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「変わらないために変わり続ける」って、よくよく考えたらどういう意味?

「私たちは変わらないために変わり続けます!」

経営者へのインタビューなどでよくこの言葉を聞くんですが、冷静に考えてみたらふつうに意味不明じゃないですか!?

『一見それっぽい名言感を醸し出してるけど、そんなまやかしにぼくは騙されないぞ!』と身構えていたんですが、今回具体と抽象という本を読んで、謎が解けました。

この本のメッセージのひとつは、『あなたとあなたの友だちで会話が噛み合わないのは、お互いの”抽象度”が違うからだ』というものです。

つまり結論から言うと、冒頭の『変わらないために変わり続ける』という言葉も、前半の『変わらない』と後半の『変わり続ける』で、対象にしている抽象度が違うから、成り立っていたのです。

今回の例だと、前半の『変わらないもの』は会社のミッションや理念という抽象的なもの、そして後半の『変わり続けるもの』は、事業やそれを成功させるための施策といった具体的なものということになります。

もうひとつ、対象にしているものの『抽象度』が違うことによって起こる矛盾を挙げてみます。

よく『ぼくたちは徹底的に顧客の声を拾い上げて、ユーザーファーストな商品を作ります!』という会社を見かけますよね。

ただ一方で、「顧客の声を聞いていたって、本当に良いものなんてできない」という人もいます。

後者の有名な例として出されるのは、アメリカにT型フォードという車を普及させたことで知られるヘンリー・フォードの『もし私が顧客になにを望むか聞いていたら、彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えただろう』という言葉です。

一見矛盾するようなこの2つの言葉も、実は『抽象度』が違うだけで両方とも同じ線上で連続して成立しています。

まず、最初はやっぱり顧客の声を『聞かない』ほうがいいです。

なぜなら、顧客は自分たちが本当に欲しいものを『具体的にしか』答えられないことが多いからです。

そこで作る側は、顧客の求めているものを自分たちでより『抽象化』する必要があります。

上の例で言うと、顧客が欲しいのは『もっと速い馬』ではなく『もっと速く移動できるもの』です。

これはいくら顧客に聞いても出てこないので、スタートの地点では顧客には『聞きません』。

ただ、そこで車を作ってからは、徹底的に顧客の声を『聞きます』

『より速く移動できるもの』という抽象的(=本質的)な価値をよりスムーズに提供するために、『車体はこんな色がいい』や『ハンドルはこれくらいの大きさのほうが握りやすい』など、具体的な要望はどんどん聞いていきます。

これら2つの例から言えるのは、スタート地点や改革が必要なときには『抽象的』な思考が求められ、そこでは『1人(少人数)の確固たる意志』が大事になってきます。

そこからゴールに向かっていくにつれ、改善や環境の変化に応じた柔軟な対応が必要なときには『具体的な』思考が求められ、そこでは大人数の知恵を活用したほうが施策を多角的に検討できです。

一般に斬新な製品や仕組みを作り上げるには「多数の意見を聞く」ことは適しません。
多数の意見はそれぞれの具体レベルに引きずられて、どうしても「いまの延長」の議論しかできなくするからです。
逆に、「いまあるものを改善していく」場面では、なるべく多数の人から多数の意見を吸い上げることが必要になります。

※本中より引用

言葉に起こすと若干そりゃそうだろ感も出るんですが、お互いに会話が噛み合ってないなと感じたときに『それぞれ想定してる抽象度が違うのかも』と疑ってみることは、スムーズんなコミュニケーションのために有効な手かもしれません。

あとひとつ注意すべきなのは、具体か抽象かというのはあくまでも相対的な概念であるということです。

『おにぎり』だって、『鮭のおにぎり』や『昆布のおにぎり』から見れば抽象的ですが、『食べ物』から見れば具体的です。

こっちはものすごく噛み砕いて話したつもりなのに、『もっと分かりやすく具体的に話してよ!』と言われることがあれば、それも広い意味で『それぞれの想定してる抽象度が違う』からです。

『人は究極的には分かりあえない』『言葉は伝わないもの』という諦念を持ってコミュニケーションを取ることが一番ストレスは少ないですが、その上で『それぞれの抽象度は違うかも』ということを念頭に置いて、少しでもお互いの思ってることが正確に伝わる社会になればいいですね。


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