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AIに「クリエイティブ」なことはできない?

中世にローマ数字で計算していた時代は、掛け算は非常に難解なものでした。
でも私たちは、掛け算ができるからといって「すごい」とか「素晴らしい」とは言いません。
それどころか、人間が行うよりもコンピュータに計算させたほうが格段に速いことを知っています。
(引用:オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る)

台湾のデジタル担当政務委員で、コロナ禍において的確な施策を実行したとして注目を集めているオードリー・タンさんの本を読みました。

個人的には、オードリーさん自身のパーソナルな経歴にも興味はあったのですが、それよりもタイトルに入っている「AIの未来を語る」の方に興味があり、「オードリー・タンはAIをどのように捉えているのだろう」ということを知りたくて本書を手に取りました。

最近ちょいと「AIと人間の仕事」についての興味が再燃していて、この前に書いたnoteも「AIと営業」に関する内容でした。


ということで、今回読んだ本のなかで印象に残っている箇所として、まず「AIが開く新しい社会」という見出しの章の内容を取り上げます。

前提として、よく「AIと人間の仕事」みたいなテーマが出てきたときって、「単純な繰り返し作業はAIに任せて、人間はよりクリエイティブな仕事をしよう。クリエイティブな仕事はAIにしかできない」って言説があると思うんですね。

もちろんこれに対する反論もいろんな専門家の方々が述べているのですけど、上記のような「AI=効率化は得意だけどクリエイティブなことは苦手」と「人間=単純な労働料としてはAIに負けるけどクリエイティブなことができる」という対比で語られることもとても多いでしょう。

それに対して、オードリー・タンさんは「AIにクリエイティブな仕事はできないことはない」と述べます。

私は「AIには創造的な仕事ができない」とは考えていません。
たとえば、AIと囲碁を打てば、人間が今まで考えもしなかったような打ち方をAIはたくさん出してきます。

たしかに、AIが囲碁やチェスの世界チャンピオンを倒したときはいっぱいニュースになっていたので覚えている人も多いと思いますが、囲碁やチェスだって、めちゃくちゃクリエイティブなゲームだと思うんですよね。

じゃあ結局AIはクリエイティブなことができるのかできないのかみたいな論争に関して、オードリー・タンさんがどんなふうに考えているのかというと、「そもそもクリエイティブの定義は時代によって変わる」というものでした。

AIが進化する度に人間社会は常に「AIは想像力に欠ける。残された問題は想像力である」と定義しがちです。
要するに、創造力の定義というものは、状況に応じて常に変化するということです。

その例のひとつとして、今日のnoteの冒頭でも引用したようにオードリー・タンさんは「掛け算」を挙げたのですが、たしかに掛け算が発明されたばかりの頃とか、文字を読めたり書いたりできる人たちがまだ一部だけの時代とかに掛け算ができると、「うおー!めっちゃクリエイティブ!」となっていたことでしょう。

ただ、いまの時代に掛け算ができても、特に褒められることはありません。

保育園や幼稚園のころにできたら多少は「すごいねー」と親から褒めてもらえることはあるかもしれませんが、それは「こんなに若いのに」という点に焦点が当たっていて、「掛け算ができること」事態を称賛されているわけではありません。

逆に、中学生や高校生に入って掛け算ができていなかったら、ちょっとバカにされてしまうこともあるかもしれません。

そう考えてみると、「時代や環境によってクリエイティブの定義が変わる」という言説は、それなりにしっくりとくるものがあります。

そして、オードリー・タンさんはこの内容をとてもポジティブな話として捉えています。

なぜならば、AI(=機械)ができることが増えて、それまでクリエイティブだと言われていたことが一般化するたびに、人間はまた新たなクリエイティビティを発見するからです。

私たち自身の創造力の可能性もまた日々高まっているのです。
この状況は相乗効果、あるいは相互学習のようなもので、非常に素晴らしいものだと思います。

「AIにクリエイティブなことはできない」とか「いやできる!」とかって論争にあんまり意味はなくて、「クリエイティブの定義は日々変わる。そして機械が人間にしかできなかったクリエイティビティを習得したとき、人間はその機械からも影響を受けながら、また新たなクリエイティビティを発揮する」という捉え方が、一番しっくり来るのかなと思いました。

競争ではなくて、共存ですね。

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