木部二郎

中国武術を中心に、中国関係のことに興味があります。暇つぶしにご覧になっていただければ幸…

木部二郎

中国武術を中心に、中国関係のことに興味があります。暇つぶしにご覧になっていただければ幸いです。

マガジン

  • 日本剣術の伝承に関する個人的見解

    日本の剣術に関する様々な伝承について、個人的見解を垂れ流しています。

  • 『陳氏太極拳図説』私訳

    勉強も兼ねて『陳氏太極拳図説』を日本語に訳してみました。

最近の記事

『兵法霊瑞書』「兵法手継」について

義経の物語にはしばしば中国伝来の四十二巻の兵法書が登場するのですが、実はこの兵法書は実在し、「張良一巻書」「兵法秘術一巻書」「陰符経」「義経虎の巻」等の名称で各地に所蔵されています。 もちろんこの書を読んでも超人的な能力を身につけることは不可能ですが、兵法の秘伝書として戦国武将にも読まれ、中世の日本において一定の認知を得ていました。そうした現実世界での「四十二巻の兵法書」の受容が物語の世界に反映された結果、義経の兵法修行譚が成立しました。 その概要は、有馬成甫・石岡久夫編

    • 素書の由来について

      義経の物語にはしばしば中国伝来の四十二巻の兵法書が登場するのですが、実はこの兵法書は実在し、「張良一巻書」「兵法秘術一巻書」「陰符経」「義経虎の巻」等の名称で各地に所蔵されています。 もちろんこの書を読んでも超人的な能力を身につけることは不可能ですが、兵法の秘伝書として戦国武将にも読まれ、中世の日本において一定の認知を得ていました。そうした現実世界での「四十二巻の兵法書」の受容が物語の世界に反映された結果、義経の兵法修行譚が成立しました。 その概要は、有馬成甫・石岡久夫編

      • 「張良一巻書」という語の由来について

        義経の物語にはしばしば中国伝来の四十二巻の兵法書が登場するのですが、実はこの兵法書は実在し、「張良一巻書」「兵法秘術一巻書」「陰符経」「義経虎の巻」等の名称で各地に所蔵されています。 もちろんこの書を読んでも超人的な能力を身につけることは不可能ですが、兵法の秘伝書として戦国武将にも読まれ、中世の日本において一定の認知を得ていました。そうした現実世界での「四十二巻の兵法書」の受容が物語の世界に反映された結果、義経の兵法修行譚が成立しました。 その概要は、有馬成甫・石岡久夫編

        • 太公望と黄石公の兵法書について

          義経の物語にはしばしば中国伝来の四十二巻の兵法書が登場するのですが、実はこの兵法書は実在し、「張良一巻書」「兵法秘術一巻書」「陰符経」「義経虎の巻」等の名称で各地に所蔵されています。 もちろんこの書を読んでも超人的な能力を身につけることは不可能ですが、兵法の秘伝書として戦国武将にも読まれ、中世の日本において一定の認知を得ていました。そうした現実世界での「四十二巻の兵法書」の受容が物語の世界に反映された結果、義経の兵法修行譚が成立しました。 その概要は、有馬成甫・石岡久夫編

        『兵法霊瑞書』「兵法手継」について

        マガジン

        • 日本剣術の伝承に関する個人的見解
          36本
        • 『陳氏太極拳図説』私訳
          14本

        記事

          日本文学における張良のイメージ

          義経の物語にはしばしば中国伝来の四十二巻の兵法書が登場するのですが、実はこの兵法書は実在し、「張良一巻書」「兵法秘術一巻書」「陰符経」「義経虎の巻」等の名称で各地に所蔵されています。 もちろんこの書を読んでも超人的な能力を身につけることは不可能ですが、兵法の秘伝書として戦国武将にも読まれ、中世の日本において一定の認知を得ていました。そうした現実世界での「四十二巻の兵法書」の受容が物語の世界に反映された結果、義経の兵法修行譚が成立しました。 その概要は、有馬成甫・石岡久夫編

          日本文学における張良のイメージ

          義経と四十二巻の兵法書

          源義経を主人公とする説話には、「義経が中国伝来の兵法を習得」した語るものがあります。 『義経記』巻二「義経鬼一法眼が所へ御出の事」では、義経が鬼一法眼から兵法の秘伝書を盗む説話が語られます。この兵法の秘伝書とは、中国から伝来したものであり、かつて周の武王を助けた太公望や、漢の高祖劉邦の功業を支えた張良・樊噲、そして日本の坂上田村麻呂、平将門、藤原秀郷らが読んだものであり、この兵法書を読むことで超人的な能力を身につけることができるとされています。 幸若舞『未来記』では、中国

          義経と四十二巻の兵法書

          義経の天狗伝説の展開

          義経の天狗伝説剣術流派の開祖伝説の中には、「天狗から兵法を習う」という伝承がしばしば見られます。「天狗から兵法を習う」という伝説で最も有名なのは義経の天狗伝説でしょう。 林羅山の『本朝神社考』巻六「僧正谷」には、江戸時代初期に存在した義経の天狗伝説を次のように紹介しています。 歴史資料における義経 源義経の生涯については、鎌倉幕府の公的記録である『吾妻鏡』が最も正確と考えられます。『吾妻鏡』で義経が最初に登場するのは、治承四年十月二十一日の条、二十二歳の義経が黄瀬川の陣屋

          義経の天狗伝説の展開

          鞍馬天狗伝説と魔仏一如思想

          近世以前の日本には、「剣術流派の開祖が天狗から兵法(剣術)を習った」という伝承が複数ありました。しかし、そうした伝承は江戸時代の知識人によって嫌悪され、それらの伝承が捏造であることを証明しようとする言説がしばしばありました。そうした江戸時代知識人の意見が本当に妥当なものなのかを確かめるために、義経の天狗伝説を中心に取り上げ、天狗伝説の生成と拡大の過程を検討したいと思います。 義経にまつわる伝説が広まった経緯については、古典文学研究の世界で成果が積み重ねられています。そこで、

