量産

量産型女子に見る現代性

最近ではめっきり聞かなくなりましたが、現代の女子大生などの容姿の特徴を表す言葉として「量産型女子」というものがあります。髪色や髪型、メイク、ファッション(言動を含む場合も有り) などがまるで大量生産されたクローンかのように類似している様を指した言葉で、多くの場合批判的な意味合いで使われます。

今回はこの「量産型女子」について、現代の他の「普通」を目指すファッションや、かつての女子大学生のファッションと比較することでその特色、現代性をゆるゆると探って行ってみたいと思います。

量産型女子ファッションはベージュやピンク色などの柔らかい色味が中心で、素材もふわふわと柔らかいものが好まれます。シフォン素材のミニスカートなどがその代表格と言えます。ヘアメイクでは明るすぎない茶髪が胸元まで程度の長さで巻かれていて、メイクはナチュラル風であることが多いです。全体的に以前から女性のファッションの一つの定番として着用されていたようなアイテムやスタイルを踏襲していることが特徴です。ここ数年で新たに登場したトレンドアイテムではなく、「流行ではないけれど前からずっとあったファッション」が現在女子たちの間で「まるで流行かのように」頻繁に着られているということが、この「量産型女子」という現象の不思議な点なのです。

同じように定番のファッションでありながら近年話題となったものとして「ノームコア」が挙げられます。「究極の普通」などと訳されることもあるノームコアですが、量産型女子との大きな違いとしては「シンプルなスタイルの中に自分らしさを追求する」という点が挙げられます。量産型女子は周囲と同じであることを良しとしていますが、ノームコアは「普通なのに個性を感じる」スタイルを目指しています。また、量産型女子のファッションはこのように話題になる前から雑誌などで「モテファッション」として紹介されていたスタイルと酷似しています。量産型女子とノームコア の大きな違いは、他者(周りの女子/男性の目)を意識しているのか、自分を意識しているのかの差に見られます。

量産型女子登場以前の女子大生のファッションの例としては、70年代後半に女子大生の間で流行した「ハマトラ」があります。ハマトラは横浜トラディショナルを略した言葉で、神戸発のニュートラに対抗する形で雑誌「JJ」の企画で生み出された流行です。キャンパス・ファッションに限定したカジュアルスタイルで、その基本的な組み合わせはポロシャツにカーディガン、タータン チェックの巻きスカート、ハイソックス、パンプスでした。また、キタムラのバッグ・ミハマのシューズ・フクゾーの洋服は三種の神器と呼ばれました。量産型女子のスタイル同様ある程度定番の組み合わせです。しかし、量産型女子の特徴が全体的な「イメージ」なのに対し、ハマトラは「アイテム」が決まった組み合わせであることや代表するブランドが存在する点、更に雑誌から生まれた言葉であるという点で大きく異なります。量産型女子同様多くの女子大生が同じハマトラファッションを身に纏っていましたが、流行として捉えられていたのにはこのような背景があったためではないでしょうか。

量産型女子の登場以前にも、周りと同じファッションに身を包む女子大学生は存在しましたが、それは「流行のものを身に付ける」という選択でした。現代はファッションもその流行も多様化し、以前のような目立った大流行がなかなか起きなくなっています。例えば柄や素材、アイテムなどの流行はありますが、全身のコーディネートで決まった形をみんながするという流行は少なくなっています。雑誌で流行アイテムの「着回し術」などの特集が頻繁に組まれていることもその象徴のように感じられます。そんな中でかつてのような「このスタイルをしていれば間違いない/流行に外れていない」という姿を失った女子大学生たちが選んだファッションが量産型女子だったのではないでしょうか。そのような「周囲からの評価を気にする」中で生まれたファッションであるために、ノームコアとは異なりモテファッションをベースにしたスタイルとなっていると考えられます。

かつて日本のファッションには大型の流行があり、それに沿っていれば周囲から流行遅れとされることはありませんでした。しかし現代では流行すらもあまりにも多様化してしまっています。その現代性から、量産型女子のファッションがお手本として必要になり、生み出されたのではないでしょうか。

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