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消防士時代の話〜レスキュー隊員編

こんにちは。パーソナルトレーナー助政桂多です。

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今日は自己紹介コーナーの続きを書いていきたいと思います。

前回は消防士時代の話〜はしご隊員編のお話をさせて頂きました。まだの方はぜひご覧頂けると幸いです。

話の本題に入る前に、少しおさらいしますと、私は東京消防庁に入庁後に、大田区にあります矢口消防署に配属されました。

在籍中の火消し2年はしご隊員1年半合計3年半をかけて、登竜門と言われている、【特別救助技術研修選抜試験】に3回挑んで3回目にしてようやく合格することができました。※選抜試験は年1回のみ

消防士になった時、このレスキュー隊員の存在を知り絶対に合格して、オレンジの隊服救助ワッペンを付けて着るんだと、心に誓っていたので、本当に嬉しかったです。

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今回はそのレスキュー試験の内容救助研修レスキュー隊員になったその後のお話をしていこうと思っております。最後までお付き合い頂けると嬉しいです

1,特別救助技術研修選抜試験とは

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そもそも『レスキュー隊』とは!?詳しく話せる人がどれほどいるでしょうか。レスキュー隊の正式名称は「特別救助隊」といいます。

通常火消しと言われる消防職員は、青色の執務服を着ています。しかし、災害現場で先頭に立ち救助活動にあたるレスキュー隊員は、「オレンジ色」救助服に身を包み、『要救助者』がいる場合は、真っ先に検索・救助活動を行います。

消防士の中でも選りすぐりの体力・技術・知識を持った隊員で構成されており、レスキュー隊最後の砦とも言われています。

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どうすれば特別救助隊(レスキュー隊)になれるのか、それは、屈強な消防士の中から特別救助技術研修選抜試験合格(倍率7倍以上)25日間の地獄の研修と言われている救助研修をクリアして、晴れて資格取得後、ようやくレスキュー隊員として活動することができます。

その試験の1次試験合格基準は以下のとおりです

筆記試験で8割以上の得点
【体力試験での最低合格ライン】
腕立て伏せ60回以上(2秒以内に1回)
腹筋50回以上(1分間)
懸垂15回以上(3秒以内に1回)
垂直跳び60cm以上
反復横跳び40回以上(20秒間)
1,500m走5分10秒以内
私が実際に合格した時の記録
腕立て伏せ110回(2秒以内に1回)
腹筋74回(60秒間)
懸垂30回(3秒以内に1回)
垂直跳び68cm
反復横跳び70回(20秒間)
1,500m走4分32秒

2次試験では「面接」「身体検査」があり、身体検査では視力もチェックされ矯正視力で0.7に満たないと不合格になってしまいます。

1次、2次ともに合格すると、毎年10月頃におこなわれる「特別救助技術研修」に参加できます。

2,第47期特別救助技術研修

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3回目のチャレンジでようやく合格した私は、いよいよ研修に、期間にして25日間におよぶ「特別救助技術研修」を受講します。

場所は私が消防士になった理由の記事でも触れました、消防学校でおこなわれ、この研修に合格すると、ようやく「特別救助隊員(レスキュー隊)」の資格がもらえます。

研修の内容ですが、訓練や体力錬成のハードさは、生半可なものではありませんでした。しかしそれには理由があります。

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レスキュー隊は通常、5〜6人のチームで動きます。技術や体力の劣る隊員が混ざってしまうと、全体の足を引っ張ることになります。1分1秒を無駄にできない現場が多く、救出まで時間を要してしまうのです。

さらには、常に危険と隣り合わせの現場が多く、例えば燃えたぎる火災現場であったり、高所での活動、ガス漏れ一酸化炭素が充満している現場、高速道路での交通事故現場などです。

一歩間違えば「死」と隣合わせの現場が多く、知識や技術だけでなく、チームワークや個々の忍耐力・精神力・体力なども重要な要素であるため、救助研修も生半可ではないのです。

そのため研修では、研修生である私達を、愛を持って肉体的にも精神的にも極限まで追い込みます。耐えられない研修生は、脱落を余儀なくされる厳しい世界です。

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具体的な研修内容は座学とメインの実科訓練で構成されています。

座学では、火災救助・ガス災害・都市型災害・NBC災害といった災害を専門の講師に学び、その他、自分の命仲間の命を守るため、安全管理危険予知といった分野も学びます。

実科訓練では、救助技術の基本(ロープワークや救助操法)を体で覚えていきます。研修で助教を務めるのは、現役のレスキュー隊員の人たちで、現場での卓越した技術・知識をもった経験者に厳しく指導されます。

