撮った写真を非表示にできる機能がある。

このフォルダはロックがかかっているので滅多に開くことはない。

見たくない写真、ではなく
見られたら困る写真を、私はここにいれている。
消したくはないけれど、人にも見られたくない。
後ろからスマホをのぞいてくる美容師さんとか、
この写真見て〜と見せたら勝手にスワイプする人とか、
見られるリスクは案外多いから、万が一にも見られないように。

なんだか今夜は眠れそうにないので、久しぶりに開いた。

眼鏡にすっぴんだからか、なかなか顔認証が反応しない。

2、3度失敗し結局パスコードを入力。

開いたそこには、懐かしい写真たち。

ほとんどが、直近でお付き合いをしていた恋人との写真。正確には元恋人だけど。
そこにいる彼女は、今の私と本当に同一人物なのだろうか。
髪だって綺麗に巻いて、メイクも丁寧、お洋服だって可愛いのを着ている。
幸せそう。

あぁ、こんなところ行ったなぁとか
この人よくこのキャップかぶってたなぁとか
○○のときの写真だなぁとか
少しだけ、思い出に浸ったあと全て消した。
復元できないよう、削除項目からも完全に。

私こんな幸せそうに笑ってたのね、と驚いて、少し寂しくなって、すっきりした。

未練があったわけではなく、まだお付き合いしていた時に非表示にしていて、そのまま別れて顔を見るのがなんとなく嫌でそのままになっていた。

写真のように、記憶も非表示にできたらいいなぁ。
忘れなくてもいいけど、思い出したくないことがたくさんある。
あまり人に褒められるような綺麗な生き方はできなかった。
たとえ恋人だろうが、ネット上だろうが、完全に匿名だろうが、言えないことや聞かれたら困ることはたくさんある。
忘れなくていい。なかったことにできなくていい。
だけど、思い出したくない。
そんなことばかり。

振り返ったそこが舗道でも、泥濘でも、どちらでもいいのだけど、目を背けて生きていく権利があればいいなと思う。