のぼりのエスカレーターに立っていた。

5段前に男性が立っていて、
ちょうど私の目線の高さに足首が見えた。

前方を見るしかないので、イヤでも筋ばった足首が目に入る。


その男性はくるぶしまでの靴下を履いていて、後ろから見れば肌が露出している。それを見ながら私は「小さなころはこの足で学校を駆けまわったんだろうか」と思っていた。

エスカレーター。

目の前に他人の足首である。

そんな足首を見ながら「あれ？」と思った。

アキレス腱があるな。

人の足首にはアキレス腱がついている。

当然、その男性にもアキレス腱がついていた。アキレス腱は私にもある。足があるなら、おそらくほとんどの方にアキレス腱があるはず。

おれ、アキレス腱ないんだよね、
という人には会ったことがない。

これは不思議だ。

目は誰にでもある。鼻も口も。手も爪も。臓器は目に見えないけど、ある人はあるし、ない人はない。ない人は少ない。

アキレス腱は？

誰にでもある。

なんか不思議だ。

なんでアキレス腱があるんだろう。
なにかを繋いでいるんだろうな。アキレス腱が切れた、という人を何度か見たことがあるが、あれは痛そうだった。

エスカレーターに乗りながら、表情には出さずにニヤニヤする。なんでみんなアキレス腱があるんだ？　なんでみんな普段は、アキレス腱のことなんて考えないんだろう。

でもなぁ、腎臓のことも考えないしなぁ。

心が笑けてきた。

いま目の前に立っている男性は、アキレス腱のことなんて1ミリも考えてない。でも、後ろにいる私はアキレス腱について真剣に考えている。

noteのアプリを起動して、下書きに「なんでみんなアキレス腱あんの？」ってタイトルを書くくらい真剣。

私はいつだって真剣。

そういえば、

アキレス腱は動物にもあるな。

むかし、犬を飼っていた。

わんわんの後ろ足を見て、小さなころの私は「あ、わんわんにもアキレス腱っぽいものがあるんだなぁ」と思って、さすったものである。

あれ、そもそもアキレス腱って……

たしか、アキレスってのは古代ギリシャ神話の英雄だよな。英雄の弱点みたいな。弁慶の泣き所みたいな、それがアキレス腱の由来なんだよな。

おかしいな。

古代ギリシャの話が由来なのに、なんで日本人はアキレス腱をアキレス腱って呼んでるんだろう。アキレスの影響力ってすごくないか？

だって、弁慶の泣き所はスネだけど、スネのことを私たちはスネって呼ぶじゃないか。弁慶の「ベ」の字も出てこない。

エスカレーターに乗って、目の前に誰かの足首があると、100回中1回はこう思う。

アキレス腱はマジで大事だ。

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