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実科訓練の前後には、地獄の体力錬成が待ち構えています。具体的には最後の一人になるまで、ひたすら腕立て伏せや、腹筋スクワットをしたり、体力向上体操という一見楽そうに聞こえる、これまたハードな筋トレがありました。

また、研修生同士でおんぶしたまま階段の上り下りや、歩けなくなるまで訓練場をひたすら歩いたりと、とにかく自分の限界を超えるようなトレーニングでした。今思い出しても吐きそうですw

そして約1ヶ月におよぶ厳しい訓練を終え、全カリキュラムを修了した人のみに「特別救助隊員(レスキュー隊)」の資格が与えらます。

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私の経験した「47期の研修」の1年後の「48期の研修」風景を密着したテレビ番組がYou Tubeにアップされているので、貼り付けておきます。お時間ある方はぜひ視聴してみて下さい。

どれほど過酷できつい研修か、また、現役の救助隊員の方の凄さも伝わると思います。第3回に渡り映像があります。それぞれ約7分前後ですので、さらっと見れると思います。

【地獄の25日間 東京消防庁・特別救助技術研修に密着(1)】

研修初日助教(現役のレスキュー隊員)の威圧感のある挨拶や、訓練風景が放送されています。
本当にこれを見ると当時のことを思い出しますね。

【地獄の25日間 東京消防庁・特別救助技術研修に密着(2)】

ロープワークの訓練や、進入・脱出要領救助操法や救出訓練総合訓練の様子が写っています。助教や研修生のインタビューなどもあって、ヒューマンドラマチックな感じですね。

これらの訓練は私の得意分野でしたし、きつさはありましたが楽しんで訓練していたのを覚えています。引退して約8年経っていますが、未だにロープの結索などは覚えていますねww

【地獄の25日間 東京消防庁・特別救助技術研修に密着(3)】

最後の回は研修最終日の様子が放送されています。助教も交えて全員でスクワットをやったり、隊列を組んで走ったりもしました。

受験総数、約350人以上体力自慢の消防士から、特別救助技術研修選抜試験の筆記試験と体力試験を見事に通過した選ばれし50名が、【25日間に渡る地獄の研修】といわれるこれらのきつい訓練や座学をクリアし、ようやく手に入れる「救助ワッペン」と資格。

しかしこれはゴールではなく、救助人生の新たなスタートにすぎません。
ここからが本当に大変な日々が待っています。資格は取得しても救助隊員に任命されるかはまだ分かりません。それまで常に知識と技術磨き続けて行かなければなりません。

3,江戸川特別救助隊員時代

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矢口消防署で救助資格を取得した私は、翌年の人事異動でレスキュー隊が配置されている、江戸川消防署に異動になりました。

ここで約1年はしご隊員として、レスキュー隊の予備隊員も努めながら、正規に配置されるのを待っておりました。

そしていよいよレスキュー隊員として任命を受け、私の救助人生がスタートしたのです。ほんとに嬉しかったことを覚えています。

しかし待っていた現実は厳しいものでした。研修や予備隊員期間に訓練した、ロープワーク救助操法が、緊張と不安のためか、ぜんぜん上手くいかないのです。

そのたびに叱責され、落ち込む日々が続きました。悔しくて、夜な夜な睡眠時間を削り訓練に明け暮れていましたね。

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しかし、そんな自分にも転機が訪れました。きっかけは、レスキュー隊員として初めて出場した、高速道路での交通事故現場に出場したことです。

出場指令が流れ、どうやらトラックが中央分離帯に衝突して、運転手の男性がハンドルとダッシュボードに挟まれ意識が朦朧としている現場でした。

出場途上に救助隊長から各隊員に命令が下されます。私は救助資機材準備と設定の任命を受け、現場に到着しました。

私達の隊が先着したので、まずは状況を確認後、すぐに後続の車両がさらに衝突してこないように、安全管理に配意しながら、三角表示板発煙筒と焚いて、活動にあたります。

続いて救助隊長と1番員(副隊長)が、すでにトラック内の状況を確認しており、指令と同内容の状況でありました。私は下命を受けていた救助資機材の大型油圧式救助器具の設定と準備にあたりました。

