守る手法として現代にも受け継がれていることは、とても感慨深いものだと思います。その企画に関わっている時に、ASAROのメンバーや美術館館長のジムさんや同僚のスタッフと話していた時に、じつはそのASAROのメンバーの中には、版画の技術を日本人から学んだという話も聞きました。

Shinzaburo Takeda

まさか、そんなことがあるのかと思い、インターネットで検索してみると、Shinzaburo Takedaという方が出てきました。そして、なんと愛知県瀬戸市出身ということで、自分の出身地名古屋市の隣ということもあり、とても親近感を覚えたとともに、国を超えてアートが民主主義や人権擁護のために活用されているということを目の当たりにして、とても興奮したことを覚えています。武田さんにいつか会ってみたいと思いつつ、これまでに何冊か絵本を手掛けられていることが分かりましたので、まずは、その絵本を手に取ってみたいと思います!カッコ良過ぎます!


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