          鞍馬天狗伝説と魔仏一如思想

          『異本義経記』

          近世以前の日本には、「剣術流派の開祖が天狗から兵法(剣術)を習った」という伝承が複数ありました。しかし、そうした伝承は江戸時代の知識人によって嫌悪され、それらの伝承が捏造であることを証明しようとする言説がしばしばありました。そうした江戸時代知識人の意見が本当に妥当なものなのかを確かめるために、義経の天狗伝説を中心に取り上げ、天狗伝説の生成と拡大の過程を検討したいと思います。 義経にまつわる伝説が広まった経緯については、古典文学研究の世界で成果が積み重ねられています。そこで、

          『異本義経記』

          天狗はいつから鳶になったのか

          現在天狗のイメージとしては、赤い顔で鼻が長く、山伏姿で高下駄を履き、手には団扇を持つ姿が定着しています。他に烏天狗と呼ばれる鷲鼻で羽を持つ姿も知られています。 しかし、もともと「天狗」という語は中国の古典に由来するものであり、中国では流星または彗星の尾の流れる様子が「天狗」と呼ばれました。 『山海経』「西山経」章莪山の条には、 とあり、また『史記』「天官書第五」には とあり、天狗は形状が大きな流星のようで音を発して飛び、地上に降り立ったときは狗に似て炎を発し、その炎は

          天狗はいつから鳶になったのか

          能『鞍馬天狗』

          近世以前の日本には、「剣術流派の開祖が天狗から兵法(剣術)を習った」という伝承が複数ありました。しかし、そうした伝承は江戸時代の知識人によって嫌悪され、それらの伝承が捏造であることを証明しようとする言説がしばしばありました。そうした江戸時代知識人の意見が本当に妥当なものなのかを確かめるために、義経の天狗伝説を中心に取り上げ、天狗伝説の生成と拡大の過程を検討したいと思います。 義経にまつわる伝説が広まった経緯については、古典文学研究の世界で成果が積み重ねられています。そこで、

          能『鞍馬天狗』

          御伽草子『天狗の内裏』

          近世以前の日本には、「剣術流派の開祖が天狗から兵法(剣術)を習った」という伝承が複数ありました。しかし、そうした伝承は江戸時代の知識人によって嫌悪され、それらの伝承が捏造であることを証明しようとする言説がしばしばありました。そうした江戸時代知識人の意見が本当に妥当なものなのかを確かめるために、義経の天狗伝説を中心に取り上げ、天狗伝説の生成と拡大の過程を検討したいと思います。 義経にまつわる伝説が広まった経緯については、古典文学研究の世界で成果が積み重ねられています。そこで、

          御伽草子『天狗の内裏』

          「気」ってなんだろう?ー武術愛好家のための中医学入門

          日本武道、そして中国武術という東洋発祥の格闘技では、「気」という概念が重要なものとして位置づけられています。 ある中国武術家は、東洋の格闘技と西洋の格闘技を比較して、西洋の格闘技が筋肉の動きを中心に考えるのに対し、東洋の格闘技は「気」の働きの中心に考え、それが東洋の格闘技の特徴である、と述べています。 しかし、日本において、「気」とはなにかについて体系的な説明は少なく、そのため「気」という言葉は広く知られていても、その実態は曖昧模糊としています。 その結果、各武術の具体的な動

          「気」ってなんだろう?ー武術愛好家のための中医学入門

          武術を練習して強くなれるのか?

          武術を練習する目的は人により様々ですが、一番多い目的は「強くなりたい」ではないかと思います。 しかし、武術を練習して本当に強くなれるのでしょうか? 長い時間練習をしているのに、思うように上達できないことがよくあります。 一方で、入門して日が浅いにも関わらず、短期間で上達する人もいます。 一体、この差はどこから生まれるのでしょうか? 私なりの考えを述べてみたいと思います。 結論結論から述べると、上達の速さは次の公式により決まると考えます。 上達の速さ=才能✕指導者✕努力

          武術を練習して強くなれるのか?

          陳氏太極拳図説(9)八卦変六十四卦図

          八卦変六十四卦図右は八卦が太極両儀四象八卦に過ぎないことを示している。六十四卦は変化に過ぎない。すなわち『周易』「繫辞伝」の「八卦は列を成し、象は其の中にある。よりてこれを重ねて、爻はその中にある。剛柔が互いに推して、変はその中にある」である。たとえば、乾は陽剛であり、乾◯◯◯の下の一つの爻を陰に変えれば巽◯◯●であり、二つの爻を陰に変えれば艮◯●●であり、三つ爻を陰に変えれば坤●●●である。坤は陰柔であり、坤●●●の下の一つの爻を陽に変えれば震●●◯であり、二つの爻を変えれ

          陳氏太極拳図説(9)八卦変六十四卦図

          陳氏太極拳図説(8)八卦生六十四卦論

          八卦生六十四卦論これは八卦の上に八卦を加えて六十四卦になったものであり、いずれも自ずからそのようになるのである。試みに見てみるに、乾一兌二離三震四巽五坎六艮七坤八は八卦の与数である。どうして人為的に無理やり合わせようか。一は乾である。そのため本卦の一位の上に現れるのである。二は兌である。そのため本卦の二位の上に現れるのである。三が離であり、四が震であり、五が巽であり、六が坎であり、七が艮であり、八が坤であるのは、そのようでないものはない。ましてや乾の一宮は八卦の次序である。そ

          陳氏太極拳図説(8)八卦生六十四卦論