要救助者の男性の容態が刻一刻と悪くなる中で、まさに1分1秒を争う状況でしたし、無我夢中で活動していたことを覚えています。

長くなってしまうので、このあとの細かな活動は割愛させていただきますが、無事に男性を救出して、救急隊に引き継ぎ活動を終了しました。

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写真はイメージです。ちなみに救出した男性は一命を取り留めました。

この本番にあたる救助活動で、訓練通りに資機材の準備救出要領搬送と一連の活動がスムーズにできたことが、自信に繋がり、その後の訓練でもほとんどミスすることなくできるようになりました。

一人前の救助隊員として認められた瞬間です。

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江戸川消防署では2年半レスキュー隊員として活動させて頂き、多くの災害対応に従事しました。

その後、高い救助技術と知識が認められ、異動が決まり、第六消防方面本部消防救助機動部隊(通称ハイパーレスキュー)へと転身しました。

そのお話は別の記事にて書きたいと思いますので、そちらもお楽しみにしていて下さい。

4,深川特別救助隊員時代〜救助大会編

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第六消防方面本部消防救助機動部隊(通称ハイパーレスキュー)から昇任試験に合格し、消防士長として深川消防署特別救助隊に配属されました。

この深川消防署には約2年間お世話になりました。そのうち1年半をレスキュー隊員として、半年を毎日勤務員として務めさせて頂きました。

この章では、救助大会の話を中心にお話いたします。詳しい概要は消防士時代の話〜はしご隊員編に書いていますので、よろしければ見ていただければと思います。

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救助大会とは消防士の日頃の訓練成果知識・技術・強靭な精神力体力を披露し競い合う、歴史ある大会です。

大会の種目は陸上の部水上の部に別れ、さらに個人種目団体種目があります。私の所属する特別救助隊はおもに陸上の部団体種目である、「ロープブリッジ救出」「引揚救助」「障害突破」のいずれかに出場します。

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それぞれの説明は以下の通りです。

「ロープブリッジ救出」
4人1組(要救助者を含む)で、2人が水平に展張された渡過ロープに(20m)により対面する塔上へ進入し、要救助者を救出ロープに吊り下げてけん引して救出した後、脱出します。建物や河川の中洲などに取り残された要救助者を隣の建物や対岸などから進入して救出することを想定した訓練です。
「引揚救助」
5人1組(要救助者を含む)で、2人が空気呼吸器を着装して塔上から塔下へ降下し、検索後、要救助者を塔上へ救出した後、ロープ登はんにより脱出します。地下やマンホール等での災害を想定した訓練で、有毒ガスの発生や酸欠等の状況が想定されるので、空気呼吸器を着装します。

私が出場した種目がこちら。ちなみに江戸川救助隊の時も、この「障害突破」に出場しておりました。

「障害突破」5人1組(補助者を含む)で、4人が緊密な連携の下、一致協力して「乗り越える」「登る」「降りる」「濃煙を通過する」の基本動作により5つの障害を突破します。災害現場の様々な障害を想定し、いかなる状況下においても、体力的・精神的屈することなく対応することを目指した訓練です。

この章の最後の方で、実際に私が出場した「障害突破」の動画シーンがありますので、ぜひご覧ください。

ここからは写真を交えて展開していきましょう。

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まだリラックスして程よい緊張感ですね。資機材の準備などをしています。

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応援に来てくれている方への挨拶と隊員へのメッセージを話し、いよいよ本番へ向かうシーンです。ちなみに私がこのチームの指揮者で1番員というポジションです。

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煙道(えんどう)の前に空気呼吸器をセッティングしています。この設定が非常に大切で、ここをミスると試合終了ですw
ここは第5つ目の障害で、着いてから呼吸器と命綱をつけてわずか10秒で進入します。

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整列をして出場隊が紹介されているところです。我ながらきれいな姿勢と良い返事してますね。
さぁ全集中して思いっきり勝負です。

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ここからスタート位置まで隊列を組んで移動します。
「そのまま右向けー右。駆け足、進め。先頭左。」と言ってます。

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スタート位置に着きました。もう後戻りできません。
「左向けー止まれ。別れ。」と言ってます。

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途中の障害でロープを体に巻き付けて脱出するところがあります。
首にもロープが絡むので、襟を立てて、首を保護しています。
カッコつけでやっているわけではございませんw

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これがスタートの構えです。前の隊員(私は左前)は、低い姿勢から一気にスピードを上げるため状態を倒し、後ろの隊員はさらに加速をつけるため、スタート時に腰を押し出します。

