JW26 雄叫び、再び
【神武東征編】EP26 雄叫び、再び
長髄彦(ながすねひこ)の追撃から逃れ、茅渟(ちぬ)の男水門(おのみなと)に辿り着いた、狭野尊(さの・のみこと)(以下、サノ)一行。
この地で、長兄の彦五瀬命(ひこいつせ・のみこと)(以下、イツセ)は息を引き取ったのであった。
ここで次兄の稲飯命(いなひ・のみこと)と三兄の三毛入野命(みけいりの・のみこと)(以下、ミケ)が解説を始めた。
稲飯(いなひ)「男水門は、現在、天神の森とも呼ばれ、市民が植林した3000坪の松林が生い茂っているじ。それを守護する目的で、男神社(おのじんじゃ)が建ってるっちゃ。」
ミケ「男神社は、今の大阪府は泉南市(せんなんし)男里(おのさと)にあるっちゃ。兄上が雄叫びを上げたので『おたけびの宮』とも呼ばれてるっちゃ。」
稲飯(いなひ)「亡くなられた地は、男神社から北に1キロほどの場所にある、浜宮(はまみや)と伝わっているじ。同神社の摂社(せっしゃ)で、天神の森のすぐ傍っちゃ。」
ミケ「ちなみに、泉南市と阪南市(はんなんし)の両市域には、七塚(ななつか)と呼ばれる塚があり、七つのうち、三か所が残ってるっちゃ。先の戦いで亡くなった兵士たちを葬(ほうむ)った塚で、近年まで七塚参りをおこなう習慣があったそうやじ。」
小柄な剣根(つるぎね)と息子の夜麻都俾(やまとべ)(以下、ヤマト)も解説に加わった。
剣根(つるぎね)「阪南市にあるのが、平野山(ひらのやま)と山中新家(やまなかしんけ)の二つにござる。」
ヤマト「平野山は長楽寺(ちょうらくじ)の境内に、山中新家はHABU・モータースポーツショップさんの裏手の畑の中にありまする。」
剣根(つるぎね)「泉南市のものは、馬場2丁目の廻鮮鮨屋喜十郎さんの駐車場に隣接しているそうですぞ。」
サノ「解説も良いが、稲飯の兄上も、ミケの兄上も、イツセの兄上が亡くなられて、悲しくはないのですか? 皆も悲しくはないのか?」
稲飯(いなひ)「まだ悲しくはないっちゃ。」
ミケ「じゃが(そうだ)。」
剣根(つるぎね)「そうですな。」
ヤマト「まだ早い・・・とも言えますな。」
サノ「早い?」
イツセ「じゃが(そうだ)。わしはここで死んでいるが、別のところでも死んでるんやじ。」
サノ「なっ!? 兄上!? 亡くなられたのでは!?」
イツセ「実は・・・男里の伝承では、わしは船出できるまでに回復し、村人と別れたことになってるんや。そのとき、わしは村の者たちに石を手渡して、こう言った。」
サノ「な・・・何と?」
イツセ「これ、わが御霊(みたま)として祀(まつ)れ。されば末永く、汝(いまし)らの子孫を守らん。」
サノ「そ・・・それで男神社が創建されたのですな?」
イツセ「じゃが(そうだ)。そして、わしを介抱してくれた村の者たちは、わしの右側に坐っていた家は右座、左側にいた家は左座と名乗り、明治前までは神社の神職も務めてたんやじ。今も、七塚の保存などに尽力してくれちょる。ありがたい話やじ。」
稲飯(いなひ)「それでは、説明が終わったところで・・・。兄上! 次の死亡地に向かうっちゃ。」
サノ「次の死亡地・・・。」
イツセ「すまんな、サノ。感動の別れとなる場面で、実は伝承がいくつも・・・というのは・・・。」
サノ「それは仕方ありませぬ。じゃっどん、お別れとなるのは確かなのですな?」
イツセ「傷が深く、中(なか)つ国(くに)まで、もちそうにはないからな・・・。」
サノ「あ・・・兄上・・・(泣)。」
イツセ「泣くな。泣くひまがあったら、わしの敵(かたき)を討ってくれ。」
サノ「わ・・・分かりもうした。」
イツセ「ちなみに、雄叫びも、もう一回やるかい(から)、覚悟しちょってくんない。」
サノ「は?」
イツセ「実は・・・和歌山県は紀の川河口近くにある、水門吹上神社(みなとふきあげじんじゃ)も雄叫びを上げた地として伝わっちょるんや。」
サノ「そこで、もう一回、叫ぶと・・・。」
こうして、一行が紀の川河口付近の水門吹上神社(みなとふきあげじんじゃ)に到着すると、イツセは予定通りに雄叫びを上げたのであった。
イツセ「慨哉(うれたかきや。意味:残念だ)! わ・・・わしは・・・ますらおでありながら・・・卑(いや)しい賊の手にかかり・・・仇(あだ)も討てずして死ぬとはっ!」
一同「・・・・・・。」×12
イツセ「嗚呼、スッキリした。」
サノ「これから死ぬ人には見えませぬ。」
イツセ「ちなみに、水門吹上神社があるのは、現在の地名でいう和歌山市の小野町(おのちょう)っちゃ。『湊本(みなとほん)えびす』とも呼ばれてるっちゃ。覚えておいてくれ。」
稲飯(いなひ)「兄上、それだけじゃないっちゃ。境内には男水門顕彰碑も立ってるじ。」
イツセ「そうやったな。そこも覚えておいてくれ。」
サノ「兄上・・・これで、本当にお別れですか?」
イツセ「いや。まだや。もう少し、南に向かうぞ。」
サノ「は? 兄上?」
彦五瀬命は本当に死ぬのであろうか?
次回に続く。
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