創作小説(18) 朝焼けの爆食い女
「夕焼け」という言葉はよく聞くが、「朝焼け」という言葉はあまり聞かない。
でも、ちゃんと辞書に載っている言葉だし、実際に使われてもいる。
今、三山桜は朝焼けの中にいる。
コンビニでアイスとビールを買い、川沿いのベンチに座って一心不乱に食べている。
もう少しで6缶目のビールを飲み終わる。
市役所から民間企業に転職して3ヶ月。
未だ職場の空気になじめないでいる。
「聡美は明美と彼氏を奪い合ったから基本ダメ。」
「でも明美は聡美のことを許してるから明美からはOK。」
「久美はうるさいよ?だから聡美も明美もダメ。」
「だけど、聡美も明美も相手にしていないから、聡美と明美から久美にいくのはOK。」
昨晩の飲み会の議題である。
ええい、面倒臭すぎる!
女子中学生、いや女子高校生か!
いやいつになっても女は面倒臭い生き物なのだ!
市役所を退職した理由は事務職での仕事が多くなり、理想とするソーシャルワークの仕事が減ったというのが一番大きい。
自分だけがお局様みたいに年を食ってしまったというのもある。
でも一番は、失恋のショックを引きずってしまって仕事に打ち込めなかったというのが大きい。
しかし、転職先の民間企業では、今までさほど気にしていなかった「女らしい」悩みや相談の数々が待っていた。
今日は土曜日。
ゆっくり休もう。
川べりに座っていると朝焼けの空が浮かぶ。
失敗ばかりの人生だけどもいつか幸せになりたいと思う。
今日は帰って化粧を落として寝よう。
一晩ファンデーションにさらしたままにした肌に空気を与えてやりたい。
ペリペリとファンデーションを落とし、シャワーを浴びよう。
アイスに手をのばす。
ペリペリと蓋をめくると、甘い世界が広がる。
外からペリペリとはがしていくような食べ方が桜は気に入っている。
川べりに座って一心不乱にアイスを食べた。
美味しい。
どこか懐かしい。
アイスを食べ終わった後、お日様とビールを一口、乾杯して飲んでシメにした。
食べ終わった後、「さてと」と言い、パッパッと土をはらって歩き出す桜だった。
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