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躍動感があってこの写真好きです。スタート直後の1枚です。

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こんな感じで腰を押し出して加速させます。ここのスタートの良し悪しで、次の高壁を気持ちよく上がって行けるかが決まります。

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これが高さ3mある第1障害の障壁です。まず前方の隊員が壁を背にして待ち構え、後ろから来た隊員の補助をします。お腹あたりをめがけて思いっきり踏み込んでくるので、相当の訓練と信頼関係がないとできません。

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こんな感じですね。しっかりを腹筋に力をいれ、腰と両手でタイミングよく上げないと、壁を超えていけません。

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上手くいきました。このあと私と後輩の隊員で、お互いを補助しあって、この壁を攻略していきます。よし頑張れっ!

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先に上がった隊員が下に手を差し伸べて、私を引き揚げてくれています。感謝ですね。

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向こう側に降りる時ははしごなど架かってないので、普通にぶら下がって降ります。先に行った隊員に置いてかれないように急ぎましょう。

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第2障害の7mのはしごを素早く駆け上がり、先に到着していた隊員が対岸に渡したロープを一緒に※展張(てんちょう)して、セーラー渡渦で渡ります。
※引っぱって伸ばすこと

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第3障害は1番員の私から、思いっきり地面の角を蹴って、空中にダイブするように飛び込みます。慣れたら簡単ですが、初めて挑戦した時は腰が引けて、ビビりながら飛んで、普通に落ちましたw(命綱あるので大丈夫です)

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セーラー渡過という技法で名前の由来は、船乗りの水兵が用いた渡り方に由来したものだそうです。ロープに乗るバランス力と腕力が必要とされる渡り方です。

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渡りきりましたね。このあとロープ懸垂線を使い首がらみ懸垂法で、ロープのみを使い7mの高さから降りていきます。

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第4障害の7m降下です。首の後ろにロープが回っているのが分かりますかね。これをやるために襟をしっかり立てていたんです。はいw このまま一気に高速で降りていきます。

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最後の5つ目の障害、煙道(えんどう)です。コの字型で全長26.2mあります。ここを雑巾がけの要領で進んでいきます。

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すでに準備していた空気呼吸器と面体、命綱を付けます。
素早く進入していくため、到着してから時間にしてわずか10秒で準備完了しちゃいます。

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手を上げて着装完了の合図をしているのが私です。
あとは煙道内に進入して脱出するのみです。ラストスパート!

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煙道から脱出後は4人で協力して、命綱で使った緑色のロープを、このように輪っかにまとめ収納します。

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障害突破でありながら、限界突破もしていますね。
最後の脱出でゴールまでダッシュです。1番最後にゴールした隊員のタイムが記録となるので、みんな必死にビリにならないように走ってます。

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5つの障害を見事突破し終了です。この時のタイムが1分42秒程でした。予選通過タイムが、1分40秒を切らないと厳しい世界ですので、残念ながら負けてしまいました。

5,救助大会【障害突破】解説付き動画

上記の写真で説明させて頂いた、救助大会の映像がありますので、こちらもぜひ御覧ください。もっとイメージできると思います。解説付きです。

6,まとめ

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いかがでしたでしょうか。特別救助隊とはどんな人の集まりで、どんな仕事をしているのか、ご理解頂けたのではないでしょうか。

また、救助大会の雰囲気も少しは伝わりましたでしょうか。昨年は未知のウイルスの影響大会が中止になったみたいですが、今年は開催されるといいですね。

早くこの異常な世界が収束して、また普段どおりの生活に戻れるように祈っております。

最後に消防士の皆様、いつも災害や事故から私達を守って頂きありがとうございます。これからも体に気をつけて、ご仁愛頂きますよう、願っています。ますますのご健勝とご多幸をお祈りし、ご挨拶とさせて頂きます。

特別救助隊(レスキュー隊)から消防救助機動部隊(ハイパーレスキュー隊)になった時のお話は、また次回以降の自己紹介コーナーで書いていきますので、よろしければまた遊びに来て頂けると嬉しいです。

少し長くなりましたが、今回も最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。Instagramも頑張っていますので、ぜひ御覧ください。

TRAINER'S GYM(トレーナーズジム) 曙橋店
オーナー兼トレーナーをしています。ホームページはこちら。

パーソナルトレーナー
助政桂多

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