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人文学冬の時代は万国共通?The Chairを見て

 去年の今頃プチ話題になったネットフリックスのThe Chairを見る。Grey's Anatomyで有名になってその後も面白い役を演じ続けているSandra Ohが主役で、伝統ある大学の英語学部の初のアジア人女性として学部長になり、人文学の低迷、男尊女卑、過剰なポリティカルコレクトネス、すなわち現代に翻弄される姿を時にはコミカルに描いている。サンドラ・オーは相変わらずきめ細かい演技をしていて安心して見られるが、時代についていけない老教授たちはカリカチャアだし、学部長のオーが推している俊英は「黒人女性でその構造的差別によって苦労している」ところしか描かれず、人として深く描かれていないのがこの作品の限界を感じさせる。

 さらに気になるのはオーが恋愛関係にあり、そのだらしなさによって学部長の引責問題まで発展する状況をもたらした相手は表層的な社会のルールなど無視するが素晴らしい作品を世に出している無頼として描かれている。それじたいclichéであるのは言うまでもないが、それが魅力的な白人男性が演じていてーしきりに生徒たちにhotと呟かれるー、作品の通奏低音である大学という伝統的組織にある旧弊な男尊女卑、人種差別に対する批判とは矛盾していて、ドラマの制作者たちも制度的桎梏からみんなを解放するのはハンサムで自由奔放な白人男性というこれまでさんざん描かれてきた紋切型に頼っていて自分たちが批判しようとしているものに自分たちも囚われているのでは、思ってしまった。例えばそれを女性に設定し、女性のお騒がせものを十分納得いくようなトリックスターに描くことは出来なかったのか、と番組の批評性が理解できるからこそ、思ってしまったのだよ。ということでまぁまぁの出来ってことでした。

 感心してしまったのはオー自身も韓国系でドラマの中でも韓国系米国人を演じていて、その父親が孫が持っている日本のサンリオのおもちゃに憤慨するが、オーがそれに対して"my father still can't recover from the Japanese occupation"って日帝時代の植民地支配をさらりとそれこそ自虐ギャグを飛ばしているとこだ。それ自体も現代ってことか。


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