#09 ニットの型紙のつくり方(胸グセの扱い方)
ニットパタンナーの目線でニットについて書いているこのnote。
今回は、《#08 ニットの型紙のつくり方(基本の”き”)》で書いた内容をふまえて、型紙を作るときパタンナーにとって一番の悩みのタネ《胸グセ》について、ニットでどう扱えばいいか書こうと思います。
ニットの胸グセについては、
「ニットは伸びるから胸グセを考えなくていいって本当?」
「ニットってダーツ見かけないけど胸グセの処理どうしてるの?」
など、いろいろな疑問があるかと思います。私も、もともと布帛の型紙の勉強をしていたので、はじめてニットの型紙を引いたときからずっとどう扱えばいいのか試行錯誤していました。
私自身、ニットは3~12Gまでしか扱ったことがなく、ハイゲージの製品はカットソー以外扱ったことがないので他にも方法があるかもしれませんが、これまでの経験をもとに書こうと思います。
※この記事では、バストの高さが原因で出てくるシワや裾へのドレープだけでなく、前丈の不足分についても併せて胸グセの問題として記載しています。
胸グセの処理は必要?
布帛と同じように胸グセの処理は必要なのか?結論から言うと、必要な場合と不要な場合があります。布帛では必ず考えなくてはいけない胸グセの処理ですが、どうしてニットでは不要な場合があるのかというと、ニット特有の伸縮性とリブなどの編み出しが関係しています。
伸びによって胸の高さがカバーできたり、バストの高さによって裾に出てくるはずのドレープが、編み出しのリブによって抑えられることで胸グセの問題を解消してくれる場合、また、着用した時目立たなかったり、着丈の前後差がありデザイン上良しとする場合は胸グセの処理が不要です。
逆にニットでも伸びにくい素材であったり、袋編み出しのような編み出しが縮まない組織の場合、着用した時に前裾が上がるなどの影響が出ている場合は胸グセ処理が必要になります。
胸グセをどう処理するか
《#02 ゲージとその選び方》でも書きましたが、ニットはゲージが上がる(ハイゲージになる)につれて布帛に近づくため、ニットの胸グセ処理は編まれるゲージや組織によって胸グセの処理の方法が変わってきます。また、カットや成型など、作り方によってもできる方法とできない方法があります。色々方法はあると思いますが、ここでは3つの方法をご紹介します。
・『いせ』で処理する
胸グセの分量を『いせ』で処理する方法です。ローゲージやミドルゲージ、透かし柄など、編み目が大きい場合、いせても編み目の隙間が詰まるだけでシワが出にくいのでよく用います。着用した時前裾が吊り上がってしまうとき、前丈の不足分を脇線でいせてあげると裾が水平になります。
ニットの場合、イセや伸ばしは布帛に比べて縫製で簡単に処理できるので、カットでつくる時でも成型でつくる時でも、この方法で対処できます。ただ、編み目が詰まった組織やハイゲージになるにつれて、ギャザーのようなシワがで出るようになるので注意が必要です。
・分散させて処理する
布帛やカットソーと同様、胸グセ分量を分散して処理する方法です。裾線を直線にする事に注意して、胸グセを分散していきます。いせると目立ったり、分量が多くいせるだけで処理できない場合などにこの方法を用います。
・引き返し編みでダーツとして処理する
カットでは裁断が難しくなるため成型やホールガーメントでしかできませんが、胸グセの分量をダーツとして処理する方法です。パーツごとに編んでつくる、ニットならではの方法になります。
縫製でダーツをとることもできなくはないですが、ニットの場合編み立てする時に引き返し編みでダーツを取ることができます。編み立ての柄組み(=編み地のデータ作り)で操作するので、型紙上はダーツとして書いておき、別途指示が必要になります。
他にも増し目減らし目を用いる方法もありますが、ファッションマークなどが出てきたり編むのが難しくなったりするので、デザイン上の理由がない場合は脇線など目立たない箇所で引き返し編みで処理します。
ローゲージになるほど胸グセは脇線のいせで処理することが多い
これはローゲージ〜ミドルゲージの製品を扱ってきた中での経験の話になりますが、ローゲージ〜ミドルゲージは脇線でいせることが多いです。そもそも前裾の吊り上がりはバストの高さによって吊り上がりますが、ニットの場合、着用時のニットの重さによる垂れ(ダレ)も加わります。
吊り上がり分量=バストの高さ+ダレ分量
度目なども関係するので一概には言えませんが、ローゲージになるほど着用時ダレてきます。なので、胸グセの処理だけでなく、ダレる分量も合わせて処理した方が効率的なので、両方を合わせた分量を脇線でいせることが多くなります。
ローゲージになるほど多くの分量をいせても目立たないですし、1目1目が大きいので、胸グセの分散のような細かい寸法調整は、あまり意味がないです。(1目ずれただけで5mm寸法が変わったりするので)
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どのゲージでも脇線で処理する方法が型紙を引くときも縫製上も一番簡単なので、この方法で対処できない場合に分散させる方法を私は採っていました。
はじめに書いたように、私はあまりハイゲージに触れてこなかったので、ハイゲージの場合は異なるかもしれませんが、何かの参考になればいいなと思います。また、別の方法があれば順次追記していこうと思います。
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